第七話 偵察
アリスが、赤面しつつも学校へ向かっていたその頃。
ミラとユリアーナは、アリスの通う学校へと昨日と同じ道を歩いていた。
「さすがに昨日の今日で無いとは思うけれど……」
ミラはアリスがまたいじめられないかと心配になり、こっそり見に行く事にしたのだ。
「あのような卑劣な事をする人は、ちょっとやそっとでは止めませんよ。専門家もそう言っています」
「そうなの? それになんかユリアーナ、手厳しいわね」
「教育省に知り合いがいるので調べて貰いました。それに、許せませんから……」
「なるほどね」
ユリアーナは王立の最高峰の学校を首席で卒業した超優等生で、同級生の友人や知り合いに国の機関で働く人が多く、様々な事を知る事ができる。
それに、近衛騎士として、王族を支える立場の者として、いじめを許せないのだ。
「あっ、見えて来たわね」
時刻は丁度一時間目の授業が始まる頃だ。
「一応近衛騎士を三人、学校周辺へ配置しています。アリス様や他の生徒、その家の者に何かがあったりした場合にすぐ対処出来るようになっています」
「私達はどうする?」
「ミランダ様の光学迷彩魔法を使って張り込みましょう」
「その手があったわね!」
光学迷彩魔法とは、その名の通り、姿を隠して行動する事が出来る魔法だ。
取得が難しく、ミラやアリスが持つA-ランク程度であっても、普通はまともに使いこなせない。
それほどの魔法を簡単に使って見せるミラは、普通のA-ランクの魔法使いを卓越しているとも言える。
光学迷彩魔法は、基本一人にしか使用出来ないが、魔法の発動時、他の人や物に触れていると、使用する人の能力にもよるが一緒に透明になる事も出来るのだ。
「最上級光学迷彩魔法! 」
ミラの声によって、ミラとユリアーナには光学迷彩魔法が掛かり、周囲からは二人の姿が見えなくなった。
しかし全ての魔法が万能という訳ではない。
勿論この魔法にも何らかの行動の自由不自由が発生する。
ミラほどの能力があれば、
・長時間使用が可能
・移動の自由
・効果中の他魔法の使用可
などの効力は発揮出来るが、
・他の人に触れたら効果解除
・対象に掛かっている能力以上の光学迷彩魔法を使用している者には効果無し
・他人の最上級発見魔法などの魔法の受動で効果解除
などの弱点がある。
しかし、A-ランクを卓越したミラの光学迷彩魔法を破れるほどの実力者はそうそういない (いたとしても、軍や近衛騎士など)ので、この場では最強の精度を誇る。
魔法が掛かった事を確認したミラ達は、授業中の静かな学校へと侵入した。
校舎内では、教師が授業をする声と、生徒の発言する声が時折聞こえるだけ。
ミラは、廊下と教室の間の壁の一部がガラスになっている所から教室を見渡し、
「みんな真面目に授業を受けているわ」
と感心していた。
「普通、どこの学校もそうですよ? まあ、王立魔法学園は違うかもしれませんが……」
「学園は、みんな活発すぎるのよ。授業はちゃんと受けているけれどね」
「……」
「何よ?」
「いいえ。ミランダ様が、学園で生徒会長を頑張っていらっしゃるのは存じておりますし、何より成績もいいですからね」
王立魔法学園では、比較的自由な校風が人気の学校だ。国中で最も難しいと言われている学校だが、その中では、実はかなり想像と違うところがある。
話しているうちに、アリスの在籍するであろう学年のフロアに二人は着いた。
「どこかの教室にアリスが居るはずよ。別れて探しましょう? といっても廊下の向こうからここまでだけみたいだけれど」
「分かりました。私は奥から探します」
ミラは手前の教室から、ユリアーナは奥の教室からそれぞれアリスが居ないかを探し始めた。
そして、アリスが手前から三番目の教室に座って授業を受けている所をミラは見つけた。
アリスの席は、丁度廊下側、縦六列のうちの、四番目であった。
「ユリアーナ」
ミラは手招きしながらユリアーナを呼び寄せた。
「見つけましたか?」
「ええ。ここに」
ユリアーナはミラの隣りまでやって来ると、ミラが覗いている教室を見渡した。
「ミランダ様が見たという、いじめをやっていた生徒はいますか?」
「えっと……手前から四列目の、縦に二番目の人ね。あと二人はどこかしら」
教室には、ミラ達まだ名前を知らなかったが、セレナ・ニラゴージュが同じ教室にいた。
ちなみにシアステッドとリアフォールは、二つ隣のクラスであった。
ミラは、二人を探しに行こうとした、その時。
突然、チャイムの音が学校中に鳴り響いた。
そして、いくつもの教室から、
「ありがとうございました」
という挨拶の声と、生徒が廊下に出てくる音が聞こえた。
「いけません、ミランダ様。生徒が大勢やって来たら、光学迷彩魔法が切れてしまいます。どこかへ一旦引きましょう」
「ええ。分かったわ」
「あっちに特別教室が集まっている場所があったはずです。きっと来る人は少ないでしょう」
「さすがね。行きましょう」
二人は駆け出し、校舎の端にある、部室が集まった所に避難した。
ここなら授業中に来る生徒はおそらくいないだろう。そう思っていた、その時。
「……だから…………でしてよ? 」
「………………じゃないの? 」
遠くから、ミラとユリアーナの居る方向へと、話ながら近づいてくる足音が聞こえた。
「ユリアーナ」
「ええ。隅に寄ってやり過ごしましょう」
直後、近くの廊下の角から、三人の少女達が出てきた。
「……この子達、アリスをいじめていた主要人物よ」
「この者達が……?」
二人は方針を変え、三人の少女の会話を聞く事に徹する事にした。
「今日はどうするの? 」
と、いつもの軽い調子で言うリアフォール。
「昨日の今日でやるのは止めた方が……」
と心配するセレナ。
そして、シアステッドは、
「今日は大丈夫ですわ。昨日の様に、学校でやらなければいいのですのよ? 今日は私の家の、修練場でやりましょう」
「いいの?」
「ええ。昨日みたいに見つかっては困りますわ」
「なら安心」
その後何らかの相談をした後、三人は去っていった。
「なんなのですか!? あの者達はっ! 見つからないように自宅まで攫ってすることですか!」
「落ち着きなさい、ユリアーナ。……とにかく、今日、あの右の子の家でアリスがいじめられる、という情報だけは掴んだわ」
「ええ。ですが、どの家なのか……」
ユリアーナが困った様子でそう言うと、ミラが、ポケットから、小さな結晶石を取り出した。
「記録石よ。これで三人を取ったから、近衛騎士の一人を王城に戻らせて調べさせましょう」
「それを用意しているとは……さすがです。分かりました。では、一人使いを出しましょう。ここから近い者は……」
「裏門ね」
「では、裏門に参りましょう」
「ええ」
二人は生徒達に触られないよう気をつけながら裏門に行き、そこに待機していた近衛騎士に記録石と伝言を伝え、王城へ送り出した。
二人はもう少し学校に残り、様子を見ることにした。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
888PVを突破致しました!ありがとうございます!
ご感想、ブクマ、評価ポイント等、ありがとうございます‼︎
もし宜しければお願いします!
《2016/11/12 第一回改稿》