第九話 波瀾
久しぶりの更新となります。
こんばんは。五月雨葉月です。
お待たせしました!
第九話になります!
「貴方たちをいじめの現行犯で逮捕します。大人しくしていなさい」
突然現れた近衛騎士であるユリアーナにそう言われ、さらに周りから急に出現した近衛騎士達に囲まれたシアステッド達の反応は様々だった。
事態が飲み込めず、あたふたしている者。
咄嗟に判断し、投降した者。
急に現れた事に驚き、近衛騎士だと気づかずに近衛騎士らを攻撃した者。
逃げようと慌てた者。
その場に立ち尽くし、絶句している者。
しかし、どのような事であれ、少女達は次々に近衛騎士達に捕らえられていった。
その様子を呆然と見ていたシアステッドは、自分に近づいてくる近衛騎士を見ると、ハッと正気を取り戻し、向かってきた近衛騎士を思いっきり強い目で睨み付け、足を止めさせると、周囲を見回して怒気を孕んだ強い声で、
「ちょっと、王城の騎士殿がなぜサリラーゼ家の中にいるのですかっ!? サリラーゼ家の娘として、説明をお願い致しますわ! 」
と大声で叫んだ。
その声に少女達はビクッと肩を震わせて俯いたり、同意するように何度も頷いたりした。
そして近衛騎士達は、困ったようにユリアーナやミラを見た。
それを見逃さなかったシアステッドは、ユリアーナに向かって、
「貴女が指揮を取っている方ですの!? 」
と聞いた。
「ええ。そうですが」
ユリアーナは落ち着いた様子で答えた。
「貴女方はなぜここにいるのですか!? まさか理由も無しに近衛騎士殿が、貴族の、それもサリラーゼ家の敷地に入ったりはしませんものね? 」
皮肉たっぷりにシアステッドが聞いても冷静さを欠かず、こう答えた。
「もちろん、理由も無しに入ってきたりはしません」
「では、その理由を教えて頂けます? 場合によってはお父様を呼びますわよ? まさか私のお父様を知らないとは言わせませんわ」
「その心配は要りません。既に、サリラーゼ家当主、カールド子爵様をお呼びに、一人、向かわせています。それに、私共が来た理由は、先程申しあげた通りですが」
脅しのつもりで、自分の父の名前を出したつもりが、逆手を取られたことにサッと赤くなり、そして最初にユリアーナに言われた言葉を思いだし真っ青になった。
「なっ、なにをおっしゃるのか分かりませんわ! 私達はここで修練をしていただけですわよ? 」
どうせ当てずっぽうだろう、と高を括って言うが、
「いいえ、私達は既に証拠も持っています。何より、我々はミランダ様の証言があった時点で、ほぼ確実にあったのだと判断します」
「この娘は……?」
シアステッドがやっとミラに気づいた。
そして、ミラを見たシアステッドが、どこかで見たことがあるな…………と思った時、リアフォールとセレナが、ハッと気づいたようにミラをじっ、と見つめた。
「昨日……校舎裏で見た…………」
「うん。アリスをかばったあの娘だね」
二人はミラの事を思いだし、シアステッドに伝えた。
シアステッドもしばらく考える素振りを見せ、思い出したように目を見開いた。
「昨日の、あの……………………まさか、お前がっ!? 」
色々ミラについて言われているにも関わらず、未だミラの正体に気づかないようで、恨めしそうに声を荒らげると、ミラにつかみかかろうとした。
と、その時。
ドタドタドタドタ……
と慌てたように走りよってくる足音が聞こえ、バタンッと扉が勢いよく開き、一人の男性が、後ろから付いてきた近衛騎士と共にシアステッドに走りよった。
「シアステッド! 」
「ユリアーナ様、カールド子爵様をお連れしました」
「ええ。お疲れ様。カールド子爵様、私は、第二王女、ミランダ様の護衛を勤めております。近衛騎士、ユリアーナと申します」
と、聞いた途端に
「ミランダ王女殿下の護衛の……? まさか……シアステッド…………」
「え? 」
急に顔色を真っ青に豹変させたカールド子爵を見て、訳がわからず父を見たりユリアーナを見たり、落ち着きが無かった。
「いいえ、不敬罪などではなく、あの少女、アリスへのいじめです」
「いじめだって!? まさか……そんなこと」
一旦想像していた罪では無かったものの、重罪を娘が働いていた事を知り、シアステッドに詰め寄った。
「シアステッド、お前……本当にいじめを…………? 」
震え声で尋ねた。
しかし、
「いっ、いいえっ、そのようなことはしておりませんっ! 学校の皆様も、ねぇ? 」
たどたどしく、そして助けを求めるように、アリスいじめのグループにいじめの事実はない、と答えさせようとした。
しかし、グループの少女の何人かが口を開きかけた、その時。
「いいえ! いじめはあったわ! ここにいるアリスがここの全員にいじめを受けているところを私が見たもの! 言い逃れなんて、貴女はそれでも貴族なの!? 」
それまで静観を保ち、ミラの隣でミラの手をつなぎながら無表情で事の一端を見ていたアリスへのいじめが無かった事にされそうになっている事に怒り、ミラの我慢の限界を越えてしまった。
そんなミラを見ながらアリスは、
「どうして私のためにあんなに怒ってくれるの? 私なんかのために」
心の中で言ったつもりが、隣のミラに聞こえるか聞こえないかくらいの声として、喉から声が出てしまった。その小さな言葉に反応したミラは、アリスに、
「何でなのか、私もよく分からないわ。でもね、これだけは言える。なんだか、アリス。貴女が放っておけないの。こんな気持ちになったことは初めてだわ。アリス、私にとって貴女は大切な存在なの」
と無意識に答えた所で、ハッと赤くなり、
「な、何でもないわっ。忘れて! 」
と慌てて忘れさせようとした。
しかしバッチリ聞こえたアリスも赤くなり
「ミラの……た、たいせつ……はじめて…………」
消え入りそうな声で呟いた。
ミラとアリスがピンク色の空間を演出していた頃。
シアステッドは、わなわなと肩を震わせ、俯き、しきりに何かを呟いていた。
その様子を見ていたカールド子爵はあまりの迫力に後退り、ユリアーナは周りの近衛騎士達に目配せをした。
「……………………」
そして甘い空間を演出していた二人をユリアーナが軽く肩をたたいて正気に戻らせると、二人も様子がおかしいシアステッドに注目した。
「………………言い逃れ……? 何の事だか分からないですわよ……。それに、それにっ」
一端言葉を切ると、すぅっ、と息を吸い込み、
「貴女に貴族の何がわかりますの!? ただの、ただの平民風情が! アリス、貴女もですわっ! 私は、貴女に、何もっ、していませんわよね? ね? 」
と叫んだ。そして半ば脅すような口調でアリスに詰め寄り、睨み付けた。
今までシアステッド達にされてきた、数々の酷い仕打ちを思いだしたのだろうか。怯えた表情をしたアリスは、ミラの後ろへと隠れるように後ずさった。
それを追うかのようにシアステッドが踏み出した。
そしてミラも、アリスを守るように、一歩前へ、シアステッドに向かって踏み出した。
一触即発の空気。
ミラとシアステッドは、お互いに一歩も引かず、睨みあっていた。
先に動くのは誰か。そう辺りがピリピリして見ていた、その時。
ある人物が、シアステッドに向かって、ゆっくりと、しかし確か
足取りで歩き出した。
それを見たシアステッドは、自分の味方をしてくれるのか、と嬉しそうな表情でその人物の名前を呼んだ。
「お父様」
そう。動いたのは、シアステッドの父でサリラーゼ家の当主、カールド子爵だった。
彼はシアステッドの前に立つと……………………
彼女に向かって平手打ちをした。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
本家執筆の合間を縫ってちまちまと書いていた今話です。
次話は、ずっと無表情で心を閉ざしてきたアリスが本音を見せます。
投降予定は未定ですが、可能なだけ早く書いていきますので、よろしくお願い致します!
ところで、2200PVを突破致しました!!
ありがとうございます!
ご評価、ご感想、誤字報告等もよろしくお願い致します!




