第一話 バレンタインデーの前日
はじめまして。またはこんにちは。
五月雨葉月と申します。この話が自分の初めて投稿した小説になります。
カクヨムにて完結まで全話公開中ですので、併せてお読み下さい。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880410139
(なろうでは一部削除してるため)
ではどうぞ最後までお付き合い頂けますと嬉しいです!
バレンタインデーの前日の朝、シスタリア統一王国、王都シスタリアにあるメインストリートを、白いふわふわのマフラーに顔をうずめながら、寒そうに早足に歩く少女がいた。
少女は、茶色と黒のチェックの上着、フリルのついた白いスカートを着て、黒髪のロングポニーテール印象的な、百人に聞いたら二百人が美少女と答える美貌の持ち主だ。
少女の名前は、ミランダ・レイ・ラ・シスタリア。
十五歳で、シスタリア統一王国の第二王女である。
レイ・ラ・シスタリアの名を名乗れるのは、今から約五百年前、『新世紀の創始者』こと、初代国王、ルイス・レイ・ラ・シスタリアが、戦争で疲弊した各国と旧シスタリア王国を救うため、シスタリア統一王国を建国した以前からの決まり事であった。
ミラ────親しい人々にはこう呼ばれている────は、第二王女という高貴な身分でありながら、普段の外出時には基本的に護衛の近衛騎士、ユリアーナただ一人をつれての外出をしている。
二人の姉も同様に、大がかりな警護などをせず、気軽に生活をしていた。
護衛の人数が少ないのは、王族にのみ効果を発揮する特別な全身防御結界を張ることができる指輪を身に付けているからであった。
また、家族のような存在であり、王国で最も優れた人柄と才能を持ち合わせた近衛騎士の存在も大きく関わっていた。
ミラは大通りから小さな脇道に逸れしばらく進むると、わざわざ外出してまで訪れようとした目的である店を発見した。
店の名は“クローリー・スイーツ”。名門のお菓子の専門店で、様々な種類のお菓子を製造、販売している。
また、お菓子の材料が豊富にに揃えられていて、クリスマスやバレンタインデーの前には、手作りをしてプレゼントをしようとする女の子達が押し寄せて大繁盛となる。
もっとも、普段から人気があり混雑しているのだが。
店に入ると、開店直後にも関わらず既に大勢の客が詰めかけて混雑していた。
「うわぁ~混んでるね~!」
「バレンタインデーの前日ですからね。明日の為に最後の準備と言ったところでしょうか」
「なのかな~? でも結構早く出たつもりなのにね」
答えたのは、普段の護衛から身の回りのお世話までミラ専属の近衛騎士、ユリアーナだ。
近衛騎士は本来、王城や王立施設の警備を担当する、騎士の中でも選りすぐりのエリート騎士であるのだが、さらに人柄や才能から選び抜かれた、上位の近衛騎士は王族の護衛も担当し、ほぼずっと側で担当の王族を支え続ける。
「ところでミランダ様」
「ん~?」
「王城の近くにある店ではなく、わざわざこちらまでいらした、と言うことはやはり手作りのお菓子をお渡しするのですか?」
ミラは、ユリアーナと供に混雑した店内で目的となる品を探しながら会話を続ける。
「そうね。やっぱり手作りの方がお父様やお母様、お姉さまもお喜びになると思うし」
実は王城から程近い場所に、普段王族が利用する、王室御用達の高級店があるのだ。しかし、販売専門店である為にミラの目的、つまり手作りでお菓子を作ることには合わないので、遠いがここまでやってきたのだ。
もっと近くにお菓子の材料を置いてあるお店があったのではないか、と思われるが、様々な事情があった。
「でも材料を置いているお店が少ないわね。これだと毎回大変だわ」
「お菓子を作る、と言う習慣がまだ根付いていませんからね。普段からお菓子を作る方が少ないので、それだけ材料を売るお店が少なくなります。
お菓子は小さな商店などでも購入出来ますから、こればかりは仕方がないでしょう」
「そうなの? ちょっと驚きね」
「王族の場合、ルイス様の事もあって、外部とは過ごしていたが、違った考え方がありますからね 」
なるほど、と納得するミラ。
「ミランダ様、あっちにありましたよ」
と、ユリアーナが示す方向に、ミラが探していたお菓子────クッキーの材料がまとまって置いてあるコーナーがあった。
「ありがとう、ユリアーナ。さ、行きましょう」
と、嬉しそうなミラ。
早速クッキーを作るために必要な物────バター、薄力粉、卵、砂糖、ココアパウダー、バニラエッセンス等々────を買い物かごへ入れ、見落とした物は無いか、他に良いものは無いか軽く店内を回ってから会計を済ませ、店を出た。
「ミランダ様、クッキーは陛下や、王妃様、王女様にも様方全員にお渡しになるのですよね?」
王城へ帰る道すがら、ユリアーナが聞く。
「ええ。細かい飾り付けは変えるけれど、基本的に同じクッキーを作るつもりよ。」
「では、アリス様にお渡しする物はどうするのですか?」
「アリスには特別な物を、ね?」
自分が渡した物を嬉しそうに受け取ってくれるアリスの事を想像ながら答えるミラ。
その様子に、ユリアーナはそっと微笑み、可愛くて仕方がないと言いたそうな顔をしていた
「ユリアーナはどう?」
「私ですか? そうですね……。お世話になっている皆さんにお渡ししますよ。もちろんミランダ様にも」
なぜそんな質問をしたのか不思議そうに小首を傾げて答えるユリアーナにミラは、
「あら、ミーゼが居ないわよ」
と、意地悪な笑みを浮かべて聞いた。
ユリアーナは少し頬を染めると、
「その、ミーゼには、特別な物を前から用意していますから…………」
と答えた。
「やっぱり」
「やっぱりってなんですか! 酷いですよ」
「でも大方の予想は付いているわよ?」
「ええっ!?」
ミラの衝撃発言に驚くユリアーナ。
ユリアーナの耳元に顔を寄せ、ごにょごにょと何かを呟く。
「…………でしょ?」
「……………………」
「あら、違ったの?」
「いえ、合ってます」
恥ずかしさ半分、悔しさ半分で顔を赤くしながら答えるユリアーナ。
その後も、乙女たちのトークは終わりを知らず、王城へ戻るまで終わらなかった。
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その頃、王都シスタリアにあるとある住宅でカップケーキ作りに励む少女の姿があった。
その少女は、クールな青色の髪をストレートで下ろしたかわいらしい髪形、ピンクと白の部屋着の上から、ふりふりのエプロンを着けていた。
少女────アリスは・クロニティは、大好きなミラが喜ぶ顔を想像しながら、黙々とカップケーキを作っていた。
アリスもまた誰もが認める美少女であった。
それが災いし、以前通っていた普通科学校では、アリスの美貌を妬む同性から幾度となく卑劣ないじめを受けていた。
しかし、毎日のように続くいじめは、ある人物の登場によって終わりを告げた。
その人物とは、ミラである。
窮地から、映画のように救われたアリスがミラを好きになるのは必然と言えよう。更に思いがけない接点があったこともその要因とも言えた。
「ミラ、喜んでくれるかしら?」
ミラの姿を想像しながらアリスはにっこりと笑った。
しかし、その直後、はぁ~、とため息をつく。
「明日が待ち遠しいわ…… 早くミラに会いたい」
そんな様子でカップケーキを作っているとしばらくすると、コンコン、と玄関のドアがノックされた音が聞こえ、女性の声がした。
「こんにちは。近衛騎士のユリアーナと申しますが、アリス様はいらっしゃいますか?」
「はーい! 今出ます!」
呼ばれたアリスはエプロンを脱いで綺麗に畳み、イスにかけてタッタッタッと足早に玄関へ向かった。
「ユリアーナさん、何かありましたか?」
ドアを開けながら、アリスは少し疑問を滲ませながら、玄関前に立つユリアーナに聞いた。
アリスには、ミーゼという、アリス専属の近衛騎士がいるので、ミラ専属の近衛騎士であるユリアーナがわざわざ訪れる理由が分からなかった。
「ええ、今日は、ミランダ様よりお手紙を預かって参りましたので、わたしが直接お届けに参りました」
「そ、そんな……! わざわざ来ていただかなくても……」
「郵便でお渡しするよりも確実にお渡しすることをミランダ様がお望みでしたので、私がお届けに参りました」
「ミラが、ですか?」
「はい。その、それに…………」
「それに?」
「ミーゼにも、その、会いに来たと言うか…………」
「ああ、やっぱり♪」
ぱんっ! と可愛らしく手を叩いて微笑むアリス。
ユリアーナはその様子にまたも頬を染める。
と、思い出したように、こほん、と咳払いをして真面目な顔に戻る。
なんだろう、不思議な面持ちでアリスはユリアーナの言葉を待つ。
「ミランダ様より招待状をお預かりしております」
と丁寧に言いながらユリアーナが一つの手紙を取り出した。
そこには、騎馬に乗った騎士の金の紋章が入った精霊封印が施されている、正式な招待状だった。
精霊封印とは、騎馬に乗った騎士のシスタリア統一王国の紋章が金色の精霊インクで捺されている、王族のみ使用できる特別な方法が使われた封印である。さらに紙も最高級のものだ。
精霊封印が捺された手紙は、送られた人物にしか封を開けることを許さない。言葉通り、送られた人物以外が開けようとしても、絶対に開けられないようになっている特別な封印なのだ。
ちなみにアリスは、噂で聞いたことがあるものの、実際に精霊封印を見たことがなかった。しかしアリスには封印から感じられる雰囲気から、直観で精霊の息吹ではないか、と書いてありますので、いう考えに至り、そして確信する。
「はい、確かに頂きました。ユリアーナさん、これって精霊封印ですよね?」
その言葉を聞いて、ユリアーナは驚いた。しかし、すぐに嬉しそうに答える。
「そうです! やっぱりお分かりになるのですね! やはりアリス様はとても凄いです」
精霊封印を即座に見抜くことが出来るのは、王族を覗く一部の上位の魔法使いのうち、さらに一握りほどしかいないと言われる。
そんな凄いことをアリスはやってのけたのだ。
「そ、そんな…… わたしはただ、精霊の息吹を感じただけで……」
「なるほど、精霊の息吹を…… 。それならばもっと出来るの者は少ないでしょう。
と、話が逸れましたね。こちらはミランダ様よりお預かりした、パーティーの招待状になります。詳細はそちらに書いてありますので、後でご覧ください」
「分かりました。ありがとうございますっ あ、ミーゼさんなら上に居ますよ」
そわそわしていたユリアーナに一言かけるアリス。
ユリアーナは恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにお礼を言うと、そそくさと奥へ向かっていった。
それを微笑ましそうに見送ったアリスは、自分の部屋に戻るとさっそくミラからの手紙を開けることにした。
“ミランダ第二王女主催のバレンタインパーティーへの招待状
アリス・クロニティ様宛
貴女を私が主催するバレンタインパーティーへご招待致します。
日時……二月十四日、午後二時から。近衛騎士がお迎えに上がります。
場所……王城の私の自室にて。
補足……一泊出来る荷物を持ってきて下さい。
シスタリア統一王国第二王女、ミランダ・レイ・ラ・シスタリア”
その物語の番外編、アフターストーリーを不定期に投稿しています!
https://ncode.syosetu.com/n0725eq/
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