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新たな仲間達

 ナウザーには世界地図に該当するものは存在しない。

 測量技術と交通手段が発達していないからだ。

 いちおう、神殿の連絡網で、諸国の地図を切り貼りして、それらしいものをつくっているが、機密事項として、地図を公開しない国や、国家の主張に基づく国境線、未踏の空白地帯、伝承に基づく地形等、不正確な事甚だしい。

 商人が良く使う行路以外については、無いよりはマシと言うレベルで、こんなものを頼りに魔物退治を行う旅を《武の皇女》が未知の世界への冒険と形容したのも、無理は無い。


 夜中にソルタニア皇都を出発した、ぼく達は、夜が明ける数刻前に、金剛石の谷に差し掛かった。

 シャルーンの青白く柔らかな光を乱反射する金剛石の谷は、幻想的な美しさだった。

 ナウザーにも、月の満ち欠けがあり、これで一ヶ月の単位を定めている。

 地域によって差異はあるが、十三ヶ月で四季がちょうど一巡するので、いわば大陰暦がナウザーの暦となっている。


 金剛石の谷は、夜に見ると非常に美しい眺めだが、日中は強烈な乱反射となり、下手をすると失明する者も出るくらいだ。

 光の反射次第によっては、レンズの焦点のようなポイントがランダムに発生し、凄まじい高熱が発生する。

 日中にここを通ろうとして、視界を奪われ、焼死した例は少なくない。

 道もそれほど広くは無いので、少人数で夜間に通り抜ける事はさほどでも無いが、大軍をもってここを通過するのは、まず無理だ。

 ソルタニアへの侵攻想定ルートからも基本的に除外されている為、谷の手前に築かれた関門に配置された兵士は多くは無い。

 セーラ皇女が、出国ルートに選んだのも、これらの理由があったからだ。


 魔道騎士団長の命令書を見せて、ソルタニアの国境を抜けるのは、難しい話ではなかった。

 何よりも、ぼくが牢を抜け出した事がエメルダ元帥に連絡されるまでは、もう少しかかる筈なので、フードで顔を隠したぼくを訝しそうに見るものはいたが、正式な命令書を提示する魔道騎士団の猛者に敢えて問いただす無謀な兵士はいなかった。

 それどころか、サーシャさんを見た兵士の幾人かは股間をかばうような仕草をして、怯えたように後ずさっている。

 彼らがどういう目にあったのかは、何となく想像がついた。


 金剛石の谷を何事も無く通過し、国境を抜けると、複数の国家が領土を主張、もしくは、占有を牽制し合っている、所謂、緩衝地帯になる。

 無法地帯でもあるので、民間の商人は武装するか、護衛を雇う事になる。

 ぼくの場合、二人の頼もしい護衛がいるが、二人とも基本的に魔道士なので、まずは先行する冒険者集団に追いつく必要があった。



 ソルタニア軍独立遊撃小隊。


 これが、ソルタニアの極秘公文書に記載されている正式名称だそうだが、エメルダ元帥命名するところの《冒険者》の方が呼称としては広く知られている。

 城塞都市アゾナ方面に出発した、第二十四独立遊撃小隊に該当する冒険者集団パーティーに追いついたのは、金剛石の谷を抜けて一刻半の後だった。


 そのパーティーは、次のような構成だった。

 聖剣騎士団重装歩兵部隊からの志願兵と言う二人の青年。

 ベテランの傭兵と言うわりには、なんとなく線の細いおじさん。

 治療専門職として、薬師のおばさん。

 そして、イズミットに滅ぼされた国の兵士だったと言う弓矢を携えた、荒んだ感じのする男。


 第一陣の構成に比べると、若干見劣りがするような気がする。

 まぁ、魔法の使い手は攻性魔法も治癒魔法も、元々多くはいないので仕方が無い。

 今のところ、冒険者になる人員の層が薄いので、二十四番目ともなれば、これは仕方が無い事かもしれない。

 そんな、どちらかと言うと弱小なパーティーだったので、攻性魔法の使い手たる魔道士が二人も参加するのは、歓迎された。

 荷物持ちなぼくは、薬師のおばさんに喜ばれ、治癒の魔石と薬草をどっさりと持たされ、潰れてしまった。


「軟弱だねぇ。そんなんじゃ、荷物持ちにもならないじゃないか」


 半端ではない重量の大きな行李を太い腕でひょいと持ち上げ、胸も腰も胴も太いおばさんはため息をついた。


「でも、あんた、見た事の無い亜人だねぇ。ドワーフにしちゃあ貧弱だし、エルフにしちゃあ綺麗とは言えないし、ホビットにしては大きすぎるし、ゴブリンでもないし――」


 それ、最後のは魔物だから。


 ぼくの正体に疑問をもったおばさんを、色々と混じったハーフとか、最近東方から来たとか、何とか言って誤魔化す。

 セーラ皇女の知識から、獣耳タイプはいないが、ドワーフやエルフ、ホビットがいることは知っていた。

 召喚魔法が廃れる前の時代に、大量に召喚され、親和性が高かった為、ナウザーに残る事になった彼らの子孫は、人里から離れた場所に独自の集落を築いて暮らしているとのことだ。

 皇都や宮殿では、ついぞ見かけなかったが、辺境では、少し交流がある村もあるようだ。

 このおばさんも、そう言う村の出身らしい。


 色々な思惑があったらしく『イズミットが召喚した異世界の亜人』の存在自体があまり知られていない。

 人の出入りの多いところは、あまり良い顔をされなかったから、ぼくの顔を知っている一般人は、あまりいない。

 皇都を出歩いたのが数えるほどしかないのも、監視がつくのが煩わしかった為で、珍しがった子供達に追い掛け回されたり、犬にほえられたり、馬フンをふんづけたりしたからでは、決して無い。


「大丈夫か」


 弓矢を持った男が立ち上がるのに手を貸してくれる。

 その顔に見覚えがあったので、思い出そうとすると、ダークの精緻な記憶が瞬時に送られてきた。


「あ、山賊の――」


 と、言いかけて、慌てて口を塞いだ。

 しかし、しっかり聞かれていたようで、男は苦笑を浮かべていた。


「そんなに有名になった覚えはないが。まぁ、罪は償ったんだ。勘弁しろよ」


 荒んだ感じはするが、なりは身ぎれいに整えられており、よく見ると好男子と言う容姿だった。

 確かに罪は償っただろう、色々と。

 その時の『兵装テスト』の記録について詳細な画像データ込みでの移管を準備しているような気配のダークをなんとか押しとどめながら、疑問に思って尋ねてみる。


「え、えっと、どうして《冒険者》に?」

「おれの故郷を奪ったイズミットに一泡ふかせてやりたいってのもあるが――」


 男は遠くを見つめるような視線で、呟くように言った。


「おれとおれの仲間に、口にもできない、あんな事をしてくれたあいつを探すためだ」


 あんな事、というのがどんな事か、聞くまでもなかったので、深くは尋ねなかった。

 ぼくは、そちらから、話題をそらす為に、さらに質問を重ねる。


「復讐とか、敵討ちを探しているとか?」

「いや」


 男はかぶりを振った。


「今度あったら、その時こそ、最後までやってもらう」

「え?」


 思わず、一歩、後ずさってしまった。

 それには気がつかない様子で、男はなおも続ける。


「無理やりだったが、おかげでおれは本当の自分に気づくことができた」


 更に一歩、足がひとりでに下がる。


「なのに……もう少しと言うところだったのに、あんなところで止めるなんて」


 男は目を潤ませ、胸の前で手を組み合わせて、なおも熱い思いを語り続けた。


「見つけたら、今度こそ最後まで。そして、皇都で待っている仲間の元へ連れて、アツいおとこだけの世界を……。ああん、漆黒の黒い戦士さま」


 いや、最後の表現かぶってね?

 と、現実逃避しながら、このパーティーを選んだことを激しく後悔した。セーラ皇女も激しく後悔しているようだ。

 珍しく、ダークから同意の念があったような気がした。

 ふと、視線を感じて振り向くと、サーシャさんが魔女の笑みを浮かべてこちらを見ていた。


(これも、内緒にして、あ・げ・る)


 片目を瞑り、吸いつきたくなるような唇が、そんな言葉を形作る。

 ――何か、色々と、とりかえしのつかない事になってきた気がする。



 そうしたやり取りには全く気がつかない様子で、エレナと傭兵のおじさんや青年達は地図を見ながら、何かを話していた。

 そして、このメンバーの最初の目標は、城塞都市アゾナ周辺で出没すると言う魔物の調査と言うことになった、

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