第三十話 ミーゼ
こんばんは。五月雨葉月です。
新キャラ登場です!!
第三十話 広間へユリアーナの後に続いて私たちは入り、席についた。私とアリスの席は隣同士だった。
そこには既に席についているお父様やお母様、お姉さまたちがいた。
と、四人が四人とも、チラチラとこちらを見てくる。
「お二方をお連れしました」
「うん、ありがとう」
「「…………」」
「「…………」」
誰も話さない。沈黙の時間が続く。
しばらくして、その沈黙を破ったのはお母様だった。
「その様子だと、昨日は楽しんだようね」
その言葉と共に、お母様の視線の先にはずっと手を繋いだままの私たちの手があった。
慌てて離そうとするアリス。
でも、ここで取り乱すのは逆に怪しい。アリスにアイコンタクトで、ずっとこのままで、と伝える。
しっかり伝わったようで、こくん、と小さく頷いてくれた。
さすが私の恋人。
「あらあら、大人になっちゃったのね……ミラは…………」
「ね~、私たちもまだなのに……」
何処か私たちが遠くへ行ってしまったかの様に目を細めるお姉さま達。
もうっ、まだ下はしていないの!
「そうかそうか……二人はいつ結婚するんだい? 」
「そうね~、いつ娘の結婚式が見れるか楽しみだわ」
お父様とお母様の嬉しそうとも寂しそうな声にアリスの顔が真っ赤になって俯く。
代わりに私が堂々と答える。アリスが大好きだから。
「今すぐにでもやりたいわ」
「そうかそうか。でも準備がいろいろ必要だから、最低でも半年後だな……王族は色々と大変なんだ、分かってくれ」
「今は七月……来年辺りには出来るんですね!! 」
「そうなるかな。その前にアリスのご両親にも挨拶に行かねばな」
「ひえぁっ!? 」
じっとやり取りを聞いていたアリスが飛び上がる。
「母さん、予定、いつか開けようか」
「私はいつでも良いわ。今日でもね」
「そうか。……じゃあそうするか!」
「「ええっ!?」」
お父様とお母様の行動力の高さについつい驚いてしまった。
「二人は先に行っていなさい。あ、くれぐれも私たちが行くことは内緒にな」
「サプライズは大事よ! 」
「お父様、それではお父さんとお母さんが驚いて倒れてしまいます……」
アリスが不安そうにお父様に言う。
「そういうものか? なら仕方がない。伝えておいてくれ」
「あとね、本気で二人は結婚するつもりみたいだから、私たちからのお祝い、でもないけれど、新しい家族を迎えましょう! 」
新しい家族…………?
ま、まさか!!
「お父様、お母様、ありがとう!! 」
「ねえ、ミラ……話が見えないわ…………新しい家族って? 」
私は嬉しくて泣き出しそうになるのを堪えながらもアリスに説明する。
「あのね、私達王族は、王族付きの近衛騎士と家族みたいに接しているの」
「……? ミラとユリアーナさんみたいな? 」
「うん。だから、新しい家族ってことは、新しい近衛騎士が付くってこと」
「う、うん。そうね」
まだ分かっていない様な顔をするアリス。
鈍いのね……分かって欲しいのに。
「あのね、私達は既に一人に二人、騎士が付いているわ。だからこれ以上増えないの。でも、増えるって事は……」
「ことは……? 」
「おっとミラ、ここからは実際に体験して貰おう。入りなさい」
と、扉の方を向いて言った。
すると、丁寧なノックの末、
「失礼します」
という綺麗で澄んだよく響く声の近衛騎士が入ってきた。そして、テーブルの近くまでやって来て膝まずく。
ユリアーナより……若いかしら?
「初めまして。ミルラティーゼ・フォールデン・ローゼンクラッツと申します。これからアリス様付きの近衛騎士としてお世話になります。ミーゼなど、お好きにお呼び下さい」
やっぱり綺麗な声ね……
舞台とかに出ても遜色ないくらいだと思う。
「ふえっ!? 私付き? ミラ、どういうこと? 」
戸惑った様子のアリスが、私に聞いてくる。
うぅ、その顔も可愛いわ……♪
「つまり、王族として認められたってことよ。少し早いけどね」
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私、ミルラティーゼ・フォールデン・ローゼンクラッツは、王族の方々と、新しい主の前で膝まずきながら、昨日の晩の事を思い出していた。
昨日の晩、訓練が終わった後、ユリアーナ隊長が陛下が私を呼んでる、と呼び出しに来た。怒られるのかな……と思ってついていくと、
近衛騎士隊の会議室に陛下が座っておられた。
『新しい王族の方付に? 私がですか? 』
陛下が座るテーブルの前に座り、陛下のお話を聞いていた。
『そうだ。是非とも君に頼みたい』
『分かりました』
逆らう事は許されない。まあ、悪いようにはならないだろうと思い、覚悟を決める。
『そうか! それは助かる。今度ミラのお嫁さんになる娘でな、アリスと言うんだ。貴族ではなく、一般の家の娘だでも、我々のあれは分かっているな? 』
『はい。恋愛に身分差や種族の壁は無い、ですね』
『うむ。それだからこそ君に頼みたい』
『と言うと? 』
私にはまだよく分からなかった。
私だから? どういうこと?
頭がこんがらがっていると、陛下がユリアーナ隊長に頷いた。
『ミーゼをアリス様付けに推したのは私だよ。ミーゼは物事を公平に判断出来るし、知識も技量も普通の近衛騎士よりはある』
『…………』
いつも厳しいユリアーナ隊長に色々な事を言われて嬉しくなる。
私のこと、しっかり見ていてくれたんだな……
『アリス様は聡明で、何があろうと決して屈せず、自分の意思を真っ直ぐ突き通す滅多に居ない素晴らしい方だ。ミーゼに安心して任せられると思うんだ』
『ユリアーナ……たいちょぉ…………』
『ほらほら、泣かない、泣かない』
私が泣き出しても、陛下は優しい目でじっと待っていてくれた。
やはり素晴らしい方々に支えられて私は幸せだ。
ひときしり泣いた後、非礼を陛下に詫び、ユリアーナ隊長にお礼を言った。
『アリス様は学校でいじめられていて、その心の傷はすぐには癒えないでろう』
『いじめ!? 』
『うん。そんなアリス様を、これからはミランダ様と共に近くで見守っていて欲しい』
『…………分かりました。私に出来ること全てをアリス様、そしてミランダ様と王族の方々に捧げます』
こうべを垂れ、陛下に言う。
陛下はうんうんと頷いて、
『よし、今はまだアリスがミラのお嫁さんになったわけではないから正式ではないが、軽く任命式を行おう』
その言葉に、私は立ち上がり、ある程度開けた場所へ陛下と共に移動する。
私は陛下に向かって膝まずき、こうべを垂れる。
陛下は儀式用の装飾がなされた剣を右肩に当てられる。
『汝、ミルラティーゼ・フォールデン・ローゼンクラッツは、その任を解かれるまで、心身共に命を懸け、主、アリス・クロニティに仕える事を誓うか? 』
『この身が尽きるまで、仕える事を誓います』
『よし。正式な儀式は結婚式の日に行うが、今、この時点から君はアリスの近衛騎士となる。職務を全うするように』
『はい』
『おめでとう、ミーゼ』
ユリアーナ隊長がそっと声を掛けてくれた。
私、本当に王族付きになったんだなぁ……
陛下もユリアーナ隊長も素晴らしいと言う、アリス様はどんな方なんだろう。
そう思いながら、自分の部屋へと戻り、翌日からの支度をした。
その日は翌日からの事をずっと考えていて、よく眠れなかった。
翌朝、私はアリス様や、王族の方々が朝食をとられている広間の扉の前で、陛下に呼ばれるのをじっと、そわそわしながら待っていた。
(アリス様はどんなお方だろう……)
そわそわ、そわそわ。
落ち着かない。
と、
「入りなさい」
と、陛下の声が聞こえた。あまりにも予想外のタイミングだったため、びっくりしたが、やはり人間、ファーストコンタクトが重要だ。しっかりしなければ。
私はそう言い聞かせると、ゆっくりと、丁寧にノックをして部屋の中に入る。
「失礼します」
一礼の後、一瞬顔を上げた時に仕えるべき主を見つけ出す。
(あのお方が……本当に可愛らしく、聡明に見える)
そして、迷いない足どりでテーブルへ近づくと、主、アリス様へ向かってこうべを垂れ、自己紹介をする。
「初めまして。ミルラティーゼ・フォールデン・ローゼンクラッツと申します。これからアリス様付きの近衛騎士としてお世話になります。ミーゼなど、お好きにお呼び下さい」
よし、完璧!
噛まずに言えた。練習した甲斐があった。
「ふえっ!? 私付き? ミラ、どういうこと? 」
どうやら知らなかったらしい。
それに、ミランダ様がどうやら保護者の様な立場なのかな……
私も認めてもらえるように頑張らなくては!!
「つまり、王族として認められたってことよ。少し早いけどね」
その言葉を聞いたアリス様は、隣に座るミランダ様に抱き付いて泣いてしまった。
私はどうすることも出来ず、そっと見守っていた。
その涙を見たとき、このか弱い少女を守りたい。そう思った。
傍にいてなぐさめたい。そう思えた。
先程までの不安と迷いが一切無くなった。
私はアリス様に一生仕え続けよう、そう決心した。
「ほらアリス、泣いてばかりじゃなくて、挨拶しなきゃ。新しい家族なんだから」
「うん。……その、アリス・クロニティです。よろしくお願いします、ミーゼさん」
と言いながらにっこりと微笑んだ。
可愛らしい、天使のような愛らしい笑顔。
私はアリス様に笑顔でいてもらえる様、頑張ろうと思った。
ミーゼちゃんは、普段は真面目そうだけど、実は若干天然入っていたり、妹っぽく甘えることもあります。
でも、時折見せる頼りになるお姉さんの顔もあり、アリスやミラ、ユリアーナも信頼している、という人物です。
明日も投稿します。
同じ時間です。よろしくお願い致します。
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