6、平穏 後編
右の頬にふかふかの感触。
ぼんやり目を開けると目の前には真っ白なシーツと、明るい部屋。
もう朝みたい……。
どうやらあのまま寝てしまったよう。……ずっとうつ伏せだったのかな。
体をベッドの上でゴロンと転がして仰向けになる。朝の光がすこしまぶしくて気持ちいい。どこかから鳥のさえずりが聞こえる。
外の林からかな……?
何気なく窓の外を見る。そこからは青くて優しいこの街の青空が見えた。
…………。
そうか……私、絆…… 埋めちゃったんだ……。
昨日のことを思い出していた。右手を持ち上げ顔の上に手をかざす。部屋の明るさとは対称に、影ですこし黒く見えたそれを見詰める。
この手で穴を掘って……。
私は体を起こし、ベッドから足を下ろし、スリッパをはいて部屋のドアへと歩いていく。
ソウマの顔が浮かんでいた。 ……早くソウマの顔が見たい。
ノブにそっと手を掛ける。
ぶかぶかのワイシャツの袖から出た私の手、これは昨日ソウマに着させてもらったワイシャツ……。
あ……。
昨日の夜のことが頭にすっと浮かんだ。あのふわふわした感覚を思い出す…… なんか身体中がムズムズしてきた。
なんでだろう身体がコソコソと動いちゃう……。これじゃあたぶんソウマの顔がうまく見れない……。でも……、早くソウマの顔が見たい……。
体にくっと力を入れて、ノブを回し、ゆっくりと静かに引いていく。ほんの少しドアが開く……。そしたらその隙間から聞きなれない声が聞こえてきた。
誰だろう……。そういえばさっきから聞こえていた気がする。女の人の声……?
すこし開いたドアの隙間から向こう側を覗き込む…… ソウマがこっち向きにテーブルについて座っていた。
…………。
そのソウマの向かい側に、栗色の髪の長い女の人が後姿で座っていてソウマと何か話してる……。
「創真さん、最近どうしたんですか? おじいちゃん達が心配していましたよ……」
「ああ……、たいしたことではないのだけど、……ハハハ」
「……」
「そんなジトッとした目で見られてもね……」
「だって創真さん最近変ですよ! 特に一週間前くらいからは病院の道具を持ち出したり、急に休みを取ったり……。今まで休みなんて取ったことないのに……」
「うん……、そうだね。でも本当たいしたことじゃないから」
「でも、創真さん……、でも……」
「そう……、ごめんね、キャミにも心配掛けてしまったみたいだね」
「そんな…………、私は……その……」
そのキャミは、急にしゅんと肩を狭めておとなしくなる。少しの間、二人とも黙ったままになった。
「…………あのっ ……ところで、創真さん……。あの…… きょっ、今日は…… あの、…………」
キャミは、なんかもじもじしてきた。
「あの、今日は何のご用でしょうか! ……あの。……もう着なくなった服を持ってきてほしいって、…………も……もしかして! ……」
キャミは肩を狭めて、左右に細く赤いリボンを結んだ頭を上下させながら、胸に抱いている何かを ……紙袋? ……をガサガサ鳴らさせていた。あれが昨日、ソウマが言っていた服?
「ありがとう、キャミ」
ソウマが私じゃない方を見て優しそうに微笑む……。
「私が街に買いに行くわけには……いかないしね」
「創真さんが…… 買いに…いく? ……あ、あのっ!」
キャミが急に勢いよく頭を上げた。
「創真さんは、その……、やっぱり、女の子の服とか…… 下着に興味があったんですか!?」
「……、え?」
「でも……、そうですよね。創真さんも男の方ですし……、その、女の子の下着……とか、あっ……でも! 私……、」
「えとっ ……キャミ?」
「あっ ……大丈夫です! その、理解できますからっ! あの、洋服を持ってきてほしいっていわれたときにも、まさか、とは思ったんですけど……、あと、下着もっていわれたときは……、えっと、だから…… 大丈夫です! 心の準備は出来てました!」
「…………」
なんかソウマ、困った顔してる……。
「……キャミ」
「はいっ!?」
キャミは体中を〝ビクッ〟とさせて変な高さの声で返事をした。
ソウマはさっきよりもっと困った顔をして、小さく息を吐いた。そしてスッと私の方向に顔を向けて、
……私と目が合った。
っ!
今度は私が〝ビクッ〟てなった。……ソウマ、さっきから気づいてた?
「菫、ちょっと出てきてくれるかな」
ソウマに呼ばれた。キャミは「すみれ……?」とつぶやきながらこっちにゆっくりと振りむく。その初めて見えたキャミの顔はすこし戸惑ったような顔をしていて、それでもうっすらとお化粧をしたその顔は、綺麗だった。
なぜか腰をかがめてドアノブを両手でしっかり握りながら、おしりを後ろに突き出すように中腰になっていた変な姿勢をちゃんと立たせて、私はそのドアノブを片手で軽く引いた。
……すこし腰が疲れてる。
ドアが開き、私はリビングに入っていく。ソウマのほうを見る「おはよう、菫」といっていつものように優しく微笑む。そして私はキャミのほうをむく。
キャミは頭につけたリボンと同じ赤色の、ノースリーブのすこしフリフリしたかわいいドレスを着ていて、私のほうに体をねじらせながらぽんと口をあけて目を見開いている、そんな変な顔で私を見ていた。
……やっぱり胸に抱いていたのは紙袋だった。
またソウマのほうを見た。ソウマが何かに気づいたように口を開く。
「ああ……、この子は〝不知火 神入〟。さっきから聞いていたらわかると思うけど、私を含めてみんなこの子のことを〝キャミ〟って呼んでいる」
「……はっ!」
キャミは突然そんな声を上げると、頭の向きだけを私からソウマへとすばやく向けた。
「そ、そうま…… さん……? ……このこ… は? ……」
なんか声が震えてる……。
「この子は……」
「私、菫」
ソウマに割り込んで言った。
……何でだろう。自分で言いたかった。
キャミはまた私のほうに顔を向ける。
「……へ、へぇ~、……菫ちゃんて言うの……。で、その菫ちゃんがどうしてこんなところにいるの… かしら? ……」
「……ソウマに拾われたから」
「そんな、猫みたいに……」
ソウマが困った顔でそういった。
「……じ、じゃあ、なんで…… そんなぶかぶかのワイシャツを着ているの、かしら?」
「……ソウマが着させてくれたから」
「…………じゃあ、じ、自分の服は……?」
「……ソウマに、……裂かれた」
「っ! ……」
キャミが急に下を向いた。キャミ……怒ってる?
「…………ソ ウ マ さ ん……いまのハナシはホントウですか……」
ソウマのほうを見てみる。ソウマ、……すごくあわててる。
「いやっ ……誤解だよ! え、ええと……たしかに、菫の言ったことは……間違いではないのだけど……」
キャミはそれを聞くとガッと顔を上げた。……目に涙がたまっていた。
「私、……創真さんがそんな人なんて知らなかったっ!」
キャミはイスを後ろに倒しながら勢いよく立ち上がると、抱えていた紙袋をソウマに投げつけた。そしてしばらくソウマを涙目でにらみつけて、そのあと、玄関のほうへ走っていった……。
ソウマは「待って! キャミッ!」といいながらキャミを追いかけていった……。
……二人とも外に出て行っちゃったみたい……。
私一人だけがリビングに残った。
…………。
周りを見渡す。テーブルの上には、……キャミが忘れていったのかな、かわいいハンドバックと服がはみ出して散乱させている紙袋がある。紙袋に入っていた服は床にも落ちていた。
私はそこに近づき、いくつかの服を拾い上げる。
しばらくするとキャミとソウマが並んで戻ってきた。
キャミはもう泣いていなかったけど、まだすこし潤んだ目で、安心したように顔をほころばせていた。ソウマは……リビングの中と私を見てすこし驚いたみたい。キャミもすこし遅れて顔を固まらせている。
……どうしたのかな?
私はあらためてリビングを見渡す。前と変わったところがあるとすれば、テーブルいっぱいに紙袋から出した服を並べたぐらい……。私はソウマたちが帰ってくるまで、その服をリビングにある大鏡の前でいろいろと合わせていた。
……だめだったのかな。
私もそんなソウマたちにつられて固まっていると、キャミがなんか疲れたように息を吐いて、言った。
「話は創真さんから聞いたわ。あなた…… 菫ちゃんっていったかしら?」
「菫でいい」
「そう。じゃあ菫、……なんか初対面の人の名前を呼び捨てにするのって抵抗あるわね……、まあいいわ」
キャミはそういうと、私のほうに近づいてきた。
座っていたからわからなかったけど、キャミの背は私より高い。けどソウマに比べるとずいぶんと小さい。私の目の高さに、キャミの喉があった。
「さっきは取り乱しちゃってごめんなさいね。てっきり私は…… その、……ちょっと勘違いしちゃって」
キャミは私に笑顔を作りながらそういった。
「崖から落ちて大怪我したところを創真さんに治療してもらっていたんですってね。さっき創真さんに聞いたわ。……そうよね。よく見たら包帯とかも巻いてあるし……」
キャミはそういいながら私を見回した。その向こうでソウマは、服の広げてあるテーブルの脇のイスに座って、こっちを楽しそうに眺めている。
「……それに記憶喪失なんでしょ」
「え……?」
キャミが聴きなれない言葉を言った。
……きおくそうしつ? なに? それ。
「ん? 記憶そ・う・し・つ。……なんか、名前以外はあまりよく思い出せないって言っていたって、創真さんから聞いたけど……」
私、そんなこと言ってない……。
ソウマ……、うそ……ついた? なんで?
ソウマのほうを見た……。ソウマは私のほうを……ただ、じっと…… 見てる。
そのソウマに重なるようにキャミが出てきた。キャミは不思議そうに私の顔を覗いている。
私は……、
「うん……。…………よく…… 思い出せなくて……」
初めての嘘だった……。なんだか胸がもやもやしてくる。
どうして私、今、うそをついたんだろ……。
「へぇー。それは大変そうね。……でも大丈夫、私も記憶が思い出せるように協力してあげるわ。お姉さんに任せて……」
そういうとキャミはふと私をもう一度見回す。
「……ところで菫、あなたいくつなのか覚えてる? ……見たところ私より歳は下に見えるんだけど、12歳くらい?」
私は首を振った。
「14……」
「えっ!」
キャミがすこし驚いてる。なんでだろ。
「じゃあ、私と同じ歳じゃない! ……てっきり歳下かと」
「同じ歳……」
私もキャミは年上の人と思ってた。
「キャミは同年代の女の子に比べたら大人びているから……。でも、菫も14歳にしてはちょっと幼くは見えるかな」
ソウマは私達を見ながらそういった。私……、ちょっと幼く見えるのかな。そういえばソウマはいくつなんだろう。
「……ソウマは?」
私はソウマに向かって聞いてみた。
「うん? 創真さんは27歳よ。そうですよね、創真さん!」
キャミがソウマのほうを見ながらそう答えた。
「そうだったかな。最近はあまりしっかりと数えてないから……」
「そうですよ! だって私と始めてあったのが、創真さんが22歳のときだったでしょう?」
「ああ……。たしかそうだったかな。あのときは……」
「そのとき、私は9歳だったんですよ」
「ああ、確かそのときキャミが〝清人〟さん…… キャミのお父さんの後ろで、白衣にしがみつきながら私をじっと見ていたね。あの時はとてもお淑やかな子だと思っていたのだけど……」
「……それってどういう意味ですかっ」
……キャミのお父さん?
どういうことかわからず二人を眺めていると、ソウマがそんな私に気づいたみたい……。
「キャミは私が勤めている不知火病院の院長、〝不知火 清十郎〟さんのお孫さんなんだよ。私はあの病院に勤め始めたときから、清十郎さんとその息子で同じ病院に勤めている清人さん、つまりキャミのお父さんに良くしていただいていてね。キャミともそのときからね」
……やっぱりよくわからない。
でもソウマとキャミはとっても前から知り合いだったんだ……。
…………いいなぁ……。
「あのころキャミは清人さんご夫妻の一人娘だったせいなのか、とっても恥ずかしがりやでね。私が話しかけてもよく顔を赤くして逃げられてしまったっけ」
「あっあのときはっ! ……その」
私の目の前に立ってソウマのほうを見ているキャミは、すこし体をもぞもぞしだした。
「それにしても、キャミは清人さんご夫妻にすごく愛されているよね」
「えっ」
キャミは不意を突かれたように驚いた声を出した。
「初めてキャミを紹介されて、名前を聞いたときにも思ったのだけど〝神が入っている〟と書いて〝カミリ〟……。本当に生まれたときから大事にされてきたのだろうね」
「そ、そんな……」
「……」
そんなソウマから顔をそらして赤くなりながらうつむくキャミをみて、私はまた、いいな…… って思っていた。
「……だから、清人さんが私にキャミと婚約してくれないかと持ちかけてこられたときは……とても驚いたよ。それにまだあの時キャミの歳はたしか……」
「……11歳です」
キャミは、まだうつむきながら言った。
「そこまで私のことを信頼していただいている清人さんのお気持ちはとてもうれしかったけれど、さすがにね。それともあれは清人さんの手の込んだ冗談だったのかな」
「そんなことはないと思います。昔からパパ、創真さんが息子だったら、とよく言っていましたし、それに…… 今でも、私が女の子の友達の家に遊びに行った時だって、勉強はとか言っていい顔しなかったのに、創真さんのところへ行くって言ったときは理由も聞かずに行ってらっしゃいって……。この前なんかはお稽古がある日なのにっ、今日は創真君のところへは行かないのか? って言ってたし……」
「そう……。ならあの時、急に婚約とか言われて大変ではなかった?」
「そんなことは……。だってあのときは私がパパに……」
キャミはソウマに向けていた視線を少しずつまた下に落として、最後のほうは近くにいる私でも聞き取れないくらいの小さな声でそういった。
ソウマと私がそんなキャミをしばらく見ていると、キャミは突然赤い顔を上げて、クッとした目で私のほうを見て、
「菫っ! いつまでもその格好のままじゃいやでしょ! 今日持ってきた服全部あなたにあげるから、着替えるわよっ! ……、創真さん! ここで着替えさせますので創真さんはご自分の部屋に行っていてくださいっ!」
急にそう大きな声で言った。
「ん!? ああ……」
ソウマは突然のことですこし驚いたようにそういうと、イスから立ち上がり玄関ホールを抜けて奥の扉の中に入っていった。
キャミはその扉が閉まるのを確認すると、急に力が抜けたようにその場に落ちて、ぺたんと座り込んだ。なんか深呼吸してる……。
しばらくそうしているとキャミは息が整ったのか立ち上がり、私を見た。
「じゃあ、始めましょうか」
と、キャミが言った。
「……、ところで菫。着替える服はその手に持っているものでいいの?」
あ……。
私は今までずっと服を抱えていたことに気がついた。
「……うん」
これはさっきこの鏡の前で合わせていた中で一番気に入っていた服。所々にフリフリがあって腰のところには大きなリボンがついた白いワンピース。
「じゃあそれ持っていてあげるから、そのワイシャツを脱いで」
私はキャミに持っていた服を渡すと、ボタンをはずしてワイシャツを脱いだ。するとキャミはなんか変な顔で私の体を見ている。……キャミに見られても、あまりふわふわしないみたい。
「やるじゃない……」
キャミは私の胸に目を止めると、自分の胸と交互に見ながらそんなことを言った。
何のこと?
「……それより菫。あなた下着もつけてないんじゃない。ちょっと待ってて、持ってくるから」
キャミはそういってテーブルのほうに歩いていくと、私が服を出すときにイスの上に置いた紙袋の中に片手を入れ、がさごそと何か探しているみたい。そうしてキャミは白い下着を取り出すと戻ってきた。
「これなら着けた記憶がないから新品のはずよ」
私はキャミからそれを受け取ると、前後を確認して片方ずつ足を通してはいた。
……手にはオレンジの皮のように丸まった物が二つあってその周りに紐がついている…今、はいたものと同じような生地のものが残った。
これは……、たしか……。
「どうしたの?」
それをじっと見詰める私にキャミが声を掛けた。
「……これ、どう着けるの?」
「えっ!?」
キャミの顔が固まる。知らないとだめだったのかな。
「着けたことないの?」
うなずく。キャミが信じられないという顔をした。
「菫……、あなたそんなにあるんだから着けなきゃだめよ」
だめだったみたい……。
キャミは「しょうがないわね」といいながら、私からそれを受け取ると、紐の部分を持って「こことここに手を通して」といった。着け方を教えてくれるみたい。私はキャミの言う通りに手を通して紐を肩に掛ける。
まったくそれを知らなかったわけじゃなかった。下着を買いにお店に行ったときによく見かけていたし、人形が着けていたからどういうものかも知っていた。けど、つける必要があるのか知らなかったし…… そもそも名前すら知らなかった。
……だって私達は、文字が読めなかったから。
「……わかった?」
「うん……」
それを着け終えるとキャミはそう聞いてきた。ただ着けるだけじゃだめみたい。……それに、
「……キャミ?」
「うん?」
「…………きつい」
「うるさいっ!」
「!?」
キャミ……、すこし怒った?
「ほらっ。じゃあこれ着ちゃってっ」
「……うん」
キャミから白いワンピースを両手で受け取ると、それを逆さに持って一気に頭からかぶる。
……、……、っ! ……。
途中でひっかかった……。
もぞもぞ動いても通っていかない……。
くねくね動いても通っていかない……。
先に両手を通しちゃったからどうにもならない…………。
「なにしてるの……」
白い生地の向こうでうっすらと、キャミがあきれた顔をしているのが見える……。
「…………ひっかかったみたい」
キャミはそれを聞いて「しょうがないわねぇ」といって手伝ってくれた。
「これは…… 先に腰のリボンを解いておかないとだめだったみたいね」
キャミがそういって私の後ろに回り、布がすれる音がすると、白いワンピースはスルッと私の体をすべっていった。
「それで最後にこのリボンを結んで……」
腰のところがキュッと締まり、腰のところでキャミがリボンを結ぶ。
「はい! おしまい。もー、着替えくらい一人でちゃんとできるようになりなさいよ。今までどうしてたの?」
今まで……。
そういえばよく椿に手伝ってもらっていた……。
そう思っているとキャミが「あ……」といって急にしゅんとなった。
「その……、ごめんね……、記憶喪失……だったんだよね……、その、忘れちゃってて……」
私も忘れてた……。
「あのっ! お腹すいてるでしょ? あのとき起きて来たって事はまだ朝ごはん食べてないもんね!」
「……うん」
そういえば、おなか空いた……。
「じゃあ私が作ってあげる! こう見えても料理は習ってて得意なんだからっ!」
そういうとキャミは私と同じぐらい細い腕で力瘤のポーズをしたあとキッチンへと走っていって、迷わず戸棚からすっと白い布に細めの布がついたものを取り出して身に着けている。そういえばソウマも昨日、あれの下半分だけのやつを着けてシチューを作ってた気がする。
料理するときってあれ着けないとだめなのかな。
料理したことないからわからない……。
チッチッチ、という音とともにキャミが私を呼んだ。
「菫、ご飯が出来るまでにテーブルの服、片しておいてもらえる? ……それと、ちょっと早いけど私と創真さんのお昼も一緒に作っちゃうから、創真さんを部屋から呼んできて」
「……うん」
私は言われたとおり服を片そうとテーブルのほうへ行こうとすると、
「それと…… これ、食べ終わったら二人で街へショッピングに行きましょっ! 記憶喪失のせいでわからないこともいっぱいあるみたいだし、いろいろと教えてあげる!」
「……うん」
「それに、菫のサイズの合う…… 下着も買わないとねっ」
「……、うんっ!」




