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造られた人々と魔道人形

 ぼくたちはアゾナ東門前の大広場に陣取っていた。

 最終決戦と言う事で、全員、いつでも打って出る構えだ。

 アルスとリックの二人は、完全武装した重装歩兵の姿で出番を待っている。

 ライルさんは腰に大きめのナイフをつけた革鎧という軽装だ。

 薬師のおばさんは、いつも通りのトーガのような格好。

 サーシャさんとエレナの元魔道騎士団コンビは、さすがに高価な魔法衣の持ち出しは無理だったのだが、それに準ずる防御の高さを誇る銀龍の皮で出来た鎧をつけている。

 いかなる刃物も通す事は無く、多層構造により大抵の攻性魔法や強力な打撃をも吸収するこの素材は、薄くて伸縮性が高く、これで全身を覆ったその姿は、鎧というよりはレオタードのような感じである。

 下着の類が無いこの異世界ナウザーでは、身体の線がすっかり浮き出てしまうので、非常に目の保養になる。

 エレナには「あまり、こっち見るな」と叱られてしまった。


 アゾナ側も残存戦力を揃えてきた。

 ジョシュア神殿長を筆頭に、ハンナやアンナを始めとする武官と思われる十数人。

 そして、その他、奥院で見かけた人々もいる。

 アネッサ導師や修行中の娘達も駆り出されているようだ。

 アゾナ側の武装は、さすがに財力豊かな神殿だけあって、全員が魔法衣だ。

 しかも、ミスリル銀と黒鉱石の合金を編みこんだと言う、ソルタニア魔道騎士団の装備よりもランクが上のものらしい。

 もっとも、ぼくの目には、全身網タイツにしか見えない。

 いや、素裸よりも大変に宜しい眺めである。

 そして、ぼくたちの前方で女戦士型魔道人形が出撃を待っている。

 この大広場に集まっている人々以外の、魔力を使い果たした魔道士などは、非戦闘員ともども、南院の地下空洞に避難して、侍女型魔道人形の約百体に守られているようだ。


 偵察用の魔道人形が捉えている映像を投影しているとの事で、ぼくたちの前方の空中には、ゴーレムの残骸の中に佇む三人の映像が浮かんでいる。

 召喚魔法の使い手たることを示す紋様の入った緋色のローブに身を包み、フードを深く下ろしたその姿の中身を窺い知ることはできない。

 このローブは魔法衣だと思われるが、こうして映像越しに見ると、ぼくにも認識できるようだ。

 たぶん、これはユアの魔力レベルに応じた見え方なのだろう。

 この召喚魔道士たちが姿を現してから、一半刻ほど、全く動きは無い。

 見張り塔のケインから、威嚇に何本か打ち込むかどうかの問い合わせが来たようだが、ライルさんは、あくまでも相手の出方を見守るようである。


「どういう事情かしらないが、のこのこと現れたんだ。魔物を召喚しないうちに仕留めてしまえば済むんじゃないか」

「いくらお前さんでも、魔法衣を身につけた相手を射抜くのは無理だろう。防御結界も展開しているだろうしな。矢の無駄さ」


 ケインとライルさんが、通信の魔道具越しにそんな会話をしていると、召喚魔道士に動きがあった。

 魔道士たち全員が、被っていたフードを下ろし、素顔を露わにしたのだ。

 それを見た、大広場の人々がざわめいた。

 三人とも、全く同じ顔立ちだったのだ。

 そして、それは、ソルタニアで見た召喚魔道士とも同じ容貌だった。


「ふふん、あれがイズミットの召喚魔道士か。噂では“造られた人々”っていうことだったが、どうやら本当のようだな」


 報告書マニアなライルさんが、面白がっているような口調で言った。


「なんだよ、その“造られた人々”って」


 エレナが興味津々で尋ねたが、ライルさんがそれに応えようとする前に、三人の召喚魔道士の一人が口を開いた。


「聞こえているだろう。アゾナの者どもよ」


 偵察用の魔道人形は音声も拾っているようで、おっしゃるとおりによく聞こえている。


「よくぞ、我らの魔物を凌いだ」

「だが、これ以上は耐えられまい」

「おとなしく、差し出すが良い」


 三人の魔道士が口々に言う。


「ほほう。交渉ときたか。問答無用のイズミットには珍しいな」


 ライルさんは少し驚いたように目を見張って言った。

 そして、任せる、と言うように、ジョシュア神殿長に向かって、親指で召喚魔道士たちの映像を指し示して見せた。

 ユアが頷くのを見て、褐色の神殿長は、映像の中の召喚魔道士に向かって応えた。


「アゾナ神殿長のジョシュアだ。何を差し出せと言うのだ」

「ひとつ、そちらで保有している筈のゾーガ神の遺物。ふたつ、ソルタニアの《魔の皇女》」

「な……」


 エレナが激昂して喚きだそうとしたが、サーシャさんの白い手がその口を押さえた。

 召喚魔道士の要求には、ジョシュア神殿長も驚いた筈だが、腰に手を当てて動じることなく応対する。


「そちらの要求するゾーガ神の遺物なるものは、我々の関知するところでは無い。《魔の皇女》とは、ソルタニア第一皇女セーラ殿下か。だとすると、先日まではアゾナにおられたのは事実だが、現在、我々も、その行方は知らない」


 威厳に満ちて、堂々と応えている様は、さすがにアゾナ神殿の長だけのことはある。

 ちなみに、魔法衣に隠れて、みんなには見えないのかもしれないが、この褐色の美女の張りのある太ももはぴったりとくっつき、形の良いお尻も何かをこらえるように震えながら引き締められているように、ぼくには見える。

 たぶん、注入した液体状の秘石が、未だに吸収しきれていないのだろう。

 いや、いろんな意味で、さすがにアゾナ神殿の長だけのことはある。


「ふふふ、アゾナの民は惨たらしい死を選ぶか」

「おとなしく差し出せば、速やかなる死を与えたものを」


 イズミットの召喚魔道士たちが、壊れたような笑みを浮かべて、そんな事を言っている。

 どっちにしてもアゾナを殲滅する方針は変わらないようだ。


「くるぞ」


 ライルさんの低いが良く通る声が聞こえるのと、召喚魔道士の二人がローブを脱ぎ捨てるのは同時だった。

 両性具有の、その裸身に刻んだ紋様が、凄まじい輝きを放った。

 その輝きの中に、二人の召喚魔道士の姿は溶け崩れていくように見えた。

 やがて、巨大な魔法陣が形成され、そして、キマイラが次々とその中から姿を現した。

 それを見ながら、ぼくは、あの会議室で聞いたライルさんとエレナのやり取りの続きを思い出した。

 あの時、ライルさんが言った「原点に戻る」とは、最初のアゾナへの攻撃の事を示していた……




「結果として、第二次まで引っ張ることになっちまったが、イズミット側としては、元々、最初の襲撃でアゾナを壊滅させるつもりだった筈だ」


 と、ライルさんは言っていた。


「召喚魔法に得手不得手とか、個人差があるかどうかまではわからないが、連中は効率の上では最も召喚しやすい中で、最も強力な魔物を投入したのだと思う。事実、黒い神呪騎甲兵バムロードの出現が無ければ、紅いのが居なくても、多分、キマイラだけでアゾナは壊滅したかもしれんからな」

「うむ。特別誂えが揃っていても、あの数で押されてはな。防御に綻びが出るのは避けられん」


 《守護の人形遣い》も同意していた。


「そして、第二波の攻撃をなんとか撃退した現在のアゾナの状況は、じつのところ、最初の襲撃前の状態とたいして変わらない……と、密偵の報告を受けたわけだ。キマイラも充分に強力な魔物だし、第二波までに打撃を与えられなかった現状を考慮すると、もっとも少ない魔力で量を呼べると思われる選択をするだろうさ」


 つまるところ、ライルさんは「読みきれない」とか「出たとこ勝負」みたいな事を言っていたけれど、それはポーズだったようだ。

 まぁ、確証が充分になかったので、慎重になったのだろうけれど。

 しかし、予想がつくからといって、対策が立てられるかは別問題である。

 特に、正面から物量で押して来る相手には、相応の戦力が無ければ、工夫とか奇策もまったく意味は無い。

 ぼくとしては、戦略的に、とか、戦術では、などと語りたいところではあるが、現状は、目の前の危機をどうするか、と、言う事になるだろうか――




 などと、呑気に回想していたが、城門が開き、女戦士の姿を模した石像の一群が打って出るのを見て、ぼくはようやく我に返った。

 その修復済みの数体を含む、最初の襲撃の生き残りである約二〇体の魔道人形に続くのは……やはり、女戦士型の魔道人形だ。

 それらの魔道人形の全身は、防具等に良く使われる黒鉄くろがねの鈍い輝きを放っており、石像タイプよりも頑丈そうで、動きも段違いに俊敏だ。


「なん……だと……」


 一人残った召喚魔道士が、愕然とした表情でそう呟く様子を、偵察用魔道人形は映像に捉えていた。

 まぁ、無理もないかもしれない。

 石材から削り出して、一体につき、一月はかかると言う女戦士型の魔道人形。

 しかし、かの召喚魔道士に見えているのは、石像タイプよりも削り出しに時間がかかると思われる黒鉄くろがね製のそれが、城門から続々と現れる光景であっただろうからだ。

 多分、数にして、百をはるかに越えるだろう。

 いや、切っ掛けは、ぼくが男子の嗜みとしての人形を、こっそりとユアにねだってみた事からなのだが。




 そもそもは、先日の演習場でのことだった。


「強度を問わぬ、と、言うのであれば、人形師の見習いどもが術を施す練習につかう素材があるが」


 と、ぼくの、こっそりとした頼みごと聞いた幼女エルフは、思いっきり眉をひそめて訝しげな表情になった。


「しかし、裸体の魔道人形など、何に使うのだ?」

「しーっ、もっと小声で」


 ぼくが慌ててそう言った時には、ユアのよく通る声が、エレナといっしょに人形師と何事かを話していたサーシャさんの耳に入った後だったようだ。

 そして、至極当然のことながら、サーシャさんにも問われた。てか、問い詰められた。


「ん~、あたしも知りたいなぁ~。ねぇ、アキラちゃん、そんな魔道人形を何に使うつもりだったのぉ」


 この異世界ナウザーには、そっち系な人形の趣味とか、嗜好に該当する分野の概念は無い筈だったが、何かを感じ取ったのだろう。

 サーシャさんは、いつも通りに、ぽわぽわ、にこにことしていたが――目が怖かった。

 なので、正直に答えることにした。


「ええっと。そのう、(ビキニ)アーマーを着せてみたり、とか? てへ☆」


 それを聞いたサーシャさんは少し驚いた様子で、ユアと顔を見合わせた。

 幼女エルフも、驚きを隠せない様子だった。


「は~、なるほど。ユアちゃん、どう思う」

「うむ、そんな考え方があったか。いや、盲点だった」


 そして、通信用魔道具で、ライルさんにも連絡が入れられた。

 連絡を受けたライルさんは、すぐさま、武官コンビを連れたジョシュア神殿長を伴って駆けつけてきた。

 ひょっとして、セーラ皇女の知識に無いだけで、セーラー服を着せたり、ビキニアーマーを着せたりする人形って、じつはとんでもなくイケナイことだったのか……と、大事になりそうな雰囲気に、ぼくはびびってしまったが、そんなぼくはそっちのけで、ライルさんや神殿長は、人形師を集めて、ユアやサーシャさんと共に何事かを熱心に話し始めた。


 魔道人形製造を行う人形師と呼ばれる魔道士の見習いは、術を施す練習に、粘土のような素材を使用する。

 通常の魔道人形が彫刻だとすると、これは塑像のようなもので、ありふれた火の魔石などで乾かせば、とりあえずはできあがる、非常に簡易なシロモノだ。

 これは素焼きの陶器……いや、むしろ、土器以前と表現すべきような出来栄えで、非常に脆くて壊れやすく、実用にはまったく向かないが、トライ・アンド・エラーを繰り返す「練習」とか「試作」とか言う用途にはぴったりな製造方法だ。

 とにかく早くにできるのだ。

 だが、五体が揃っている形状を保っている限りは、通常の魔道人形と遜色の無い性能にはなる。

 従って、これを、頑丈な黒鉄の外装アーマーで覆うことで、脆いという問題を解消すれば、充分に実戦投入に耐えうるのではないか。

 ぼくの趣味的な発言が微妙に勘違いされて、そういう結論に至ったようだ。

 この一連の事情を知らされるまで、冶金の鍛冶方も呼ばれて、だんだんに人数が増えていくのを、ぼくは、びくびくしながら見ていた。


 その場で、数体の試作品が作成された。

 人形の本体は、前述のとおり見習いでも手早く作成できるので、ある程度熟練した人形師であれば、ものの数十分で均質な形状のものが生産可能であり、外装に関しては、打ち合わせに従って、個別の部分を型を作って鋳造し、これを貼り合わせて継ぎ目を溶接する事で、さほど時間がかからない事がわかった。

 こうして造られた試作品で色々と試験したところ、衝撃を受けた場合、内部本体の脆い部分は砕けてしまうが、外装が無事で人型の形状を保っている限りは、魔道人形としての機能に支障が無い事が確認された。

 むしろ、内部の素材が衝撃を吸収することになり、頑丈だが粘りのある黒鉄の性質と相まって、魔道人形としての耐久性は向上していると言う結果となった。

 そして、その結果が確認されるや、この新型の魔道人形に関しては、厳重な緘口令がひかれた。


 試作品が造られた演習場付近は、元々、新兵器……魔戦銃や魔道弾の試験と言う事で、厳重な警戒体勢下にあり、集められた人形師や鍛冶方も、アゾナに代々住んでいる人間ばかりなので、その時点では、アゾナに潜入している筈のイズミットの間諜には知られていないと思われたが、それでも、ライルさんやジョシュア神殿長は慎重だった。

 完成する前の人形本体は非常に脆いシロモノなので、破壊工作は容易くできてしまう。

 また、下手をすれば、人形師や鍛冶方が狙われる可能性もある。

 何しろ、一番の課題である「戦力としての数を揃える」ことを可能にしてしまう新型なのだ。

 結局、人形本体と外装は全く無関係を装って造る事にして、実戦に投入する直前に組み立てると言う方向でまとまったようだ。

 知らない人間が見れば、練習用の魔道人形が、不自然なまでに大量に生産されている事を訝しく感じるかもしれないが、これは人形師見習いの熟練度を一日でも早く向上させる為、と言う噂を城塞都市の中にばらまく事で誤魔化せると見込んだようだ。

 一方で、バラバラに作成された外装は、ぼくの世界で言えば、プラモのパーツみたいなものなので、完成図の設計書を見ない限りは用途が全く不明と思われるだろう、と、見なされた。

 むろん、そんな設計書などあるわけも無い。

 魔道弾に関して、ほぼオープンに開示されたのは、ひとつには、この新型魔道人形から、イズミットの間諜の目を逸らさせる目的もあったようだ。


 ちなみに、この新型魔道人形の発案は、ぼくと言う事になって、誉められたり賞賛されたりした。

 具体的な褒賞は、この一連の戦いが済んでから、と、差し当たりは新型魔道人形に、ぼくの名前にちなんだ呼称をつけると言う話もあったが、言い出した人がサーシャさんなので、これは全力で固辞させてもらった。

 ぼくの本音としては、元々の目的用途の魔道人形を一体貰いたかったのではあるが、こういう状況となっては、とても言い出せるものではない。




 そして、現在。

 ゴーレムの襲来直後から、かねての打ち合わせ通りに外装の取り付けが開始され、事前に充分な準備がなされた事もあって、この数刻の時間で、これだけの新型魔道人形が勢ぞろいしたわけである。

 魔法陣からは、次々とキマイラが召喚されているが、迎撃する新型魔道人形は、ほぼ一対一でこれを押さえ込んでおり、その防衛網を突破する事はできないようである。

 さらに、ユアの特別誂えの二体が投入されると、キマイラ側が押される事となった。


 第三波の攻防は、またもアゾナ側が優勢に見える。

 だが、第二次アゾナ会戦の、最終局面はこれからだと言う事は、ライルさんを始めとする面々は承知しているようだった。

 ぼくも、対ゴーレム用の魔石を生成してからずっと休息していたらしいセーラ皇女の意識が、徐々に覚醒していくのを感じていた。

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