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銃と剣と安産祈願

 銀の館。

 精霊魔法に使用されるミスリル銀に由来して、魔道騎士団の本部はそのように呼ばれている。

 魔道騎士団所属の団員も《銀の館の騎士》と呼ばれる事もある。

 ミスリル銀は、魔法行使時の増幅装置としては働くが、蓄電池のような機能は無い為、魔道士の錫杖の装飾とか、アクセサリーに良く使用されていると聞いている。

 高価で希少なので、あまり、一般には出回っていないようだ。

 エメルダ皇女とのやり取りの後、自室に戻って考えをまとめ、それから、この『銀の館』で銀髪のお姉さん、サライ卿を尋ねたのだが、不在との事で、補佐のエレナ嬢が対応に出てくれた。


「金属の筒だぁ?」


 エレナは、鼻にしわ寄せて、思いっきりうさんくさそうな表情を浮かべていた。

 おしとやかにしていれば、赤毛の可愛いお嬢さんで通る端正な顔立ちだが、表情とか振る舞いが、やっぱり悪童のような印象がある。


「ええ、頑丈であれば、別に金属でなくてもかまいません」


 ナウザーにどんな材質のものがあるのか判らないので、ぼくは、そう言ってみた。

 銃身に使うのだが、そのことを伝えても話がややこしくなりそうで、とりあえず、材質と形状だけを伝える。


「ただ、盾くらいの強度は欲しいですね」


 そう言いながら、セーラ皇女からの手紙を渡す。

 手紙には、ぼくの欲しがる材料を渡すようにと言う指示が記述されている。

 資材の入手に当たって、一番、スムーズに事が運ぶのが魔道騎士団の筈だ、と、いう訳でここに足を運んだ次第だ。


「ん~、殿下からの指示じゃしょうがねぇなぁ。おおい、サーシャ」


 エレナが奥のほうに声をかける。


「なぁに~」


 金髪のお姉さんが来る。

 檻の中に囚われていた時に、サライさんやエレナと共に、ぼくの股間を凝視してくれた女性陣の一人で、第一中隊の隊長と補給物資管轄を兼任するサーシャさんだ。

 魔道騎士団は補給を重視しており、一番の猛者を補給物資管轄にするのだそうだが、ぽわわんとした感じからは魔道騎士団最強の魔法使いには到底見えない。

 エレナが事情を説明して手紙を見せると、サーシャさんは、ぽってりした唇に綺麗な指を当てて、考え込んだ。


「鍛鉄の棒に穴を開けた方が早そうねぇ。黒くて太くて硬いのよ」


 この人は表現のしかたが、色々と問題が多いようだ。


「そうそう、こんな感じかしら」


 そう言って取り出した「それ」を見せる。


「わっ!」

「ひぇっ」


 ぼくとエレナは揃って声を上げた。

 見た感じ、張り形とか、おとなのおもちゃのような、男のナニを模したものだった。


「な、な、何だよそれ。職場にそんなものを持ってくるな」


 エレナが赤くなって怒鳴る。

 本物を見た時は平然としていたくせに。まぁ、あの時は小さかったけど。


「退団して結婚する子がいるの。安産のお守りよぉ」


 日本にもそのような形状のご神体とかお守りがあるなぁ、と、エロいサイトを検索した時の記憶を思い出す。

 どちらかと言うと、某風呂専門タイムトラベル漫画での方が有名だろう。金精神とかティンティナブラムとか。

 ナウザーでも似たようなものがあるらしい。


「ばかやろう、銀の館の守護はアゾナ様だぞ! そんなもんを持ち込んだら罰があたらぁ」


 ナウザーは、一般に多神教が多いようで、ソルタニアは創生神ナウザーを主神としているが、それ以外の神様もあちらこちらに施設やら何やらがあるようだ。ただ、それらの神様の偶像とかは見かけた事が無い。

 アゾナは舞とか音楽の女神で、女性の守り神とも言われているそうだ。

 処女神でもあるので、アゾナの守護を得た施設は男子禁制とされている。

 ぼくも『銀の館』の受付に当たるここから先は入れない。


「ん~、じゃあ、ついてきて」


 サーシャさんは、ぼくを差し招くと、形の良いお尻をふりふりするような歩き方で、『銀の館』の隣にある倉庫に案内してくれる。

 

 武器庫と資材置き場を兼任する施設らしい。

 ちなみに、平時なので、現在の魔道騎士団の女性は(残念な事に)魔法衣では無く普通の服装だ。

 それでも、サーシャさんは仕草やら雰囲気やらがアレなので「着衣エロ」と言う言葉が頭に浮かぶ。

 あまり似てはいないけれどもマリリンモンローみたいな印象の美女だ。

 ただ、能天気でぽわぽわと色気を振りまいている、その奥に、獰猛な何かを感じるので、安易に手を出すと、恐ろしい目に遭いそうな気がする。

 事実、ヤンボルの戦場では不埒な振る舞いに及んだ諸国の兵士やら傭兵やらが半殺しになったと聞いている。

 女性で構成された一団が荒くれ男の集まる戦場に身を置く事による危険から、他の女性を守る為の擬態なのかもしれない。

 案外に、ただの天然なのかもしれないが。


 倉庫の中で、資材からぼくの要望に一番近い太さの鉄棒を取り出すと、サーシャさんは無詠唱で魔法を使い、長さを整え、綺麗に穴を開けてしまった。

 一番必要な資材は手に入れたが、もう一つ、考えがあって、余っている剣が無いかを尋ねてみた。


「ん~? 誰がつかうのぉ」


 サーシャさんは首をかしげて聞いてくる。

 金属の筒は用途不明だが、剣は立派な武器なので、左から右へと渡すわけには行かないのかもしれない。


「ええと、ちょっと……」


 とりあえず、笑って誤魔化すことにする。

 セーラ皇女の命令なので、拒否はできない筈だ。


「ん~」


 サーシャさんは少し考えているようだったが、不意に身を寄せてくると、ぼくの顎を、そっと持ち上げ、顔を近づけてくる。


「気づいてる~。ここで、アキラちゃんと私、ふたりきりなのよ」


 芳しい息を吹きかけてくる。

 もう少しでキスしてしまいそうな距離で、サーシャさんは艶然と微笑んでいる。

 だが、ぼくを覗き込んでいる目の奥に、得体の知れない何かがあった。

 ぼくは蛇に睨まれた蛙のように固まったままだった。



 しばらくして、サーシャさんは身を離した。


「油断のならない子ねぇ」


 と、小さく呟くのが聞こえる。

 立てかけてある大きめの剣のひとつを取って、柄の方をぼくに向けて差し出す。


「これでいい?」


 考えていた案に近いサイズだったので、うなづきながら、受け取る。


「あ、そうそう、エレナに叱られたから、これも、取っておいて」


 と、あのお守りをぼくのシャツの胸元に入れてくる。


「え?」

「そのうち、夜這いに行った時に、渡してくれればいいわよぉ」


 と言って、そのまま立ち去っていった。



 倉庫に一人残されたぼくは、呆気にとられて立ちすくんでいた。


「倉庫の戸締りはどうすればいいんだ?」


 やっぱり、天然なのかもしれない。

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