第五話 運命の出会い
改稿で、表現に修正を加えました。
「ちょっと貴女達、何をしているのっ!?」
という言葉と共に、私は駆け出していた。
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十二月のある日、私とユリアーナが買い物と散歩を兼ねて、いつも通る道とは違った、普通科学校近くを歩いていた時、私達の耳に、叫び声と悲鳴が聞こえた。
「何の音かしら?」
「悲鳴? と剣の打ち合う音、これは障壁魔法が破れる音でしょうか……」
ユリアーナは、仮にも王族の護衛を勤める騎士。聞いた話によると、近衛騎士には、様々な音を聞き分けられるような訓練など、様々な種類の訓練があるらしく、小さな音だったけれど何が起こっているのか瞬時に考えたのかしら。
「剣と障壁魔法……? 何かの修練かしら?」
「確か近くに学校があるので、そうかもしれませんね」
「ちょっと見に行ってみない? 悲鳴みたいのも聞こえたし、一応」
「はい、ミランダ様」
私たちはそう会話すると、音のする方向へと歩きだした。
しばらくすると、大きな門が見えてきた。普通科学校だ。
「あそこなの?」
「はい。確かにあの学校の方から聞こえました」
「あら? あの校名……そこそこ有名な普通科学校じゃない。私でも知っているわよ」
「そうですね。近辺の貴族も通う名の通った学校です」
「入っていいのかしら……? 門は空いているし」
「ミランダ様、ここで少しお待ちください。今この学校の者に聞いて参ります」
「でも、大事にしなくても……。ただ何の音か確かめるだけよ?」
「それならば尚更です。職員から話を聞けるかもしれませんからね」
「そう? ユリアーナがそう言のうなら……」
と言ってユリアーナは学校の中へと入っていった。
先程聞いた音はまだ続いている。そして。
バリイィイィン!
と、また障壁魔法の壊れる音が聞こえ、またしても悲鳴が今度はさっきより大きく聞こえた。
そして、その音が聞こえた時、私は何をしているのか気になって仕方がなかった。
(気になるし、す、少しだけ……入ってもいいわよね? 何かあったら大変だし)
咄嗟に言い訳を頭の中で思い浮かべ、私は門の中へ歩みを進めた。
そして、さっき音がしたであろう方向に進んでいくと、校舎裏へたどり着いた。
そこには沢山の、同じくらいの年のように見える女の子たちが、何かを避けるように円を作って、囲うように立っていた。
「何かしら?」
小さく呟くと、今度はそっと、足音を消して、何をしているのかもう少し見えやすそうな所へ移動した。
そして、私が目にしたもの。それは────
「それっ!」
という声と共に剣を振りかぶり、思いきり降り下ろした女の子と、
バンッッ……バリイィイィン!!
その女の子の剣が、全身ボロボロの傷だらけになりながら、苦しそうに膝をついて、弱々しく展開していたもう一人の女の子の障壁魔法に当たって障壁魔法が砕ける音。そして、
「きゃああぁぁあっ!」
と悲鳴を上げながら転がる、いや、一方的吹攻撃でき飛ばされた女の子の姿だった。
そして、女の子達の中から、一人の女の子が進み出て、転がっている女の子へ手を向けた。私は一瞬で、何らかの魔法を掛けて、更に怪我を負わせるつもりだ、と判断し、これ以上倒れている女の子に怪我をさせることは許さない、と駆け出した。
「ちょっと貴女達、何をしているのっ!?」
と叫んで周りを囲っていた女の子達の群れへ飛び込んでいった。
しかし夢中になっていて気付かないのか、ずっと立ったままの女の子達を掻き分け、円の中心にたどり着くと、倒れている女の子に駆け寄って庇うように立つと、
「何をしているのっ!?」
と改めて問う。
「何? この娘」
「見たことの無い顔ですわね。知ってます?」
「さぁ……。誰?」
顔を見合わせ、ひそひそと話す女の子たち。
「だから、何をしていたかと聞いているんです! 一方的に攻撃しておいて、倒れたところに追い討ちをかけようとするなど、言語道断!」
私は矢継ぎ早に言葉を並べると同時に、庇っている女の子に治療の魔法をかける。
「別に、何でもありませんのよ。唯の練習ですわ」
と、一人が視線をそらし、去っていった。
それに続き、二人、三人と離れていく。私は追いかけて事情を聞きたいところだったけれど、庇っていた女の子の事がある手前、ここを離れる訳にはいかず、歯ぎしりする想いで見送った。
「もう大丈夫よ」
「あの、ありがとう……」
「いいのよ。あなたの名前は?」
「アリス。アリス・クロニティ。魔法、掛けてくれて、ありがとう」
「アリス……? 私れにはの髪型。あなた、どこかで……?」
「……?」
「いいえ、何でもないわ。私はミランダ。ミラと読んで頂戴。ところであなた、何をされていたの? いつもあんなことされているの?」
と聞いた。
何処か心の中で引っ掛かる部分があったけれど、思い出せなかった。
「あなたが誰か知らないけれど、私には関わらない方が良いわ。あの人達の大半は貴族だから、何をされるか分からないから」
信じられない。どんな事情であれ、そんな脅し紛いなことをしてまで関わらせないようにするなんて……。
「それにミランダさん……」
「ミラでいいわよ。さんもいらないわ。私もアリスって読んでいるし」
「じゃあ、ミラ。さっき使ってくれた魔法って、最上級魔法よね? 羨ましい……」
「そう? そうでもないわ。アリスの魔法ランクは幾つなの? さっきの障壁魔法、脆くてすぐ壊れていたけれど……」
私は、修練ならもっと加減してもらったら? という言葉が咽まで出かけたが、必死に押し止めた。
何故なら、ある可能性が頭に過っていたから。
「私はA-ランク。でも、魔法がとっても苦手で、低級魔法くらいしか使えないの……」
私はとっても驚いた。A-と言ったら、私と同じ程、普通に出来れば相等強力な魔法が使えると言うのに、低級魔法しか使えないなんて……
「そうなの! わたしと同じね」
「ミラもA-ランク? いいなぁ……。私もいつか、|最上級魔法 デュアス・マジック》を使ってみたい……」
「そう? ならよかったら私と一緒に魔法を練習しない?」
と聞くと、アリスは一瞬、嬉しそうな顔をしたが、すぐ顔を曇らせると、
「ごめんなさい。私、さっきの人達に、その、……いじめられているの。貴族って言ったでしょう? あの人達に何をされるか分からないから、本当に私に構わないで。ごめんなさい」
「アリス、あなたの家は貴族なの?」
「いいえ。普通の一般人よ。ミラは?」
「私は……」
口を開き掛けたが、わたしが王族だと言っていいものか迷い、いい淀んでいると、そこへ、ユリアーナが、この学校の教師と思われる人を連れてやって来た。
「ミランダ様! ここにいらしたのですか! 門の前でお待ちくださいと言ったではありませんか!」
「あなたがミランダさんですか?」
王族だと言っていない他のアリスなどならともかく、教師が、さん? と私が不思議に思っていると、顔に出ていたのか、ユリアーナが、
「ミランダ様が王族だと知れると、後の始末が色々面倒になりそうだったので、貴族だと紛らわしておきました。あと、さっきの音の説明をしてほしいとも」
とそっと耳打ちしてきた。
ならば相応の対応をしなくては。
私は、スカートの端をそっとつまんで軽く膝を曲げた。
貴族の子女が礼をするときにする作法だ。王族も例にもれない。
「はじめまして。えっと……」
「彼女、アリス・クロニティのクラスの担任をしている、フォーラスと言います」
「フォーラス先生。私はミランダと申します。先程近くを通りかかった際に、悲鳴や剣の打ち合う音が聞こえたので、何をしているのか気になって足を運ばせて頂きました。今はアリスがいじめられていた時の音だと知りましたが……」
最後はかまをかけてみる。
この学校の先生が、いじめという言葉を聞いてどんな反応をするか。
「そうですか……。見ていたのでは仕方がありません。きっと色々とで責めになるでしょうし、説明しますので。こちらは寒いですからね。応接室へご案内します。アリス、君も来なさい」
その言葉を聞いて、私は静かに怒っていた。
教師がいじめを知っていたにも関わらず、何も言わず、今この瞬間も誤魔化そうとしているのではないかと思ったから。
「なら行きましょう。ほら、アリスも」
「う、うん。そうね」
私達三人は、フォーラス先生の後に続き、校舎の中へ入っていった。
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《2016/11/3 第一回改稿》