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地球滅亡  作者: 伊坂倉葉
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地球滅亡(1)



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全世界は恐怖した。

人類滅亡まで、あと、10時間。

巨大な隕石、月ほども有る隕石が超高速で地球に向かってきていた。

その隕石が地球にぶつかればどうなるか。

例えば、スイカにその4分の1程度の大きさのリンゴが時速100km程の速さで衝突したとしたら!

…結果は火を見るより明らかだ。

流石にそう単純には行かないとしても、地球が滅んでいくイメージぐらいは頭に浮かぶのではないだろうか。

恐竜を滅ぼした可能性の一つに数えられている、隕石衝突。

ゴキブリが生き残れても、人間は生き残れないだろう。

よしんば生き残ったとしても、その先には想像を絶する過酷な現実が待ち受けている。

住処も、食料も殆ど無く、下手をすると死体から伝染病が発生、世界中で蔓延し、天候すらも荒れ狂い牙を剥く。

隕石の衝突で死ななかったとして、どのみち一年二年の内に生き残った人類の内大半は死んでしまうだろう。


勿論、世界は、対策を立てた。

ありとあらゆる国全てが協力して隕石回避に努めた。呉越同舟とはよく言ったものだ。戦争状態にある国も、孤立状態にある国も、全ての国が手を取り合って損得を度外視して問題解決に踏み切った。

議論の末、地球上にある全ての核ミサイルを隕石に打ち込んでみることにした。

相当数が命中。隕石の表面で大爆発が起こる。

しかし。

『壊れないぞ!』

『どうなってんだありゃ…何で出来てるんだ?』

『いやいやいや。少なくとも地球一つ、場合によっては幾度も滅亡させるほどの量の核ミサイルを撃ち込んだんだぞ?なのに』

世界中から集められた科学者たちが愕然とする。

『…なんであれは壊れないんだ!』

科学者たちの目に映ったのは、全く損傷していない隕石の姿。

彼らは今とある会場に集められていて、一人一人がリンゴマークが背面に付いた白い板状の電子機器を手にしていた。その電子機器の画面に映し出されているのは、ついさっき表面で核ミサイルが炸裂したばかりなのに健在な隕石。

『まじ…かよ』

『想定外、ですね』

『想定外?そんな言葉じゃあ足りない』

科学者の一人の髭面の若い男がざわめく会場を見ながら呆れたように言った。

その横に居た、高齢で貫禄がある丸眼鏡をかけた白衣の男が髭面の男の発言を繋ぐように呟く。

『…出鱈目だ』


………………


一般人にもその衝撃は伝播していた。

各国は漏れないようにひた隠しにしていたのだが、どこから漏れてしまったのか、掲示板やブログ等にちらと書き込まれてから、それは瞬く間に世界中に知れ渡った。

本気にして狼狽する人、ガセだとのんびりする人、そもそも何が起きているのか知らずに慌てる人、憶測でホラを吹き更なる混乱を起こす人、ここぞとばかりに神にすがりだす人、などといった色々な行動を取る人が現れたが、結局彼等の内面を支配しているのは不安だった。どうなるか分からない。どうすればいいか、分からない。兎に角、彼等は混乱していた。

一般人の大混乱、それが引き起こすであろう犯罪や、いざというときの統率の消亡等を危惧したとある国が、他国の了承を得ずに独断で国民にばらしてしまった。

おかげで有ること無いこと情報が飛び交い混乱していた世間はその意味では鎮静化したものの、当然一般人の不安は減るどころか爆発的に膨らんだ。

各国は、混乱し半ば暴徒と化した民衆を鎮めようとするが、どうにも対策を立てられず頭を悩ませた。

最早混乱は抑えようがなく、街ではつい最近まで一般人だった犯罪者が闊歩するようになった。

信じもしない神にすがる人が大勢集まり、教会などは本当に信じている人が全く入れない程に大混雑。

街の物は叩き壊され、踏み潰され、警察や軍隊が鎮圧を試みようとしても、津波のように押し寄せる、『核が効かなかった』等と聞いて半ば破れかぶれになってしまった暴徒に対して手の付けようもなく、更には段々とその行動を黙認したり果てはしれっと暴徒に紛れ込んで破壊を始める警察官や軍人もいて、世界中の殆ど全ての街という街は混沌としていた。


………………


一方科学者たちは核ミサイルを撃ち込んで見事に失敗したあと、次の策を考え出した。

正直、議論やミサイルの発射準備等でかなりの時間を費やしたため、残り時間は僅かで、何かをするならこれがラストチャンス、という状態だった。

さらにあまり大がかりな対策は時間的に取れず、科学者や各国の政府高官達は焦っていた。

そんな中考えられた様々な案の中に、とんでもないものがあった。

それはなんと、隕石の衝突と同時に数百名で戦闘機や飛行機に分乗して空中に飛び出し、衝突をやり過ごし、衝突で起きる津波やその他災害が無いところ又は収まった所に着陸、そうして絶滅を防ごうというものである。

作戦名『ノアの方舟』。

隕石を防ぎ地球全体を守るということを最初から考えず、人間の絶滅を防ぐ事を第一として建てられた案。他の動物たちに構っている時間などない。最早最後の手段と呼んでも良いような案だった。

しかしながら、最早宇宙船を打ち上げ隕石をどうこうする程の時間も、大がかりな作戦を展開する程の時間も残っておらず、更に隕石の衝突が地球にどれ程の影響を与えるかすらもわかっていない今、それは賭けでは有るがすがれる案かもしれなかった。

何より、今が最後なのだ。

しかし問題が有った。

自分だけは助かりたいという一部の政府高官達や大富豪達がこぞって『自分を乗せろ』と大混乱に発展。一般人と同じように収拾がつかなくなってしまった。

『進んで茨の道を行きます…か』。荒れ始めた会場の隅で、黒髪の女性の科学者が髪を掻き上げながらぽつりと呟いた。『見上げた自己犠牲ですね』。

他の場所にいたステッキを片手に持った老紳士然とした男が独り言のように言った。『死ぬ方が良いのにな。今ばかりは生き残ることは…辛いだろうよ』。彼の有事の際の口癖は『死んで花実が咲くものか』だった。

『落ち着いて下さい!まだ決定した訳じゃありませんから!落ち着ぴぎっ』

司会者をしている男が混乱を押さえようとして、そのまま押し退けられ、挙げ句誰かに踏まれて変な声を出した。


………………


『あの星にあと数時間で着地します』

『そうだな…』

暗闇に二つの声が響き、二対の目が光っていた。

『今度の新兵器はどれ程の破壊力を持っているのだろうな』

『さあ…目標となっているあの星には生命体がいるのか、多少反撃が見られましたが兵器に大した影響は有りませんでした』

『知ってるよ』

『はい?』

『あの星に生命体がいることは知っている。あの星の名前は「チキュウ」』

『あ、そういえば貴方は…』

『ああ。あの星の出身だ』

『今のお気持ちは?』

『うーん…悲しくも寂しくもないねぇ』

『それはまた興味深い』

『まあ強いて言うなら「同胞よさらば」といったところか』

『…。ま、何にせよ早くぶつかりませんかね。退屈だし。早く報告書書かないといけないし』

『だな。これが終わったら次は?』

『確かあの星…「チチュウ」、でしたっけ?の衛星を破壊するはずです』

『「ツキ」だな。あと、「チキュウ」だ』

『そうそうそれ。で、その「ツキ」に確か最新型のレーザーガン撃って貫通力確かめるとか』

『そっちはさっさと終わりそうだな。ちょいとトイレ行ってくる』

ぱたん、と音がしてすぐに静かになる暗闇。

その中で、ぽそりとさっき敬語で話していた声がした。

『足掻いても、抵抗してももう遅い』

気の抜けた声がぽそぽそと暗闇に溶け出す。

『終わったんだよ、諦めな。お前らの科学力じゃもう覆せない。万が一にも…』

『終焉だ。最後の足掻きを見ようぜ』

いつの間にかトイレから戻ってきていた男が声を遮る。

『一応貴方の産まれた星ですよ』

呆れたように響く声。

『じゃあ精一杯哀しもうか』

『それはまた極端な』

『そっちのほうが後でより話のネタに使えるだろ?』

『…悪魔ですか?』


………………


結局科学者達は有効な対策を建てられないまま、飛行機や戦闘機で一時的に逃げる『ノアの方舟』作戦が取られた。

場所は飛行場。

既に隕石はあと数十分で衝突する。

一部の政府高官達や、その他乗れる事が決まった人以外にも、沢山の『自己犠牲精神溢れる』見上げた人達が我こそはと乗り込み、定員を遥かにオーバーしながら、いつでも飛び立てる用意をしていた。

すぐに飛ばないのは、衝突した影響がどれ程なのかわからないため、いつ着地出来るか分からないので、出来るだけ燃料を残しておきたいから。

誰一人として乗り込まなかった科学者達は皆覚悟を決めていた。

神に祈りすら捧げなかった。

終焉を、

彼等は確信していた。


………………


お偉いさん方の決定に、民衆の混乱は爆発。

不安に駆り立てられ精神の平衡を失い、つまりは狂人と化した人が幾人もふらふらと街を歩き回った。

最早彼等に思考なんて無かった。

『終焉』すら理解していなかった。


破壊は終わっていた。

既に大抵の物は壊れていた。

精神が未だにイカれていない人は、

『終わるときは終わるのよ』

『ゲームオーバーだ!ははは!』

『我が人生に一片の悔い無し!』

どこか吹っ切れていた。

そんな民衆に対して、『ノアの方舟』に参加できなかった(又はしなかった)人間で構成された政府は、

『もう…良いんじゃない?好きにやらせれば…ははは!』

やはりどこか吹っ切れていた。


………………


暗闇。

『あと数十分、いやー長かったですね、やっと終わる』

『だな』

『…見届けましょう。あの星の最後を』


………………


人類は信じていた。生き残った数百名が、絶滅を防いでくれる事を。


…信じていた。


………………


世界時、深夜零時。

あまりにも切りの良すぎる時間に、地球は唐突に終わりを迎えた。


To be continued…

BGM:デッドラインサーカス(Last Note)




2話完結です。僕が書いている連載小説、『能力対策特別組』もよろしくお願いします。というかその広告のために書きました。是非よろしくお願いします。

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