表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣破壊  作者: 上総海椰
5/22

2-1 街道をゆく

すれ違う人はいない。

ヴァロたちは聖都コーレスへ向かって街道を進んでいた。

ヴァロたちの進む平原は、三百年前に第二次魔王戦争時の主戦場になった場所である。

掘り返せば人やら魔物やらの骨ばかりが出土し、霊をみたなどというよくない噂も多くあり、

誰も気味悪がってこの地に近づこうとはしない。

住処のない盗賊すら寄り付かず、強欲な商人ですら迂回するぐらいである。

あえて使う人間がいるとすればよほどの変わり者か、単に何も知らないのかどちらかであろう。

二か月前にキールとともに聖都コーレスに向かうために使った道でもある。

ヴァロも怖くないわけではなかったが、何度も使っているためにその感覚は薄れている。

横ではフィアがうとうとしてヴァロによっかかっていて、荷台ではドーラが荷物と一緒に寝ている。

フィアは昨日の夜から寝てないという。ヴィヴィと一緒に荷造りをしていたためだ。

ドーラも年末から公現祭の準備で忙しかったという。

「最近仕事漬けだったし、こういうのんびりしたのも悪くないネ」

そういうとドーラは荷台の上に引っ込んでしまった。

そのあとすぐに寝息のようなものが聞こえてきた。

のんきなものである。


今は冬だが周囲を山に囲まれているため、ヴァロの属するマールス騎士団領は天候がそれなりに良い。

空の青はどこまでも澄んでいて、退屈で平和なのどかな一幕。

加えて馬車の規則的な振動は眠気を誘うには十分すぎるものであり、

ヴァロは必死に眠気に抗っていた。

このままではまずいので、朝のことを思い出すことにした。

翌朝、ヴァロは荷物を積み込むために少し早めにヴィヴィの家を訪れた。

「ヴァロ、おはよう」

「あ、ああ、おはよう」

フィアにつられてヴァロも挨拶をする。

フィアの背後には大きな瓶が二つほど浮いている。

その光景はあまりに異様なものだった。

フィアが魔法使いだと知らなければ許容できるものではないだろう。

何も知らない一般人から見れば卒倒ものだ。

「あまり近づかないで?まだ力のコントロールに慣れたわけじゃないから」

「そ、そうか」

ヴァロはフィアの言葉に思わず後ずさる。

自分の体重ぐらいの瓶樽が落ちてきて無事ではすまないだろう。

「魔法はこのフゲンガルデンでは使えないんじゃなかったのか?」

「結界の力を借りてる。式を使わないからイメージみたいなもの」

このフゲンガルデンには魔王を封じるための結界が張られている。

その効力にはいくつかあるらしいが、その一つに一切の魔法の使用を制限するというものがある。

そのために魔法のもとになる式は無効にされてしまうという。

その代わりに彼女たち聖堂回境師と呼ばれる結界の管理者は、この結界の力を自在に使えるという。

ヴィヴィとフィアはこの結界の唯一の管理者である。

昨日ヴィヴィの使っていた使い魔もその原理だという。

気が付けばフィアはその瓶を馬車に運び終えていた。

「便利なものだな」

「最近、細かい力の使い方までできるようになってきた。

ヴィヴィは私よりも繊細な力の使い方ができる。私ももっと修行しないとね」

「ああ、そうか」

今更ながら彼女たちの力を再認識させられる。

「それじゃ、ヴァロは小物の運搬をお願い」

「了解」

ヴァロは家の中に足を踏み入れた。

家の奥ではヴィヴィが搬出するリストのチェックを行っていた。

真っ赤な髪は後ろで束ねられている。

「おはよう。朝から精が出るな」

「おはよ。今回は無理言ってごめんなさい」

手にした紙から目を離すことなくヴィヴィは挨拶を返した。

周囲には彼女の使い魔四体がせっせと動き回っている。

どれもこれも即席で作ったらしく、見るからに手作りの木彫りの人形そのものだ。

人形を着飾らないという点において、聖都コーレスのニルヴァとは対照的ではある。

「ヴィヴィ、ひょっとして昨日から寝てないとか?」

「まあね、資材の瓶詰、代金の算出、細かい調整とか手がいくらあっても足りないぐらい。

こういう時に弟子をもう二三人持っていたほうがよかったと心底思うわ。

フィアが数人分働いてくれているから助かってはいるけど」

彼女は筆を止めることなく愚痴をこぼす。

その姿は商人のそれである。

「それは?」

「かかった材料の費用を算出してる。もちろんかかった人件費や輸送費は別途請求させてもらうつもり」

「容赦ないな」

「慈善事業じゃないのだから、使った分はあとでまとめて請求させてもらうわ。

そうじゃないとフェアじゃないし、何よりあっちも予算出てるんだからね」

聖都コーレスのシンボルである時計台の復旧にニルヴァはかかりっきりである。

「そうですか」

ヴァロは横で肩を竦めた。

「それじゃ、出入り口にまとめてある小瓶から運んでもらえる?」

ヴァロはヴィヴィの言葉に従って小瓶を運ぶことにした。


いずれ別れが来るのは知っている。

彼女と自分たちでは住む世界が異なるのだ。

生きる時間も世界の価値観も全く違う。

今ここで交わっていたとしても、永遠にそのままであり続けることはできない。

ただヴァロはまだこの少女の保護者でありたいのだと思う。

それはヴァロのエゴでもあった。

「ヴァロどうしたの?」

荷物を運んでいるフィアと視線が交わる。

「なんでもない」

彼女はどう思っているかは知らないが、この時間が少しでも長く続いてくれることを祈った。


「やあ、荷物の運び出しは終わったカイ?」

荷物の運び出しが終わるのを見計らったかのように、ドーラがひょっこりと荷台の中から顔を出す。

「ドーラ今までお前なにしていたんだ?」

ヴァロは非難の目つきでドーラを見る。

「荷台で寝てたヨ」

ヴァロの質問に悪びれもなく答えてくる姿にヴァロは頭を抱えた。


気づくと目の前の道端の景色が歪んでいる。

「…光が歪んでる?」

ヴァロは目をこすってもう一度見たが、その歪みはそのまま道の脇にある。

どうやら見間違えでないようだ。

ヴァロたちの乗る馬車はその歪みの脇を通り過ぎていく。

「ヴァロどうしたの?」

横で寝ていたはずのフィアが目をこすりながらヴァロに聞いてくる。

「すまない、少し待っててくれるか?」

不思議に思い、ヴァロは馬車を止めてそれに近づく。

その場には歪みのようなものが確かにあった。

やはり見間違えではない。ヴァロはその奇妙なものに触れてみようと手を伸ばす。

このときどうしてそんな行動をしたのかわからない。

馬車での長旅に飽きていたのか、それとも刺激を求めてそんな行動をしたのか。

バチンという音とともに、電気のようなものが走り、人影が姿を現す。

目の前に現れたのは全身布で覆っている謎の人影。

背丈はヴァロよりも少し低いだろうか。

ヴァロの視線が布の中からのぞかせる目と交わる。

その出会いは新たな事件の始まりを意味していた。

本編スタート。

この話はササニーム編の序幕です。

ここで出会った人、ここで起こった事件、すべてが実はつながっています。

さあ、楽しむぞw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ