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21話 アウトサイダー

 岩崎愛の携帯に連絡を入れるとすぐに鑑識を引き連れた岩崎達が天野の家にやって来る。

 まるで待ちわびていたかのような迅速さだ。すぐに捜査は開始され、捜査の為に雅斗たちも指紋を採られた。

「少しよろしいですか?」

 声をかけてきたのは伊東刑事だった。

 一樹との一件で顔を合わせた程度の人だが、印象に残る人物だったので良く記憶していた。藤岡刑事の姿が見えないのは、彼が今日は非番だからだろうか。

 伊東は簡単な事情聴取と言い天野の失踪のあらましと、雅斗がここに至った経緯を尋ねる。

 彼がそう言う事を信じられるか分からない以上、蝶の一件は伏せた。ただ、部屋の中に風が吹いたことだけを説明すると、伊東は怪訝そうにしながらもあまり深い追及をしてはこなかった。

「・・・・」

 質問を終え、伊東は何かを思案するように暫く黙り込んだ。

「どうかしましたか?」

「いえ。・・・・真里さんですが、血液型は何型ですか?」

 雅斗は伊東を見た。血液型が何か関係するのだろうか。

 疑問にも思わなかったらしい亜夜が答える。

「AB型です」

「普通の?」

「いえ、シスAB型です」

 伊東は一瞬驚いたように眉を動かした。

 その表情を探っていた雅斗は眉間に皺を寄せる。

(・・・・何だ、今の質問は?)

 シスAB型。聞いたことはないが、普通の血液型ではないということから推測するに、稀血といわれる血液型の一種だろう。

 その可能性があると知っている上で再度質問したかのようだ。

 雅斗は自分が容疑者になる可能性も覚悟の上で伊東に確認するように言う。

「他の人も稀血だったんですか?」

「え?」

「・・・・え?」

 動揺したような伊東。やや遅れて亜夜が反応する。

 それだけで十分だった。

「他の人って、何のことですか?」

「伊東さんの知り合いが稀血なのかって思っただけだよ。ごめんなさい、関係ないことを急に質問してしまって」

「あ、いや」

 優等生の微笑みを向けると、明らかにほっとしたような返事が返ってくる。

 被害者は全員稀な血液型だ。

 それが共通点。そうでなければ伊東がわざわざ血液型を二度も聞き直す必要はない。偶然か、それともそれが条件なのか。

 蝶がもしも、匂いに惹かれて飛んできているとしたら、犯人は雅人達のように蝶の見える人間である可能性が高い。

 けれど、と雅斗は思う。

 稀血はRh型よりもっと出現頻度が少ない。この街で、しかもこんな狭い範囲で稀な血液型が密集していると言うことは果たしてあり得るだろうか。

(あと少し・・・何かが足りない)

「勇気くん? 大丈夫?」

 不意に亜夜が声を上げて、雅斗ははっとした。

 勇気が青い顔をしている。

「・・・大丈夫、休んでりゃ治るから」

 彼は蝶が見える。雅斗と同じ光景を見たのなら気分が悪くなって当然だ。その上、勇気はこれが殺人事件に発展する可能性を理解しているのだ。気持ちが悪くない方がどうかしている。

 伊東は多分、その半分しか理解していないだろう。心配そうに勇気を覗き込んだ。

「家で休んでいた方が良いかも知れませんね。送りましょう。・・・愛さん」

 伊東は捜査を続けていた愛に呼びかける。

 簡単な説明を受けたらしい彼女は息子の所に駆け寄った。彼女は息子の能力を理解しているのだろうか。

「大丈夫?」

「・・・ん、心配ないって」

「家まで送らせるから、ちゃんと休むのよ? 雅斗くん」

「はい?」

「あなたもご苦労様、もう帰って良いわよ」

 厳しい視線。

 その意味を理解した雅斗は肩をすくめる。

「ここから先は大人の仕事よ、雅斗くん」

「・・・・」

 浮かんだ笑いが苦い。

 どうも読まれていたようだ。

 雅斗は頷いた。

「そうですね」



 車を取りに向かった伊東を待つ間、雅斗は勇気に付き添った。

 放っておくのは少し気の毒な気がしたのだ。経験上、こう言うときは一人でいたくないと思う。

「・・・・大丈夫?」

 声をかけると勇気は頷いた。

「あれだけのもの見たの初めてだったから、少し驚いただけだよ。兄ちゃんこそ大丈夫?」

「お前らがいたから平気だった」

「兄ちゃんも、見栄っ張りだなー」

「男なんてみんなそんなもんだろう」

 雅斗はくすくすと笑う。

 つられたように勇気も笑う。しかし、その笑いは長く続かなかった。すぐに彼は神妙な面持ちになった。

 勇気は背中をさするように手を伸ばし、何かをすっと出した。

 すぐにそれが小さい刀であることが分かった。

「あのさ、これ、兄ちゃん持っててくれないかな」

「うん? どうして?」

「何となく。渡さなきゃいけない気がしたんだ。刃がないから切ったり出来ないけどさ。お守り代わりになるから」

 雅斗は受け取る。

 思っていたよりも軽い。

 抜くと微かに光を放つ。確かに刃は潰れているようだ。美術刀と同じでこれでは人を斬ったり出来ない。

 勇気がずっと腰に差して持っていたせいだろうか。それは温かく感じられた。

「ありがとう。預かっておくよ」

「・・・・気を付けて」

 雅斗はわずかに笑う。

「何に?」

「兄ちゃん、まだ調べるつもりなんだろう?」

「さぁ、どうだろうな」

「・・・本当にやばくなったら、岩崎神社に来てよ。何か力になれるかも知れないし・・・・死なないでよ、絶対」

 最後の下りは既に泣き声に近かった。

 雅斗は頷く。

「・・・約束する」

 犯人は雅斗が思っているよりもヤバイ相手なのだろう。

 人間だとしても、そうじゃないとしても、雅斗が一人で相手できるようなものじゃない。分かっていて岩崎は雅斗を引き離そうとしたのだ。

 だが、勇気がそう思ったように、雅斗には今更ここで後戻りをする気にはなれなかった。

(これは・・・・俺の事件なんだ)



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