異世界トリップ
小説家になろうにたくさんあるクラストリップ、そのほとんどが地味な生徒が主人公で、強大な力を手にするようなものだったので、それをリーダー的な存在からの視点で書いてみました。
くらくらする頭の痛みに耐え、俺は立ち上がった。周りを見ると、俺のクラスメイト達が倒れていた。
「皆、大丈夫か!?……ぐっ」
俺は声を張り上げたが、割れるような頭の痛みに、俺はまた頭を抱えた。
「こ、ここは……?」
隣から声が上がる。
「た、達也か?」
「祐斗?」
福原達也、俺の幼馴染で、一番の親友だ。
「ここはどこなんだ?」
「俺が知りたい」
周りを見渡すと、真っ白な大理石でできた、だだっ広い部屋だった。
俺はさっきまでのことを思い出そうと頭を捻った。たしか……そう、今日は確か、教室で文化祭の打ち合わせをクラス全員でやっていたんだ。
俺は県内有数の進学校である私立清涼高校の二年生、牧原祐斗。そしてクラスをまとめる学級委員長をやっている。今日はクラスの出し物を決めるために、教室に皆で集まって会議していたんだ。
それなのに、何で俺たちはこんな所に居るんだ?
「いたたた、何? ここどこ?」
「鈴、大丈夫か?」
一人の女子が目を覚ました、俺の幼馴染の一人、柚木鈴だ。黒髪をショートカットにした、可愛らしい女の子である。
「祐斗君、一体……」
「俺たちにも分らない、俺たちは教室に居たはずだよな?」
「ああ」
クラスのみんなも一人、また一人と目を覚ます。みんな混乱していた。
「何よここ!」
「ど、どうなってんだよ!」
「……異世界、か」
「おい、誰か説明してくれ!」
パニック状態に陥っている、ここは俺がまとめないと。
「皆落ち着け、パニックになってたら埒が明かない!」
「じゃ、じゃあお前はここがどこか、説明できんのかよ!」
「いや、そうじゃない。混乱してたら、いたずらに不安が増すだけだ。まずは落ち着いて、状況を整理したほうがいい」
俺の言葉に、クラスメイトも少し落ち着きを取り戻したらしい。俺はまず出欠を取ることにした。
「欠員が居ないかどうか、確かめよう。じゃあ一番、新井君……」
確かめた結果、誰一人として欠員が無いことが判明した。しかし先生は居ない、あの時、先生は他の用事があると言って教室を出て行ったからだろうか。そうならば、教室に居た人だけがここに来たことになる。しかし、どんなに考えても、答えが出るはずもない。
俺たちが途方に暮れていると、どこからともなく扉の開く音が聞こえてきた。
「ようこそ、勇者の皆さん」
振り向くと、真っ白な鬚を蓄えた一人の老人が、こちらを向いて手を広げていた。
「歓迎いたしますぞ」
これが、俺たちの冒険の始まりだった。
話を聞くと、そのおじいさんはサイラス・ヴァートル・ディーヴァという名前で、ディーヴァ王国の王様らしい。それだけでも驚きなのだが、ここは俺たちがいた世界とは別の世界だと言うのだ。何が何だかさっぱり分らない。
「何で、俺たちがここに居るんですか?」
俺はクラスの代表として、俺は皆の疑問をぶつけた。すると、王様の顔に暗い影が差し、重苦しく口を開いた。
「この世界では近年、妖魔という怪物の大量発生によって、危険にさらされています。妖魔とは、マナと呼ばれるエネルギーによって、ごく普通の動物の体が、凶暴な姿に変化してしまったもののことを言います」
妖魔、おそらくRPGとかのモンスターみたいな奴だろう。何だか、ずいぶんファンタジーな世界に来てしまったようだな。
「その妖魔を操り、この世界を我が物としようとしている者が出てきました。魔王と呼ばれるその人物は、同胞の魔族と共に、我々に攻撃を仕掛けてきたのです」
「そんな奴が」
「ゆるせねぇな」
達也は眉間に皺をよせ、唇を噛み締めていた。達也は小さい時から正義感が強く、いつもいじめられていた麗子を俺と一緒に助けに行ってたっけな。そんな達也だから、魔王とか言うやつの行動には、黙っていられないんだろう。
それは、こいつも同じだったようだ。
「まったくだ、許されることではない。世界は皆で分かち合い、助け合って出来ているのに」
真紅のロングヘアーを後ろに纏めている、大人びた女子生徒、桐谷麗子。鈴の親友で、剣道部の主将をしている。幼馴染の俺が言うのもなんだが、結構美人である。彼女も古い武士のような考えを持っていて、弱いものを強いものが攻撃することに、憤りを感じたのだろう。
「勇者様ならそう仰ってくれると思っておりました。そこで、貴方様方にその魔王を倒していただきたく、この世界に呼んだのであります」
「な、なるほど」
いや、分らないこともある。何故そんな大事なことに、我々みたいな何の戦力にもならない高校生を選ぶ?
「なに勝手なこと言ってんだよ! 俺たちに関係ないことだろ!?」
一人の男子が声を張り上げる。それを皮切りに、クラスのあちこちで同じような声が上がった。
「そ、そうよ。私たちに関係ないわ、早く帰して!」
「うわ最悪ぅ、スマホ忘れてきたんですけどぉー」
「何で俺たちが戦わなきゃいけねぇんだよ!」
「お、落ち着いて、皆!」
鈴が必死になだめるも、クラスメイト達は聞く耳を持たない。
「大体、俺たちただの高校生だぜ?! そんな奴と戦えるわけ無いよ!」
その声に、サイラスさんはキョトンとして、何かに思い当ったように笑いだした。
「いやいや、まだ貴方達は自分の力を実感していませんでしたね」
どういうことだ? クラスは再び静まった。
「まずは謁見の間に行きましょう。といっても、もう謁見を果たしていますが、貴方達の実力を試すために」
サイラスさんの雰囲気にのまれ、俺たちは黙った付いていくことにした。大理石の部屋を抜けると、綺麗な中庭ののような場所を通る渡り廊下を進んでいった。おそらく、ここはディーヴァ王国の城か何かだろう。廊下をすれ違う人の格好は、まさに中世ヨーロッパの貴族といった風だ。
しばらくすると、どでかい扉の前に着いた。
「扉を開けよ!」
サイラスさんがそう叫ぶ。すると、その無駄に大きい扉が、独りでに開いた。これには、皆口を大きく開けていた。何なんだ、誰かが内側から開けたんだろうか……。
中には何人もの偉そうな人たちが座っていた。……目をキラキラさせて。
「お待ちしておりました、勇者様……方?」
しかし、どんどんその空気がざわざわしだす。
「何人もおるぞ?」
「何かの手違いだろうか、伝承では一人のはずでは……」
「いや、戦力が多いのは嬉しいことじゃないですか?」
どうしたのだろうか、よく聞き取れないが、俺達の何かがおかしいんだろうか。
「どうしたんだろう」
鈴は不安そうに呟いた。
「大丈夫だよ。何も心配はいらないさ」
俺はそう言って強がって見せた。正直、俺も不安でいっぱいだ。訳の分らない話を聞かされて、いきなり魔王を倒してくれだの、どこのSF小説だよ。でも、俺は学級委員として、毅然とした態度をとらなきゃならない。そうじゃないと、このクラスは脆く崩壊する危険があるんだから……。
「皆の者、この方たちは正真正銘勇者様である。よって、これより証明の儀を行うこととする」
割れんばかりの歓声が上がる。
「サイラスさん、証明の儀って、何ですか?」
「おお、証明の儀とは我々が勝手にそれっぽくつけただけで、このステータスプレートにて、勇者様の実力を確かめるだけです」
「ステータスプレート?」
サイラスさんは透明な水晶でできた板を取り出した。驚くほどの透明感だ。やっぱりこれも、この世界だけのものなのだろうか。
「皆様の分が用意されております。皆様、こちらに並んでいただけますか?」
サイラスさんが指さした先には、教会のシスターのような格好をした女性たちが、水晶の板を持って並んでいた。全員貼り付けたような笑顔をしている。ファストフード店で接客をやっているアルバイトみたいで、なんだか親近感がわくが、ほとんどが金髪で西洋風の顔立ちしているので、一瞬たじろいだ。
「だ、大丈夫なのかよ、信用して」
一人のクラスメイトが、心配な心の内を漏らす。俺は安心させるよう、精一杯の笑みを浮かべて言った、
「今は従うしかない。心配なら……お、俺が最初にやるよ」
「おい祐斗」
「大丈夫だって」
達也は俺の肩を掴み、咎めるように顔を横に振った。しかし、俺はクラスのリーダーとして、皆を引っ張って行かなくちゃならない。今まで俺が率先して汚れ仕事を引き受けてきた。そうすれば、皆黙って付いてきてくれたんだ。自分たちのリーダーに対しては、皆想像以上に厳しいものだから、誰よりもしっかりしないと、いけないんだ。
俺が決意を決め、サイラスさんの前に立つと、後ろからため息が聞こえた。
「はあ、お前は昔っからそうだな。後先考えねぇで突っ走る。そんなんだから損するんだぞ」
「達也、お前……」
「お前がやるなら、親友の俺がやらねぇでどうするよ」
達也はそう言って笑って見せた。
「わ、私も!」
「鈴?」
「鈴がやるなら、私もやらねばな」
「麗子まで……ははっ、ありがとう」
そういうやつらなんだ、こいつらは。
そんな様子を見て、サイラスさんは嬉しそうに口を開いた。
「やはり勇者様ですな。それでは、このステータスプレートに手をかざしてくだされ。そうすれば、皆様のステータスが表示されます」
「ステータス……」
言われたとおり、手をかざしてみると、どういうわけかその板が光、文字が浮かび上がってきた。
「な、なんだこりゃ」
*******
名前:牧原祐斗
年齢:十七歳
性別:男
レベル:1
ジョブ:勇者
ダメージ:150
オフェンス:120
ディフェンス:110
スピード:130
マジック:190
テクニック:100
特殊技能:剣術・頑強・気配感知・魔力感知・全属性魔法・全属性耐性・合成魔法・完全魔力操作・加速・絶断・霧雨・聖剣・言語理解
*******