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無力な魔物

「……殿下の行方……」

「未だ見当たりませぬ。ただ、あの跡には殿下の魔法衣が全て……」

「錫杖までが残されて……」

「……撤収はどのような」

聖盾せいじゅんの第三が殿しんがりを……」


 そんな会話が遠くから聞こえてくる。

 目を開けて視野に入ったのは知らない天井ではなくて、星空だった。

 裸のままのようで、寒くてしょうが無い。

 体を起こそうとして、ようやく縛られているのに気がついた。


 気絶したのはブレーカーが落ちるのと同じで、ぼくの潜在意識が安全装置のように、あれ以上の情報の入力を防ぐためだったのかもしれない。状況はさっぱりわからないが、妙に落ち着いているのを感じる。

 理解できる言葉が聞こえているのも、ひとつの要因かもしれない。

 会話ができる相手がいるということは、状況がわからない中でひどく安心できるものだ。

 身動きはできないが、周囲を見回す事はできる。


 先ほどまで居た見晴らしの良い高原ではなく、どこかの森の中のひらけた場所のようだった。

 全身を縄で縛られ、猛獣を入れるような檻に閉じ込められている。

 首と足には鉄の輪があり、重りが鎖でつながれているようだ。

 自慢にはならないが、スポーツは苦手で、力も無いほうなので、首と足の重りは不要なんじゃないかなぁ、などとひとごとのように考えていると、ぼくが目覚めたのに気がついたのか、声が聞こえた。


「魔物が起きたようです」


 そちらを見ると、高そうな鎧に身を固めた男一人と、どうにも理解しかねる格好の若い女性が三人こちらに来るところだった。


「他の魔物は異界に戻ったようだが、コレは何故、こちらにとどまったままなのです?」


 男が軽く首をかしげている。

 一言で言うと金髪碧眼のイケメンと言って差し支え無い容貌の持ち主だ。

 所謂フルプレートアーマーと言うタイプの鎧に身を包んでいるが、動きは滑らかで、鎧が特別なのか、筋力があるのかのとちらかだろう。


「この世界との親和性が高い魔物は、そのまま居ついてしまう事もあるそうですわ、イグニート卿」


 女性の一人が応える。三人の中では一番長身で、一番髪が長くて、一番年長で、一番巨乳……あ、いや、ともかく、知的な美貌のお姉さんと言うタイプだ。ぱっと見た感じは二十台前半と言うところだろう。その銀髪は腰まで届くくらいある。つややかなそれは手入れが面倒そうだ。


「しかし、始めてみる魔物だな?人型でこのサイズ。腰布ひとつと言うところで知能は高くない種族のようだが……」


 イグニート卿と呼ばれたイケメンは言いたい事を言ってくれている。


「そのわりには、肌がきれいですね。今は汚れてしまっていますが、出現時には良い香りがして、湯浴みしたてのような感じだったそうです」


 妹の主張でボディシャンプーがそういう香りの強い製品だったものしか家においてない為だ。


「ゴブリンとかの類とも違うねぇ。香りがあったと言う事は妖精の一種かなぁ?そんな感じはしないけど」


 金髪を肩までのばしている、もう一人の女性が考え込むように言う。

 なんとなく、ほわっとした印象を与えるが、こちらも中々の巨乳……いや、その、おっとりした美人といったところだ。


「妖精?いくらなんでもこんなでかい妖精なんかいるわけが無いだろう」


 女性陣の最後の一人は赤い髪を短く刈り込んだ、ぼくと同年代か少し下くらいの少女だった。

 一番年下のようで、胸のサイズの一番小さい、とは言っても、Cカップくらいだろうか。他の二人が豊か過ぎるのだろう。

 その代わり、一番筋肉質と言う感じで端正な顔立ちではあるのだが、美少女と言うよりは悪童という感じだ。


「妖精だったらかなり残念な顔だよなぁ。大体、妖精にしては、あそこのつくりがオスっぽくね?」


 好き勝手な事を言って、ぼくの股間を遠慮なく指差してくれている。

 縛られた時に巻いたタオルが取れたのか、ぼくは何もかもを晒している状態だった事に気がついた。

 流石に、若い女性三人にそんなところを見つめられて平然としていられる趣味は無い。


「あ、あの、縄を解いてくれませんか。せめてパンツだけでも履かせてくれぇ」


 もう、お婿に行けないと言う思いを込めて、悲痛な叫びを上げた。


「しゃべった!?」


 女性三人とイケメンが目を丸くして異口同音に叫んだ。

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