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皇女と現役男子高校生と残された手紙

 ぼくの中ではセーラ皇女の意識が現状を分析する。


 まずは、面白い状況になったものだ。

 このまま、セーラ皇女が戻ると言う選択はあり得ない。

 第一皇女と言う立場は、色々と制約が多すぎる。


 もにゅ。


 多すぎると言えば、イズミットも色々と謎がある。かの地に潜入する事を考えると、大妙寺晶と言う仮面は非常に有難い。

 また、いざとなった時の「漆黒の戦士」の力は、短い時間制約があるとは言え、極めて有効だ。

 なぜ、このような事になったかはいくつか仮説が立てられる。検証する手段は無いが、あの時に寸分違わずに重なった二つの召喚魔法の魔法陣が、セーラ皇女の魔力と引き合ったのかもしれない。


 もにゅ、もにゅ。


 そして、セーラの意識の中で大妙寺晶の知識が思惟に反映される。

 大妙寺晶が異世界の言葉を理解しているのは、逆に、セーラ皇女の知識が反映されているからだろう。

 今の「セーラ皇女」と「大妙寺晶」そして「漆黒の戦士」は次元的に重なった状況にあると考えられる。

 大妙寺晶の知識にある、エスエフというのか、その考え方でモデル化した解釈をすれば、こういうことだろう。

 例えば、先の3人の絵がある。

 二次元の存在である、この絵を重ねると、厚み、つまり、高さの概念が加わり三次元になる。

 この絵が丁度収まるように穴を開けた大きな紙を考える。この紙が世界ナウザーだ。


 もにゅ、もにゅ、もにゅ。


 重ねた厚みのある絵を、先ほどの大きな紙に当てはめる。

 ここから先は三次元的な操作で、重ねた絵の位置を、高さの概念でずらす。

 世界ナウザーを示す紙と同じ「位置」になった絵が、世界ナウザーに「存在」として顕現する。

 このように、世界ナウザーに高次元的に重なった三者が「位置」をずらす事で、同一の空間位置に、代わる代わるに出現する。

 多分、そのようなものなのだろう。

 実際には「次元」なのか「亜空間」なのか、こちらで言う「異界」なのかはよくわからないが。


 もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ。

 すりすりすり。


 世界ナウザーから《ずれて》いる間は、セーラの魔力も探知されない。

 隠密行動としては「あふん」うってつけの「いやん」


 ここで、セーラの意識は思考を止めて、自分の胸を揉んでいる手を凝視する。

 無論、ここに誰も居るはずも無く、自分で揉んでいるのだ。

 揉むだけでは無く先端を撫でてもおり、その感覚が無意識にあえぎ声を出しているようだった。


(なんだ?私は何をやっている)


 水鏡に映る美貌は羞恥に染まり、目を潤ませている。

 はっきり言って、エロい。


(な、な、何が)


 誰かが、恐慌状態に陥っているような気がした。

 何となく罪悪感とか自己嫌悪を感じなくも無いが、日頃妄想に耽っている現役男子高校生のリビドーは半端ではない。

 身に着けていた貫頭衣は「漆黒の戦士」――いちいち、面倒なので、安直にダークと呼ぶが、そのダークに位置を譲った時に、単純にサイズが合わなくて弾けてしまっていた。

 水鏡に映る裸の美少女が、自分の身体を触りながら、目を潤ませてこちらを見ている。

 ま、鏡を見ているんだから、視線的にはそうなるのだが。

 好奇心とリビドーのままに、とりあえず、色々と弄繰り回す事にする。

 弄繰り回すと、当然感じるわけで、そうすると、弄くる指先が更にエスカレートする。


(やめ……そこは、やめて)


 脳裏で叫ぶ制止の声よりも、ぼくとしては大妙寺晶としての行動原理を優先した。

 誰かの悲鳴が聞こえたような気がしたが、敢えて無視することにする。



 翌朝、セーラ皇女が残した魔法衣の隠しから、サライさんに当てた命令書がみつかったそうである。

 ソルタニアの兵士が標準装備で持っている羊皮紙に書かれているのが不思議がられているが、水に魔力を込めて記述されたそれは、明らかにセーラ皇女の筆跡であり、また、残された魔力の波動痕跡もセーラ皇女のものと明らかになった為、その指示に従い、魔道騎士団は、本心はともかくとしても、皇女の捜索を打ち切り、ソルタニアへの帰還を始めた。

 手紙の内容は、サライさんが口頭で受けた命令よりも、帰還を優先する事が強調されていたそうだ。

 簡単に言うと


「何が起こっても自分は大丈夫だから、探すな、とっと帰れ」


 と、言った調子らしい。

 また、自分が不在の時はサライさんが魔道騎士団を掌握する旨の指示も記載されていたとか。

 どうも、全体的に、事情があって、自分から行方をくらましたと言う印象を与える文面だったそうである。

 ちなみに、水に魔力を込めて書いた文書は、特定の「言葉」に反応して文字として浮き上がるもので、極秘文書や密書を書く際に、良く使われるそうだ。


 一方のイズミット軍も半壊状態にあるため後退するような気配があり、これに合わせてソルタニア軍も撤収するとの事だった。

 今回の戦いは痛みわけに近い形になるが、連戦連勝のイズミット軍の侵攻をソルタニアが、ともかくも跳ね除けた構図になる。

 すぐに再戦となるかどうかは不明だが、今しばらくは戦場外での駆け引きになるような見通しらしい。


 ぼくの身の振り方はと言えば、セーラ皇女の手紙に


「イズミットが召喚した存在で、意思の疎通が可能であり、無害と判断された場合、魔道騎士団で保護せよ。これは最優先で実行することを望む」


 と言う一文があったので、サライさんと共に、ソルタニアへ行くことになる。

 なお、


「異世界の存在は我々には理解しがたい行動原理を持つ事が予想される。奇矯な行動を取っても、害にならない限りは放置せよ」


 との追記があったので、朝早くに適当に物資から失敬した貫頭衣を着て、のこのこと姿を現したところ、ドラゴン出現時に血相を変えてどこへ行ったのかを問われて「ちょっと、用足しに」と応えたら、何とも言えない視線を浴びただけで済んだ。


 まぁ、それはともかく、前述の今後の見通しについての事を、ようやく、魔法衣から通常の衣服に着替えたサライさんから聞いた。

 ぼくは馬に乗れないので、馬に引かせた物資の荷車に乗って、騎乗するサライさんと会話している。


「とりあえず、これで、宰相閣下に付け入る隙も与える事無く、サライ卿が魔道騎士団を纏め上げ、殿下の帰還をお待ち申し上げる、と言うところですね」


 イグニート卿がサライさんと轡を並べて言う。


「ただ、わからない事もいくつもありました。殿下の魔法衣は何回も調べたのに、あの手紙に気がつかない筈は無いのですが」


 サライさんがその美貌に困惑を滲ませて言う。


「それに、あの手紙もおかしいと言えば、おかしいのです」

「と、言われますと?」

「水に魔力を込める当たって、よく使われるのは血なんですが、どうもそうでは無いようでした。言え、唾でも何でも、自分の身体の一部であれば良いのですが」


 どうも、体液なら何でも良いらしい。

 流石に、あれだけ弄繰り回して体力を消耗していると、魔力の源たる血を少しでも流すのは、その後の、隠密性を必須とする行動に支障をきたす可能性があるとは言え。まぁ、洪水みたいになっていたから、量的には十分だったか……

 いきなり、ぼくの右手が動いて、ぼくの頬を叩く。


「どうした?」


 荷車の反対側でユニコーンに騎乗していた赤い髪の少女が聞いてきた。

 いつぞや、檻の中のぼくの股間を指差して凝視してくれやがりました彼女である。

 エレナと言う名前で、サライさんの補佐を勤める事になったらしい。


「いや、虫が……」


 忘れろ、と言う高次元からの涙混じりの怒鳴り声を聞いた気がして、とりあえず、あの記憶から意識をそらす。


 なおも、サライさんが不思議そうに呟いているのが聞こえる。


「殿下の字は、いつも落ち着きを感じますのに、何か息も絶え絶えに書いているような、そんな筆跡でしたから、一体、何があったのか気になって気になって」


 なるべく、そちらには耳をかさないようにして、ぼくは、ソルタニアへと続く道の彼方を見やった。

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