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戦場にて

 またひとつ、魔法陣が展開し、魔力が噴出する。そして、その中から現れたのは、キマイラだった。

 魔法陣に跳ね飛ばされた重装歩兵が、体勢を整える暇もなく蹂躙されていく。

 それでも、冷静さを失わなかった指揮官の迎撃の指示に従い、速やかに陣形が組み立てなおされるあたりは、さすがに歴史のあるソルタニア聖皇国の軍隊だった。

 しかし、再編途上の陣形の中に再び魔法陣が展開し、出現したトロールが振り回す棍棒に犠牲者が増えていく。


 このヤンボル高原に展開された戦場のあちらこちらで、そのような光景が繰り返され、ソルタニア側は軍隊としての機能を維持するのが難しい状況となりつつあった。

 ソルタニア聖皇国軍の本陣に居る将軍の一人が舌打ちしつつ、高原の向こう側に布陣するイズミット王国軍を睨む。


 ナウザー大陸西域にあるプロディア七王国の一つであるイズミットが、侵略戦争を開始してより五年。

 元々はひとつの帝国だったが、同時期に甲乙のつけがたい七人の優れた皇位継承者を得た当時の皇帝が、帝国を分割統治する連合国家へと体制を変えたのが更に二百年前のことになる。

 分割当時の皇位継承者の性格や得意分野に合わせて、三つの農業国、一つの工業国、二つの軍事国、そして、それらを経済的に統合する一つの商業国からなる連合国家は、時代が下っても見事に機能し、帝国時代よりも繁栄していた。

 その中で、軍事国イズミットが突如としてプロディア帝国の再現を宣言し、もう一つの軍事国ベルニクを短期間で撃破し、七王国全土を支配下に置くと、その版図を拡大すべく西域周辺の国々に侵攻を開始したのである。


 元からプロティア七王国に常駐していた大使や諸国から送られた和睦の使者は一人も帰ることがなかった。

 情報伝達の手段が限られるこの時代において、イズミットの王宮で何があり、この大侵攻の原因や動機がいかなるものであったのかは定かではない。

 それでも、プロディア七王国からの決して少なくはない難民から、イズミット国王が悪魔に憑依されたとの噂が広まると、創生神ナウザー神殿から発生したソルタニア聖皇国は諸国に聖戦の檄を飛ばした。

 かくして、諸国の軍隊と共に、ここヤンボル高原での決戦に至る。

 だが、イズミットの戦法は、各国の軍首脳が予想すらしていないものだった。


 召喚魔法。

 異界から魔物を呼び出し、使役するこの魔道技術は古くから伝えられており、知識としてはそれほど珍しいものではない。

 だが、召喚した魔物を使役する為には、その魔物以上の魔力を召喚者が持つ事が前提条件となるとあっては、精々が小型の魔物を召喚対象とするのが精一杯と言うところである。

 神話の時代は遥かに過ぎ、ドラゴンを使役した召喚魔法の使い手も伝説の彼方にしか存在しない時代にあっては、あまり研究もされない分野となっている。

 そもそも、召喚した魔物の制御が非常に難しい為、小型の魔物を召喚しても、下手をすると、召喚者自身がその魔物に害される事が多く、地水風火の精霊魔法が、同じ魔力で遥かに使い勝手が良い事から、召喚魔法の使い手や、魔道技術の伝承は時代と共に消え去るものであろうと見られていた。


 しかし、イズミットは召喚時における魔法陣を遠距離に出現させる魔道技術を開発したようだった。

 敵軍の中に魔法陣を出現させて魔物を召喚する。特に制御を行う必要は無い。

 召喚された魔物は周辺の人間を敵、もしくは獲物と見なして暴れ周り、殺戮し、再び異界に戻っていく。

 魔物相手に戦うことを想定した軍隊と言うものは存在せず、しかも、自分達の中に唐突にそれが出現するとあっては、対応のしようがあるわけもなく、イズミットと敵対した軍隊は魔物自体による被害も甚大だが、陣形や編成をズタズタにされて、単なる武装集団と化していく。

 そこに加えられるイズミット軍の、特に鋼竜兵団と呼称される強力な重装騎馬隊の打撃により、諸国連合軍は壊滅するか敗走するかのどちらかを選択することしかできなかった。


 そして、今日、ソルタニア聖皇国の聖剣騎士団も、イズミットの召喚魔法により、その例に倣いつつあるところであった。

 だが、ソルタニア聖皇国には、もうひとつの切り札があった。


「セーラ皇女殿下出陣」

「魔道騎士団がでるぞ」


 魔法には魔法を。魔道士で編成された一団が戦場に現れる。

 魔の皇女と呼ばれるソルタニア聖皇国の第一皇女セーラ・メルヴェル・ド・ソルタニア自らが率いる聖獣ユニコーンに騎乗した一団である。

 精霊魔法の強力な使い手から編成され、本来、後方支援が主な魔導士に機動力を持たせた女性からなる特異な軍勢だ。

 戦場に到着した彼女達は、次々に炎の槍や、氷の矢、風の刃をイズミットが召喚した魔物に放つ。

 訓練された攻性魔法は、的確に魔物のみを焼き、貫き、切り裂いていく。

 その魔道騎士団を対象として、召喚魔法の魔法陣が出現する。

 だが、魔道騎士団の魔力によって、それらの魔法陣は悉く消失、もしくは、弾き飛ばされていく。

 弾き飛ばされた魔法陣から召喚された魔物は、出現した途端に魔道騎士団の精霊魔法の的となり、全く脅威とならない。


 そのまま状況が推移すれば、主力である聖剣騎士団の再編が完了し、初めてイズミット軍への攻勢がかけられるものと思われた。

 しかし――


 二つの魔法陣が寸分と違わぬ位置に出現した。

 イズミットの召喚魔法士が狙って行ったか、偶然かは定かではないが、言わば重ねがけされた魔法陣は今までのように、魔道騎士団の魔力での干渉を受け付ける事無く、魔道騎士団の中央で発動した。

 初めて魔道騎士団から沸き起こる悲鳴。

 魔法陣の魔力にユニコーン毎弾き飛ばされる魔導師。

 魔法陣からあふれ出る凄まじいまでの魔素と共に……


 今年の春から諸処の事情で一人暮らしを始めたばかりの高校生であるところの、ぼく、つまり、大妙寺晶だいみょうじ・あきらは、異世界であるナウザーに召喚されたのだった。

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