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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

対旋律シリーズ

対旋律A

作者: finale

「誰か本当に、知っている人はいないのか」

 聯能れんのう中学校吹奏楽部の顧問、栢田律かやだりつが部員を見渡しながら苦い顔をした。

(だれか正直に手を挙げてくれ)

 そう心の中で願う律の想いもむなしく、部員の手は一向に挙がらなかった。

 さして不良などがいるわけでもなくどちらかといえば平和だった聯能中学校にある事件が発生しはじめたのは、今から約三週間程前のことだ。

 音楽準備室に片づけてある楽器が何者かに盗まれたのである。初めはピッコロなどの小型楽器が狙われていたのだが、昨日四番目の被害に遭った楽器はユーフォニアムだった。ここまで大型な楽器を準備室から運び出せるのは、信じたくないことだが鍵を借りることのできる吹奏楽部員しかいない。そのような考えに至ったので、現在こうして緊急ミーティングを開いているのである。

「本当に誰もいないのか?先生はお前らを疑いたくないし、犯人にもしたくない。だけど状況から考えて、犯人はお前らの中にもいるかもしれないんだ。何か知っていることがあったらこのミーティングが終わってからでもいいから俺に話しに来てくれ」

 その日の緊急ミーティングは、それから数十分後の律の言葉で打ち切られた。

 不穏な雰囲気をまとわりつかせながら次々と下校していく部員たちを横目で見ながら、律は深く溜息をついた。


翌日、朝練習の監督をするために早めに学校へ来た律は、その足で音楽室へと向かった。部員たちはもちろんだが、やはり彼自身も被害状況が気になっていたのだ。

 不安と緊張をこらえながらゆっくりと音楽室の引き戸を開ける。

 見渡したところ、音楽室に特に異常は見当たらない。ただ、問題は準備室だ。自分の鼓動が次第に早くなっていくのを感じる。

 大きく深呼吸をして、バッ、と準備室のドアを開く。

「う……わ……!」

 そこに広がっていたのは、一言で言うと、想像を絶する光景だった。

 床に、おびただしい量の血が独特の模様を作っていた。そして、その模様の上に一人の少女が倒れていた。山岸亜依(やまぎしあい)、オーボエの二年生で、確か彼女も楽器盗難被害に遭った部員のうちの一人だった筈だ。胸にナイフが刺さっている。心臓を一突き。恐らく即死だったのだろう。そのくらいのことは律にも理解できた。

「どうしてこんな事に……!?」

 見るも恐ろしい光景に、軽く目眩がする。

 とにかく、この状況を誰かに伝えなくてはならない。

 ふらふらする体を奮い立たせながら、律は職員室へと駆けていった。


 十一時間後、午後六時。

 警察の事情聴取も終わり、疲労感を感じながらも律は音楽室へと向かった。事件現場をもう一度見ておきたかったし、なにより帰らぬ人となってしまった亜依に、ピアノを弾いてやりたかった。

 音楽室の前に着き、そっと引き戸を開ける。

 音楽室は、いつもと変わらない静寂を保っていた。

 ピアノ椅子に座り、ピアノを開く。

 始めの音の鍵盤に指を置き、静かに弾き始める。

 曲は「旅立ちの日に」。半月後に控えていた卒業式で歌うために、一生懸命に歌っていた曲だ。亜依の魂を解放するために、お疲れ様と言うために、律も一生懸命にピアノを弾いた。亜依は来年も夏の吹奏楽コンクールに出場して、ソロで活躍してくれるはずだった。素直に悲しかった。もしかしたらオーボエを長く続けて、歴史に名を残すような活躍をしていたかもしれない。もしかしたら何か他の事で活躍していたのかもしれない。そう思うと。

 サビに入った。一心不乱に白と黒の鍵盤を叩く。白と黒の鍵盤を目で追う。白と黒の鍵盤を鳴らす。白と黒と赤の鍵盤を。

 ――白と黒と赤?

 なんで赤が――――?

 すると不意に、律の視界がぼやけはじめた。次第に体の感覚がなくなっていく。

 ピアノがギャン、と不協和音を奏でた。

 ドゥルルルルル、と低い音から順に鍵盤が律の肘で撫でられていく。

 ドサッと律の体がピアノの下に崩れ落ちた。ピアノの周りはべったりとした赤一色に染まっている。

 薄れゆく意識の中、律は確かに聞いた。

「あーあ、馬鹿が」

 ふざけた調子でそう言った、自分と同じ声の、殺人鬼の笑いを。

こんにちは、finaleです。いつもありがとうございます。

続編を書く予定で居ますので、もしお時間があればそちらもお読みください。

それを読めば不明瞭なところにも納得がいくと思います、多分。

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