最終話 バレンタインデーの夜に-2
お店の目の前までやって来ると、やはりというべきか店の前には長蛇の人の列が出来ていた。
男性も女性も、みんな大切な人に感謝を伝えるためにお菓子を作ろうとしているにちがいない。それかもしくは、既にプロによって作られたお菓子をプレゼントしようと待っているのだろう。
「相変わらずの大盛況ね!」
「なんか、去年より人が多いような気がするわ……」
「ミランダ様が昨年より遅く来られたからかもしれませんね。やはりこの時間帯は皆が買いに来る時間なのでしょう」
「ユリアーナの言うとおりかもね。……アリス、待ってる間は動けなくて寒いから、もっと私にくっついて?」
「ええっ!? 人前で、いいの?」
「いいのよ。結婚しているのに今更でしょう?」
こういう少しの時間の間だけでもアリスとくっついていられる時間は大きい。
手を離し、アリスの肩に手を回して抱き寄せる。
「「「きゃあ〜っ!! 素敵っ!!」」」
「いまのみた?? すっごく自然に抱き寄せたわよ!」
「アリス様、真っ赤になってミランダ様を見つめていて可愛いわ〜!」
どこからか聞こえてきた黄色い悲鳴。さすがに挙動をじ、実況されると恥ずかしいわね。……私たちがいること、バレてるみたいなのは仕方がない。特段隠しているわけでもないけれど、やっぱりまだ少しばかり気になるのか、アリスはそわそわとして落ち着きがない。
「アリス、大丈夫よ。……ほら、力抜いて。ちゅっ」
「「「「「きゃぁあぁっ!!」」」」」
「キス、キスしたわよね!?」
「みた? 今の見た!!??」
ペロリと唇についた、つい瞬間前までアリスの柔らかくて甘い唇に塗ってあったリップを舐めとり、にこっ。と意地悪な笑顔をアリスに向ける。
「もうっ〜!! ミラのばかぁっ!!」
街の空に、アリスの悲鳴が響き渡った。
***
人前で恥ずかしい思いをしたわたしとミラは、お店で必要なものを買って王城に戻ってきていた。
……ついでというか、こっちがある意味本命とも言えるのだけれども、明日の夜のためにこっそり作るお菓子の用意も忘れずにしてある。
これからするべきことは実は二つある。
明日のための練習と、明日の夜にミラにプレゼントする特別なお菓子を作っておくこと。
明日になるとお菓子作りやらパーティーやらでお菓子を作る時間がとれないから、今のうちに作ってしまおうと思ったのだ。
と、その前にミラといっしょに明日に備えてガトーショコラ作りの練習。
材料はたくさん買ってきたから、練習でつくったものをわたしたちとユリアーナ、ミーゼの四人でお茶会を兼ねて味見をする事にしているので練習とは言えど失敗は出来ない。
パティシエに教えてもらいながら、わたしたちは実際に作り始めてみた。
「まず湯せんをしてチョコを溶かすのね。アリス、バターを取って頂戴。一緒にいれるのよ」
「わかったわ」
「たまごを卵白と卵黄にわけて……魔熱オーブンも予熱しておいて……型に強力粉とバターを塗って、と。……よし! 下準備オッケー!」
「ミラ、美味しいものを作りましょう!」
「もちろんよ!」
こうして明日のバレンタイン当日に向けて、わたしたちの練習がはじまったのであった。
※お菓子の作り方は、検索ででてきたものの一例であり、レシピによって作り方が異なります。




