最終話 バレンタインデーの夜に-3
「わ〜! とっても美味しそうです!! 本当に頂いて良いんですか?」
「もちろんよ、ミーゼ。バレンタインは日頃の感謝を伝える日でもあるじゃない。ミーゼとユリアーナには本当にお世話して貰って感謝しているから、そのお礼よ」
「これは明日の練習で作ったものだから、明日また改めてお礼のお菓子は渡しますよ」
「ミランダ様、アリス様。ありがとうございます……!」
「ほら、食べましょう♪ 紅茶が覚めるとおいしくないわ」
丸いテーブルを四人で囲ってするお茶会。
ティータイムに適した時間は過ぎてしまったけれど、紅茶とお菓子が並べばそれはお茶会のはじまりの合図。
紅茶を淹れるのが上手なユリアーナに紅茶を、テーブルクロスや細かな装飾をミーゼに、そしてわたしたちが作りたてのガトーショコラを切り分けお皿に盛り付けたところでお茶会のはじまりだ。
パクッ。
まずはユリアーナとミーゼに食べてもらって感想を聞く。隣に座るミラと手を繋ぎながらドキドキと二人の言葉を待つ。
「ど、どうかしら」
「美味しくできてる?」
ごくん。とほぼ同時に飲み込んだユリアーナとミーゼ。
二人の唇が開く。そしてその口から出てきた言葉は……。
「「すごく美味しいです!!」」
「生地がふわふわしていて柔らかくて……。チョコの味がすごくしてきます」
「チョコの味がよく引き出されていてすごい美味しいです。……お二人とも、初めて作ったんですよね?」
「ふふっ、私とアリスのチームワークがよかったのよ」
「ありがとう、明日も自身をもって作れそうね……!」
その言葉に二人は力強く頷く。
「はい、きっとみなさんも喜ばれると思います。……もう一切れいいですか?」
「ミーゼ、食べるの早すぎない? ……もちろんいいわよ。八つに切ったから一人二切れずつよ」
「わたしももう一切れ……」
「ユリアーナも早いわね。……ここまで喜んでくれると嬉しいわね、アリス」
わたしの方に目を向けたミラに向かって、うんうんと頷き返す。
「……わたしたちも早く食べましょう。さっきから気になっちゃって」
「確かにそうね。作ってる最中に味見はしたけれど出来たものはまだ食べてないから……」
そう言ってわたしたちもフォークで一口大に切り分けて口に運ぶ。
っ……!!
「なにこれおいしい!」
「本当においしいわ!」
わたしたちは目を見開いてお互いの顔を見つめ合う。
……これは予想外に美味しく出来てるわね。
表面はサクサクしつつも、中はしっとりとした生地を口に含んだときに味わえる、ちょっぴり大人な甘さのチョコレート。
矢継ぎ早にフォークがお皿と口許とを往復して、またたく間にわたしのお皿からガトーショコラが消失した。
「ふふっ、お二人とも喉に詰まらせないように気を付けてくださいね?」
「おかわりもありますよ?」
今度はあっという間に食べては勿体無いと、会話も忘れたようにじっくり味わっていると、唐突にユリアーナから笑われた。
「お二人とも、何も言葉を交わしてもいないのに、本当にすることが同じですよね」
と。横目でチラリとミラの方をみると、そこには味わうようにフォークを咥えたまま、わたしと同じように横目でこちらを見つめるミラの姿があった。
これにはついわたしたちも小さく笑ってしまったのだった。
***
楽しいお茶会を終え、私たちはアツくて甘い夜を過ごし、生まれたときのままの姿でお互いの体温を直に感じながらベッドに横になっていた。
「ねえミラ」
「なあにアリス」
「一年って本当あっという間よね……。ミラと結婚して、こんな風に暮らすようになってからまだ全然日が経ってないように感じる」
「……でも、なんだか何年も昔からこんな関係だったような、落ち着く感じがするわよね」
「うん。やっぱりミラと毎日を過ごすのが楽しくて、しあわせで……。それが一番関係してると思うなぁ」
暗闇のなかで、鼻と鼻が触れ合う距離でお互いを見つめ合う。
頬に手をあてがい、心地良い暖かさに心を落ち着かせる。
「ねえアリス」
「うん」
「また一年、よろしくね♪」
「こちらこそ♪」
こうして、私たちのバレンタインデーは始まりを告げた。




