責められる少女と攻め寄せる魔物
舞踏は武闘に通じる。
宝物庫、つまり、神殿関係者以外立ち入り厳禁の区画に通じる門の前で、衛視のように立っている逞しいお姉様二人を見ると、しみじみとそう思う。
特に武器を持っているわけでも無く、どちらかと言うと、二人とも、女性らしい豊かな曲線美の持ち主なのだが、鍛え抜かれた長身は、ビリビリと物理的な迫力を伴って、一種近づきがたい雰囲気がある。
乙女の守護を司ると言う事は、武力無しに成し得る事ではなく、殺伐とした事も厭わない。そうしたアゾナの姿勢を示す象徴とも言える二人だった。
実際に、過去、アゾナへの破壊工作を目論んだ女暗殺者が潜入した事例もあったそうで、乙女の守護神のお膝元とはいえ、女性だから無条件に何でも許されると言うわけでは無いと、黒髪の女官は教えてくれた。
そのアネッサ導師から渡された、ぼくの左手首の、小さな紫水晶のついたブレスレッドを、一人が面白くもなさそうに見やって頷き、もう一人が黙ったまま門を開けた。
ぼくの右手には、細い銀の鎖があり、それは、リードのように、後ろについてくるフィーナの首にはめられた皮製のチョーカーに繋がっていた。
(なんだろなぁ、この調教プレイ)
などと思いながら、ぼくは軽く会釈して、フィーナを連れて門をくぐった。
アネッサ導師に教わった道順通りに進み、ぼくとフィーナは一つの部屋に入った。
必要な道具……つまり、“試練の館”で見かけたあれこれが並べられている。
不安そうにしていたフィーナが、いっそう怯えたような表情を浮かべた。
ぼくは、それらの中から、導師に指示されたもの――秘石を取り上げた。
短期間で不足分を補うと言う事もあって、とにかく極太で長大なものが用意されていた。
フィーナは、「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、それを見つめていたが、やがて観念したように、マットのような敷き布の上にうつ伏せになると、豊かなお尻を掲げて、そして震える両手でゆっくりと広げた。
「ごめんなさい。許して。ごめんなさい。許して……」
半泣きになって、そう繰り返す、しかし、挑発的な格好のナイスバディーな金髪の美少女。
くっくっくっ、可愛がってやるぜぇ。鬼畜タイムだ、ヒャッハー。
……………………とか、思っていたのだが、駄目だった。
セーラ皇女の身体を弄るのは、全く抵抗が無い。一心……ではないが、同体というか、半分、自分の身体みたいなものだし、皇女が放つ(ような気がする)懇願の悲鳴も、直接に聞こえるものでもない。
しかし、目の前で、涙ぐんで震えるフィーナに対し、どうにも行動に踏み切れない。
(本当に、ヘタレねぇ)
呆れたような、しかし、どこか優しい口調で囁かれたような気がしたかと思うと、次の瞬間、セーラ皇女の意識が身体制御の主導権を握っていた。
かなりの部分を把握したらしく、ぼくには視覚と聴覚の一部しか認識できない。小さなテレビ画面を見ているようなものとでも言えば良いか、実感と言うものがわかない状態となっている。
主導権を奪い返す事はたやすい筈だったが、結局、ぼくはセーラ皇女に委ねたままにしてしまった。
セーラ皇女は魔力を解放し、秘石を再結晶化した。
日頃、研究していたはものの、残念ながら、容積の小型化までには至っていないようだ。
しかし、秘石の太さは指三本程度になり、挿入自体は容易になった筈だ。
もっとも、細くなった分、全長が伸びてしまい、硬さも硬質ゴム程度になったこともあって、なんとなく太めのファイバーケーブルと言った趣がある。
そして、フィーナに差し出すと
「ほら、これなら自分でも入れられるでしょ。さっさと納めてしまいなさい」
と、事務的な口調で告げた。
「は、はぃい」
フィーナは、涙に濡れた眼をパチクリさせて、再結晶化された秘石を見つめた。
「身体を横向きにした方が楽よ。そうそう。それで、膝をかかえるようにして……そう、それでいいわ」
セーラ皇女は、何の感情も交えずにテキパキと指示をだし、フィーナが、それにつられるように反射的に行動する。
「はい、息を吐いて、力を抜いて……少し我慢して」
「はぅっ」
セーラ皇女は、香油をまぶして、中に塗りこめる。
「もう大丈夫。さぁ、ゆっくりと入れてみて」
「は、はい……う……く……」
「息を吐いて、力を抜くの。……そうそう、先端が入ったわよ。もう大丈夫ね」
セーラ皇女の白い手が、優しくフィーナの頭を撫でる。
「へ、変な感じですぅ」
「慣れるわよ。慣れてもらわないと困るの……はい、そのペースで納めていけばいいわ」
セーラ皇女は、やや高圧的かつ事務的に、淡々と進めていく事にしたらしい。
命令し慣れた、反発を許さない口調や態度は、さすがに魔道騎士団の団長を務めただけの事はある。
おそらく、それが、この金髪の少女には一番良い方法だったのだろう。
フィーナが太いファイバーケーブルのような秘石の大半を納めた時点で、セーラ皇女は、用意された道具に視線を移した。
「後は、剃っておかないと……」
セーラ皇女が、少し忌々しそうにつぶやく。
ぼくの世界でも信仰上の理由で全て剃らなければならないケースがあるようだが、このアゾナでも同じらしい。
そういう事情で、セーラ皇女は目立たなかった……いや、その、何を言いたいかと、つまりは、フィーナは若干手入れが必要な状態であるので、その準備を、セーラ皇女はしようとしたのだろう。
だが、それは、唐突に響き渡った声に遮られる事となった。
「緊急に告ぐ。緊急に告ぐ。魔物の大群出現、魔物の大群出現」
あの、ユアと言う魔道人形遣いの声だった。
「信じられない数だ」
「強力な個体を確認」
「城塞都市も持たないかもしれない」
「避難を勧告する。避難を勧告する」
同じユアの声が次々と重なって聞こえる。後で聞いたが、これは物見に放った多数の魔道人形が同時に発したもので、声のサンプリングに、ユアのものを、そのまま使用した為だそうである。
「え? ええ?」
フィーナは驚いて『納めの儀』を中断している。
確かにそれどころではない状況になったようだ。
信じられない魔物の大群――いつかの怒涛のような数量のゴブリンが思う浮かぶ。
まず、イズミットの召喚魔法に間違いない。
セーラ皇女は、その部屋に置いてある曇った鏡のような、映像の魔道具に魔力を送った。
城塞都市の外を監視するにも同じものを使用している筈と見当をつけて、その波動を受信させるべく調整する。
そして、城塞都市の外の光景が、魔道具に映像が表示される。
最初は、一面を埋め尽くす、大量のライオンと山羊かと思った。
肉食獣と草食獣の、妙な取り合わせだなぁ、と、思ったが、すぐに気がついた。
それは、凄まじいまでのキマイラの大群だった。
その全てが、迎撃に出た女戦士の石像よりも、ひときわ大きな体躯である。
キマイラ一頭に対し、魔道人形三体でなんとか押し止めていられるような戦力比だが、数は圧倒的にキマイラの方が多い。
後方の女戦士の石像が次々に何かを投げつけており、それにつれて、キマイラの群れの中で、連続して大きな爆発が起こる。
魔道爆弾だ。おそらくは、人形遣いと合流したサーシャさんかエレナが魔道人形に装備したのだろう。
少なからぬキマイラが、その爆発で屠られているが、なにぶんにも数が多い。
そのうちに、魔道人形が投擲する魔道爆弾を、キマイラが炎を吐いて迎撃するようになった。
指揮官に該当する何かが指示を出したように見えたので、その位置をズームアップする。
居た。
ブラッド、と、ぼくが呼称する、紅い戦士だ。
キマイラだけなら、あるいは、伝説の人形遣いが何とか撃退したかもしれないが、あの紅い戦士がいっしょでは、おそらく歯が立たないだろう。
唯一、あの紅い戦士に匹敵する存在は、しかし、この世界に顕現できない。
現在のままでは。
ぼくは《闇の魔王子》の「遺産」と助言を思い浮かべた。
さいわいに「宝物庫」の区画には入り込めているし、この騒ぎでは神殿内も混乱しているだろう。
フィーナは逃がすべきだろうが、彼女はあいにくと「宝物庫」への許可証と言うべき装身具を持っていない。
警戒レベルは上がっている筈なので、不審者と見られたら、問答無用で殺される可能性もある。
いっしょに連れていくしかあるまい。
セーラ皇女も同意見だったらしい。フィーナのチョーカーに繋がった銀の鎖を手に取ると、
「ほら、いっしょに行くわよ」
と、促した。
秘石をまだ納めきっていないので、お尻から伸びる太めのファイバーケーブルが、まるで尻尾のように見える。
首輪のような鎖つきのチョーカーと相まって、ますます調教プレイな格好だが、そんな事に構っている余裕は無い。
部屋を出ると、奥院中央部に向かって進む。
「あ……あん」
納めきっていない秘石が、動くにつれて中を刺激するらしく、フィーナが妙に妖艶な声をあげる。
表情も、いわゆるハアハアなアヘ顔だが、構わずに鎖を引いて進む。
慌しく行き交う女官達が、そんなフィーナをちらりと見るが、特に気にも留めない。
いや、そこは気に留めるところでしょう。てか、日常的にこんな事をしているんですか、などと、訊いてみたかったが、お互いにそれどころではない筈なので、先を急ぐ事にした。
中央部を少しそれた場所。
行き交う女官の姿も無く、どこか荒んだ区域に来た。
ここのどこかに、損傷して機能しなくなった、結界の宝玉があるはずだった。
《闇の魔王子》の「遺産」である《厳之霊の剣》と共に。




