た行
た行は奇妙な集団であった。というのは同じ行にいながら”ち”と”つ”のように性質の異なる面々が同居していたからである。例えば”た”はポジティブ思考だが乱暴者で困りものであったが、”ち”は心の細い愚痴屋であった。”て”は暴力に走る傾向が強く、あのか行さえも彼を怯えていた。”く”が”て”と一緒に「てくてく」歩いたとき、アクセントが”て”に置かれたように、あの狂った”く”が目立たなくなっていた。”て”が彼を殴るからだ。怖くて身を縮めていたのだ。だが、彼は小文字になることはできない。”と”は乱暴さはそこまでなくひょうきんであったが、実直で行動的であったので、間を取り次ぐ役、すなわち助詞の仕事をしていた。「魚と人」みたいに。
さて、特筆しておくべきは”つ”である。彼は数少ない小文字になれる才覚があった。彼は一見平常に見えたが、嫌がらせが大好きであった。例えば”あ”に対し、身を潜めて「あっ」と突っかけて転ばすのが日ごろの趣味であった。
”た”、”て”、”と”は濁音になると”だ”、”で”、”ど”とより乱暴になるだけであったが、”ち”、”つ”は濁音になると”ぢ”、”づ”とさ行の”じ”、”ず”のごとく毒々しい攻撃性を帯びていた。だが、彼らが濁音になったところであまり見向きもされず、なに”じ”、”ず”の真似をしているだとあざ笑われるだけで、それが”ち”と”つ”の密やかなコンプレックスでもあった。




