第六話 話し合い
私は、突然現れたミラという女の子に困惑していた。
なぜ私を助けてくれるのだろう。私なんかを。
この学校では、以前はみんな、シアステッド達を咎めたり、注意をしたりしてくれていたけれど、だんだんシアステッド達に力が付いてきた途端、みんな萎縮してしまった。
私からすればひどい事だとは思うけれど、今では先生達でさえシアステッド達に睨まれたらこの学校での生活は終わったと考えても良いほどに、大きな力を持つ派閥に成長してしまったから仕方がない部分もある。
それなのになんで……。見覚えが無い事から、うちの学校の生徒じゃないという事は分かる。
でも、何故だろう。何処かでこの雰囲気、知っているような…………。
でも、いくら考えても思当たる事は無かった。
隣の女性が騎士のような身のこなしをしているから、もしかしたらミラも貴族なのかもしれない。
そして、ミラは私と同じ、A-と言った。
してミスは私に、一緒に魔法を練習しないか、とも言ってくれた。
その言葉は、涙が溢れてきそうになるほど嬉しかった。
でもやっぱり、シアステッド達がいる間は無理だ。そう伝えた。
その後、フォーラス先生と、ミラの騎士のような綺麗な女性がやって来て、何故か私を交えて四人で話すことになった。
(こういう事が出来るってことは、やっぱり貴族なのかな?)
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応接室へ移動すると、ソファーに座る私たちにフォーラス先生がお茶を出してくれた。
ミラの騎士さん────ユリアーナさんと言うらしい────はずっと立っていた。
私やミラはお礼を言ってお茶を飲む。
ふと隣を見ると、ミラがお茶を飲む姿がとっても様になっていて、見惚れてしまいそうなほど、綺麗だった。
「ではフォーラス先生、アリスが何故、あのような事をされていたのか、教えて頂けませんか?」
そんなミラの声によって、ハッと我を取り戻した私は、あわてて視線を先生の方へ戻した。
「はい。分かりました。
アリスがいやがらせをされている事を、私たち教師が知ったのは、九月、新しい学期が始まってからでした」
「九月!? それから今までの三ヶ月近く、何もしなかったのですか?」
と、ユリアーナさんが言った。
「いえ、何もしなかった訳では無いのですが……」
「では何故っ!」
「…………大変面目ないにも程があるのですが、アリスにいやがらせをしている中心人物、それが三人もいるのですが、そのうちの一人が、この学校の生徒、教師を含めて、全ての貴族の者より、位の高い貴族のご息女なのです」
「だから何もしなかったと?」
ユリアーナさんがキツい口調でフォーラス先生に聞いた。
「何もしなかった、と言うより、何も出来なかったのです。
始めは生徒も職員も止めさせようとしました。ですが、彼女達はグループに貴族を多く集め、その力と情報を使って、我々の弱味を握って来る。それでは何かしようしても逆にこちらが何かをされるかもしれない……。そんな事では何も出来ません」
驚いた。先生達も脅されていたなんて、初耳だった。
そしてフォーラス先生は静かに怒ったような口調で言った。
長らく人を見ていれば分かる。あれはきっと、誰かを怒っているのではなく、何も出来ない自分自身を怒っているのかもしれない。
「ならば国に、教育省に連絡すれば良かったのではないですか? 」
とミラ。
しかし、フォーラス先生は首を振った。
「それも向こうに先手を打たれています。
教育省のいじめ対策室ではありませんが、その近くの部署に勤めている親を持つ子いまして……」
その言葉で、ミラとユリアーナさんはある程度理解出来たようだった。
そこでフォーラス先生は、ハア……と一息つくと、
「何か手を打とうしても塞がれる、それを繰り返しています」
まさに八方塞がりです、そう先生は言った。
私は再び驚いていた。もう誰も何も関わろうとしていないと思っていたのに、今でも先生達は何かをしようとしているのね……
「ねえアリス」
突然ミラに呼ばれた。
「なっ、なにかしら?」
急で驚いたけれど、なんとか返事をした。
「質問をしたいのだけれど……」
「……いいよ」
「いつからいじめられているの?」
「…………六月。それから少しずつ」
私は記憶を探りながら、静かに決意を固めてう言った。
何故だろう。ミラになら知ってもらっても良いような、そんな安心感がある。
「…………そう」
そんないくつかの質問をしばらくされた。
「ありがとうございました」
そしてそう言いながら、ミラとユリアーナさんの二人は帰っていった。
その後、フォーラス先生と少し話した後、私も自分の家に帰った。
いつもより若干早い帰宅だった。
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そして夜。
私はミラの事を思い出していた。
「ミラ、かっこよかったなぁ……」
昼間は色々あって意識出来なかったが、今思うと、ミラは可愛くて、凛々しくて。そして何よりも優しかった。
「また……会えるかな……」
きっともう会うことの無いであろう、貴族のミラを思い出しながら私は眠りについた。
もしかしたら、もう少し起きていればずっと感じていたもやもやが晴れたかもしれない。でも、それが晴れることは無く、そのまま翌日になり、忘れてしまった。
翌朝。
起きて顔を洗う時も、身支度を整える時も、ご飯を食べる時も。
何故か勝手にミラの顔が頭の中に思い浮かんでいた。
「わたし、どうしちゃったのかな……」
学校へ向かう道すがら、私はそう呟いた。
そして急に恥ずかしくなり、慌てて誰か聞いていないかと周りを見渡したが、幸い、誰も居なかった。
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《2016/11/8 第一回改稿》