第三十五話 転入の手続き
学院編の始まりです!
私とアリスは、王立魔法学院の職員室へ、ユリアーナとミーゼを伴ってやってきた。アリスの転入手続きの為だ。
私とアリスは隣同士に座って、ユリアーナとミーゼは私たちの隣に立って書類を取りに行った先生を待っていた。
アリスが元々通っていた学校の転出手続きは、アリスがもうそこに行きたくないだろうという配慮から既にユリアーナとミーゼが終わらせてくれた。
「広くて、綺麗な学校なのね……」
「うん! 生徒もみんな優しいから、安心してね? それにアリスに何かあったら私が守るから大丈夫よ♪」
「う、うん……ありがとう…………」
心なしかアリスの頬が朱に染まった気がしたけれど、はっきり認識する前に先生が来てしまったので、くやしいけれど前を向く。
「おまたせしました。では、早速転入の手続きに関する説明と、軽い学校の紹介させて頂きますね。詳しい事はミランダさんに聞くと良いわ」
「はい、よろしくお願いします、先生」
「お願いします」
「良かったらユリアーナさんたちも座って下さいな」
「ありがとうございます」
「えっ? あ、ありがとうございます」
私たちの前に、ガラスのテーブルを挟んで座った先生は、やはりユリアーナたちに椅子を勧める。
ユリアーナは先生の行動に慣れているのだけれど、ミーゼはびっくりしたみたいで、ユリアーナが座ったのを見て慌てて自分も座っていた。
こういう所があるから私は先生が好きだ。
皆に平等で、優しく、公平なこのレノン先生は私のクラスの担任で、クラスだけでなく学年、学校の生徒から慕われている。
そのレノン先生は、アリスの前に書類を広げ、書類の書き方と、説明をしていた。
大体の書類はアリスのご両親が書くのだけれど、一部自分で書かなくてはならない書類があって、それを書きにアリスと私は学院にやって来た。
本当は私は来なくて良いのだけれど、か、家族として付き添いに来たかったし、終わったら学校を案内しながら、その、デ、デートが出来れば良いなぁ、と思って一緒に来たのだ。
アリスの転入は一月からで、冬休みに入ったばかりでまだ何週間かは余裕がある。でも出来るだけ速く済ませてしまえば後も楽だし、冬休み中に何回か来れば慣れるのも速くなるに違いないと思う。
アリスと一緒に手を繋ぎながら学院を回る私たちの姿をボーッとしながら想像していると、ユリアーナが軽く私の足をツンツンと小突いた。ハッとなって見渡すと、いつの間にかアリスは書類を書き終わり、先生の話も終え、アリスがお礼を言っているところだった。
(は、恥ずかしい……。ユリアーナ、ありがとう)
「どうしたの、ミラ? 顔、赤いけれど……」
「ううん、ううん、なんでもない! さ、学院を案内してあげる! 行きましょ♪」
デートの妄想をして恥ずかしくなりました、なんて言えない!
慌てて取り繕って、みんなと一緒に席を立った。
先生にお礼を言って、私たちは職員室を出る。早速学院をアリスに案内するのよ!
「アリス、この学院の案内をしてあげるわ! 行きましょう?」
「うん、行こっか!」
私たちはしっかりと手を繋いで歩き出した。
ユリアーナとミーゼは少し離れた後ろを歩いていた。
「まず私たちの教室から行きましょう?」
「うん、任せる」
「校舎は何年か前に建て替えられたばかりの新しくて綺麗で、設備もとっても良いの! テラスとか、屋上庭園とかも────────」
それから私たちはゆっくり時間をかけて、学院を見て回った。
ずっと手を繋いでいて、少しこそばゆかったけれど、アリスと一緒に過ごせてとっても嬉しかった。
これからアリスと一緒に学校に行けるなんて…………。
そんな事を想像すると、舞い上がってしまって、アリスと一緒に歩きながらとっても恥ずかしく思ってしまったことは秘密だ。
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「ふふふ、お二人が楽しそうで何よりです」
ミラとアリスの後ろでは、ユリアーナとミーゼが並んで会話を楽しんでいた。
「そうですね……。そう言えば、私も久々の学院です。変わってないなぁ……」
ミーゼが懐かしむようにしみじみと呟く。
「そう言えばミーゼは学院の出身でしたね。良かったら私にも色々教えて下さいな」
「は、はい! うろ覚えですけれど、ユリアーナ先輩がお望みであれば、頑張ります!」
「そう? ありがとう。そうね…………。あっ、そうだ。私たちも手を繋いでデートしましょうか?」
「ふぇっ!? で、デート、ですか!?」
「はい。私とデートするの、いや……ですか?」
ユリアーナが急に言い出し、慌てるミーゼ。
少し涙目になったユリアーナの姿を見て、ミーゼは真っ赤になりながらぶんぶんと首を思いっきり左右に振って否定する。
「そ、そんな訳ないじゃないですか! ユリアーナ先輩とデートなんて、とっても嬉しいです!」
「ほんとう?」
「ほ、本当です! い、いつかユリアーナ先輩とデートしたいな、って思ってましたから!」
「…………。くすっ」
ミーゼの突然の発言に、我慢出来なかったのか、ユリアーナが小さく吹き出す。
「な、なんで笑うんですか!?」
「くすくすっ、デートなんて、まさか真に受けるとは思いませんでしたから」
「……………………へっ?」
まさかのネタバラシに唖然となるミーゼ。
理解したくないのか、可愛らしく口を開け、ポカンとしていた。
「ごめんなさい、冗談ですよ」
「…………っ~!!」
「あらあら、ごめんね、ミーゼ」
無言で軽くユリアーナの背中をぽかぽかと拳で叩く。
悪びれた様子も無くユリアーナが謝り、ううっ……。とミーゼが恨めしそうにユリアーナを見つめる。
しかし、怖くもなんともなく、むしろ可愛い小動物のようで、ユリアーナもついついからかいたくなってしまった。
ユリアーナはミーゼの真っ赤になった耳に自分の口を近づけ、そっと囁く。
「ほんとうに、デート、しましょうか?」
艶っぽい声に、ビクッと硬直するミーゼ。
恐る恐るユリアーナを見ると、今度は妖艶なお姉様ぽく演技する姿が。
そしてユリアーナがミーゼの姿にまたしても耐えきれず吹き出し、またミーゼがぽかぽかと叩く
これがミーゼがやめてくださいと懇願するまで幾度と繰り返され、この突如始まった謎の勝負はユリアーナの圧勝で幕を閉じた。
先輩と後輩の仲も徐々に縮まっているようだった。
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