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第三章・・・戦争

言葉とはある種の伝えにくい事柄について意思疎通を行うための暗号とも言える。もちろんそれらは勝手に理由なく決まった訳ではない。落ち着いて欲しい時の言葉は落ち着いた響きになるし、危険な時は耳をつく言葉になる。言葉は声である以上響きを由来としているのは明らかで、その響きは大自然の何らかの模写とも言える。それは文字のかたちにも同じ事が言える。言葉は自然の産物であり、文字も同様だ。しかしそれらは意味があってこそだ。もし言葉のうちどれかがただの響き、ただの模様と認識されればその言葉には意味がなくなる。それは人間も同様だ。もしある人間が只の有機物であればその人間には意思がなくなる。すなわち死。

殆どが死んでいるこの文字上で戦いは始まった。 五十音と反逆者らの戦いである。五十音らはあ行の部屋に集結している。部屋の中央のホログラムビジョンには沈黙の教室が映し出されていた。壁ぎわにコンピュータがあって以下の文字がディスプレイに映っていた。


状態:

五十音[あ・い・え・か・き・け・さ・し・せ・た・ち・て・ひ・へ・ま・み・め・や・ら・り・れ]21名

反逆者[な・に・ね・ん]4名

死者[う・お・く・こ・す・そ・つ・と・ぬ・の・は・ふ・ほ・む・も・ゆ・よ・る・ろ・わ・ゐ・ゑ・を]23名


このうち誰かが死ねばそいつは死者の欄にうつると言う仕組みだ。ところで”い”よ、死者の軍団を確認したそうだな。そうです、今は切られていますが、監視カメラに映っていました。ほら。状態:を映し出したディスプレイが即座にわ行の部屋のある時の光景になる。”な”がようこそ同士よと死んだ”ぬ”と握手するがその手の冷たさにひえっと手を離す。なるほど。でもどうやって死者を殺すんです?だってすでに死んでるのですよ。ウヒヒヒ、はい、僕に一つ提案があります、ヌヒヒヒ。死者の本質は”ん”です、ククク、だから死者は放っておいて”ん”を狙えばいいのです、ヌハハハ。なるほど、しかし”や”よ。どうして笑っているのだ。ええ?ウヒヒヒ、や行は私しかいないんですよ?だからおかしくって。そうか。”あ”は”や”の策略に気付かない。そして皆に叫ぶ。と言う訳で”ん”を最優先に狙え。死者どもは防衛程度だ。でも、武器はどうするのですか?馬鹿者お前ら五十音は一文字一文字違う形をしているだろう。自分の特徴を有効利用し、ちょっと静かに。”い”が”あ”を遮る。ホログラムビジョンの向こうで尾嶋夫人が優坊と呟こうとする。だが口からでるのはやはり

「んんんん」

ビジョンから”ゆ””う””ぼ”が飛び出た。大変だ!人間の様子見のためなのに侵入口に使われた!逃げろ!ビジョンを閉じろ!皆、自分の部屋へ!こいつらは私ら母音が食い止める!その必要はありませんよ。ら行の三人が現れる。あなた達母音の命は貴重です。死なせる訳にはいきません。私たちの部屋に逃げて。あ行がら行の部屋に逃げる間、”ら”は頭の武器で”ゆ”に、”り”は剣で”う”に、”れ”はカギツメのある左腕で”ぼ”に立ち向かう。だが”ら”は”ゆ”の穴に首を挟まれ、”れ”は”ぼ”の二本の右手に握られた槍に突かれ、哀れかわす暇もなく二人とも死ぬ。”り”だけは”う”の頭の武器に何とかかわすが、”う”の背後に”ゆ”と”ぼ”、そして”ら”と”れ”が虚ろな顔でこちらに迫って来る。”り”は悲鳴を上げる。”ら”…”れ”…そんな…私だよ、思い出せ、私だ、やめろ、ぐっ、やめろ、思い出せ、思い出せ、記憶がないのか、そうだ、死んでいるからか、ぐ、、う、あ、ぁ。


”や”は策略が上手くいった事にほくそえみながらわ行の部屋に向かう。大量のゴーストどもを背後に”に”が彼に話しかける。何の用だ。死にに来たのか。死ねば我らの仲間だが。”や”はいいえと答える。お役に立ちたいのです。私には策略の才があります。確かに、と”に”は言う。だが、だからこそ信用出来ぬ。私が受け入れたとたん貴様は正体を表して殺すのでは。いいえそんなつもりは毛頭に、あ、そうです、あなたの母音はいでしょう?何を言うか!私らは”ん”からできた者だぞ!いえいえ、事実そうですが、つまり、私は小さくなって。なるほど”にゃ”として合体したいと。そうです。私はもともと単体で「矢」と言う武器を表現できますが、だからこそこの世界では戦闘能力がありません。だからあなたを殺そうとしても無駄で無意味で、その代わりに私のこの発想力、や行らのトランプで身につけたニハハハハ洞察力で必ず。”ね”はふと思いついて言う。おまえは何の為に仲間を裏切っているのだ。動機を言え動機を。”や”は答える。この戦いは勝目がない気がしたからです。だが心の中は違っていた。彼の策略、それは全く持って自分本位な物であった。彼は死を恐れていた。母音”あ”が死んだら自動的に自分も死ぬ。その時の保険として自分は母音がいの者と合体する。もし”あ”が死んだらその者に依存すればいい。なぜなら”や”はその時だけ母音の位置にいるからで、”あ”が死んでも自分は母音として存在意義は確立するのだ。いわば”に”への寄生である。ホログラムビジョンが閉じられたそうだ。やはりか。ならばこの部屋から出撃するしかあるまいな。”な”は”にゃ”に言う。その時”ゃ”は”に”に忠告する。母音は殺さない方がいい。生け捕りにするべきだ。”ゃ”の言いたい事を”に”は察する。母音が死ぬと自分達も死ぬかもしれない。それは危険で無意味な事だ。同じ事を”な”に忠告する。そしていよいよ戦いの準備となる。


同じ頃”あ”は五十音らに戦うよう放送で呼びかけた。真っ先にそれに応え、軍団の先頭に立ったのは好戦的なか行であった。その後にさ行、た行が後に続いた。は行の二人、”ひ”と”へ”は狂いかけていて戦闘不能になっており、放送を聞くなり”ひ”けたたましく笑い出し、”へ”はひたすら黙っていた。た行の後ろはま行であった。”め”はふとあ行の部屋から何人かがこちらに来るのを確認し、誰だろうと「目」を細めると、ら行の三人であった。彼らが最後尾だなと”め”は悟った。だが、彼らはいつもの気高さはなく虚ろな顔をしている。たちまち”め”の心に道徳的サディズムが沸き上がる。何ですか、その腑抜けた顔は、これから戦闘だというのにやる気がない。そんなのはだめ。め。先頭に立つ”か”は後方に母音がいないのを不思議に思いながら薄暗い廊下を歩く。そのうち先に大量の死んだ文字どもの影がこちらに迫るのが見えてきた。だが”め”は後方のら行らを叱るため逆方向を歩き出す。相手は死人ですぞ。そんな死人のような顔で倒せるはずが。一方先頭はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁと言う掛け声と共に一気に死人の群れに突入する。狭い廊下でその戦いはくり広げられる。逆方向に歩く”め”は今や、このやる気なしのろくでなしが、と言いながらついに”り”の間近にくる。ばかじゃないの、しんでしまえ、ばかばか、あれ?”め”は驚いた。それは良く見ると”りゅ”であった。たちまち”ゅ”は”ゆ”になって”め”に飛び付く。うわ、助けて、うわ。大変だ!ビジョンから現れたあの死体が!”ま”は叫ぶ。早く”め”を助けろ!”み”は助けようとする。だが”ゆ”と”め”の外観が似ているためにどれがそれなのか判断しかねている。”ゆ”と”め”の戦い、”ゆめ”の戦い、これは夢の戦いなのか。二人は未だに揉合う。なにをぐずぐずしている、早く!”ま”の叫びで”み”は我に帰る。適当にすくいあげろ!の言葉に従い”み”は無作為に一人を助け出す。それは突然姿を縮めて”み”に飛び付く。わっ。死人の”ゅ”だった。”みゅ”になった彼はそのまま母音の”ゅ”の虚無に吸収され、0の掛け算のように消滅する。”ま”は助かった”め”と共に、後方からも敵が!と叫びながら先に行く。かくして先頭の戦闘、後方の恐慌を経て戦いは大混乱となる。


”す”はどこだあ。”で”は叫び回る。自分は怖い、怖いのだ、どこにいるのだ、返事してくれよ。叫ぶ”で”に”ふ”が飛びかかる。”で”は難なく軟弱な彼を抱えて壁に向かって投げつける。

わわわ、来るな来るな。”ま”と”め”は必死に逃げ惑う。後ろから”み”を含む多数の死者達が押し寄せる。ま行の同胞に襲撃される恐怖で二人は思わず片仮名デ身ヲ硬直サセル。彼ラガ普段苛々シテイルノハ、彼ラノ思考ガ専ラ現実的ダカラデアリ、コノヨウナ不気味ナ非現実的ナ現実ハ恐怖デシカナク、モチロン彼ラガ平仮名になる余地モナイ。ダガ、トウトウ追イ詰メラレル。


”ち”の戦闘能力は皆無に等しかった。常にビクビクしており周りの敵どもに怯えていた。それでも一応攻撃はして見せるがすぐに逃げてしまう。途中”で”を見かける。今さっき”で”は”く”の曲がった背中を逆方向にへし折るのを見た。”く”はそれ以後動かなくなった。なるほど、とその瞬間を見た”た”は納得する。死者を殺すには物理的に戦闘不能にすればいい、なぜそんな単純な理屈が思いつかなかった自分の馬鹿が。”ち”は怯える。”で”に苛められた彼はふと、奴に襲われるんじゃないか、と言う幻想に捕われる。それは”で”をみる度に増し、やがて幻想を乗り越えて妄想となり、”で”は僕を殺そうとしている、と言う内容に変わり、果ては、奴は裏切り者だ、殺さねばならぬ、自分の勇気を示す番だとまで思い込み、やがて激しい掛け声と共に”ち”は”で”に襲いかかり、敵と勘違いされあっけなく戦闘不能なまでに殺される。そして再び”で”は”す”を探し求める。どこだあ。どこだあ。”す”はいつも彼が困った時悲しい時腹立つ時に側にいてくれる。そうすれば彼の荒んだ気持も「~です」のごとく丁寧に解決してくれるのだ。


ドウシテ”メ”ハスグ殺サレテ、自分ハ縛ラレテイルモノノ無傷ノママ死者達ニ連レラレルノダロウ。命乞イヲシタカラカ、イヤイヤソンナハズハナイ。ヤガテ彼ハ戦イノ中ヲ通リ抜ケル。ソシテ”で”ガ叫ブノガ見エル。どこだあ。”す” どこだあ。”で”は探し回る。あたりは戦闘で入り乱れている。向こうでは”き”が四本のナイフで”る”のステッキ攻撃を交している。後ろでは”ひ”と”へ”がなにもせずに歩いている。左を見ると…”す”!常に無表情の彼が”で”を見つめて来た。”す”!”で”は嬉々として彼に駆け寄る。探していたよ!どこにいたんだい!助けて欲しいんだ!この戦いで気が変になりそうなんだ!怖いんだ!本当に!怖いからつい戦っちゃうんだ!怖い怖い怖い、助けてください!俺はぐはっ!”で”は”す”に胸を刺される。死を悟った”で”はあまりの出来事に頭がさっと冷える。あろう事が嫌われ者の自分に最も親切だった”す”に殺されるなんて。どうしてだどうしてだ。”す”の顔を見つめる。その顔はよく見ると無表情ではなく虚ろである。


そうだ、彼はとっくの前に、”う”が死んだ時に死んでいたのだった。なんでそんな事に気付かなかったんだろう。あははは、あははは。”で”は笑いながら泣き出した。あはははは、うっうっ、ふへへへ。そのうち意識はふ、と無くなり”で”は事切れる。


ご苦労さん、もう戦闘に戻っていいよ。”な”ノ声ガ聞コエル。後は”い”だけだな。ソノ言葉ヤ、傍ニ”え”ガ捕マッテイル事カラ判断シテ、ドウヤラ彼ラハ母音ヲ人質ニトルツモリデ、自分ハ片仮名ノ”ア”ト勘違イサレテルノダナ、タブンコノママ片仮名デナケレバイケナイシ、間違エテモ平仮名には戻ッテハイケナイノダナ、ト”マ”ハ考エツク。イマ、ココわ行ノ部屋デハ自分ト”え”トな行ト宿敵”ん”シカイナイ。アレ?”マ”ハフト気ヅク。アレハ”にゃ”ジャナイカ?”ゃ”メ、寝返ッタナ。お前はやはり役に立たないじゃないかと”に”は”ゃ”に言う。そんな事はありませぬ、と”ゃ”は呟くが、”に”は、この大混戦の時には発想能力なぞ何の役にも立たん、と言い返す。しかし”ゃ”は、でも私は生きたいんです、死にたくないです、と涙ながらに話す。その時になって”に”は、どうして彼が寝返ったかを知る。彼の自分本位の策略に気づく。


さ行らは一風変わった戦法をとる”し”が前進し、その周りを片仮名の”サ”と平仮名の”せ”がぐるぐる回る。後二人が似た者同士だから思いついた案で、こうする事で敵の目をくらまして、わ行の部屋に突破して”ん”を殺す計略であった。


けけけけけけ。”け”はふと笑いだす。そして何を思ったか”い”に接近して右手の剣で殺そうとする。やめろ、”け”!こちらは味方だ!どういうつもりだ!”い”の叫びに”け”は答える。先に殺すべきはな行達だ。だから貴様を殺す。そうすればな行の一人は死ぬ。”け”の理屈は正しい間違った手段に”い”は身震いする。だがやがて彼は切り殺される。こうして”き”と”ひ”の二人の発狂者は人知れぬ場所で死ぬ。”し”も死に、直後に”せ”は死人になった”し”に刺し殺される。”サ”は異変を察して彼らから離れ、わ行の部屋に向かって逃げ出す。そして”に”が死んだ。驚いて”ゃ”は彼から逃げ出すが”に”の巨大な口に挟まれてしまう。その圧力に”ゃ”は激しい苦痛を味わう。わああ、助けてくれ。”さ”がわ行の戸を抜けた時は”や”はべしゃっと潰さればらばらに砕けた。すかさず”に”の口蓋に槍をつき戦闘不能にした”さ”は部屋の中で立ちはだかる三人を見た。”な”と”ね”と、そして”ん”。


”か”に見事に惨殺された”け”はその激しい損傷で立てないでいた。”か”が、彼は生きている方が危険だと判断されたからだ。物理的に戦闘不能にすればいい事は、先ほど死んだ”た”からの助言からの情報だった。とうとう仲間を殺してしまったな、と”か”は溜め息をつく。もう人数が少ないだろうに、あと何人生きているのか。だが、考える間もなく彼は”を”の襲撃に遭う。思いがけなく”を”は強く、”か”は苦戦の末死ぬ。


状態:

五十音[あ・え・さ・へ・ま]5名

反逆者[な・ね・ん]3名

死者[い・う・お・か・き・く・け・こ・し・す・せ・そ・た・ち・つ・て・と・に・ぬ・の・は・ひ・ふ・ほ・み・む・め・も・や・ゆ・よ・ら・り・る・れ・ろ・わ・ゐ・ゑ・を]40名


あと六人…あ行の部屋に来た”へ”はコンピュータのディスプレイを見て驚愕する。これはもうだめだ。死者どもを減らすしかあるまい。”へ”は希望を信じて閉じられたホログラムビジョンを開く。だれかがこの多くの死んだ五十音字を言えばそいつらは一時的にビジョンの向こうに行くはずだ。ところがビジョンには何も映らなかった。真っ暗な穴だった。どうしてだ、と”へ”は苦悶する。彼は前にビジョンを閉じた事で人間との繋がりが断ち切れた事に気付かない。そのうちビジョン間を通じて大量の死人があ行の部屋に飛び出し、”へ”は反撃する間もなく死す。


この馬鹿馬鹿しい戦いを辞めろ。”さ”はまずな行の二人に言う。だが”な”は答える。無理だね。もう沢山の死者が出た。お前らが死ねば戦いは終わる。だが、と”さ”は言い返す。母音が死ぬとお前の命はない。ないだと?ところがどっこい母音は人質にされている。私らな行の天下の時代には彼らは常に幽閉しておく。日本語を変えるのだ!な行から始まる五十音に!日本語はこれから我らの時代だ!早ク気ヅケ”さ”。早ク。ソウカ、ヤハリ私ハ間違エラレヤスイノダナ。ナラバ危険ダガコレヲシヨウ。オ、”さ”ガ見テル。今ダ!私ハ一瞬だけ平仮名ニナリマシタ。”さ”は目を疑った。あれは人質の母音の”ア”じゃない!”マ”だ。ある策略が思いつく”な”様、でも最後に”あ”の姿をお見せください。よかろう。”さ”の申し出に答え、ロープをほどいた。すると目の前に”ま”が現れた事に驚く。あ、貴様、てめえ、わっ!”さ””ま”は隙をついて一気に”な”に飛びかかる。”な”は叫ぶ。じゃあ”あ”はどこだ!

”あ”は”ろ”とた行の部屋で戦っている。背後のホログラムビジョンが開いている事に気づく。だれだ、勝手に開けたのは。”ろ”の後ろからわらわらと死人が集まり、押し寄せる。逃げ場の無い事を知った”あ”はビジョンの穴の、カギ括弧で囲まれた虚空の文字空間に飛び込む。

「あああぁぁぁ…」

わ行の部屋のどさくさに紛れて”え”はロープをほどく。”ね”はそれに気づいてすぐに彼に飛びかかる。”え”は”ね”の曲がりくねった左腕を必死にかわす。苦戦している”ね”はとうとう母音の死を願う。ふと”な”は死人達がどこかに消えてしまった事に気付く。今や自分達の騒動しか聞こえない。どこに行ってしまったのだろう。

「…………あ」

虚空の文字空間を”あ”はひたすら飛び回る。周りは真っ暗で自分しかいない。重力すらない。自由だ。このまま時間が過ぎればいいのに。ふと文字空間の中で何かが変わるのに気付く。

「りひにやくすふ………あ」

後ろから死人どもが迫ってくる。わ、やめろ、来るな、来るな!

「へりるひにやくらすふ……あ」

”あ”は必死にビジョンの出口を探す。だがあまりにも深く潜り過ぎた。

「はへりをるひにやくわらすふ…あ」

ああ、もうすぐ出口だ。だが突然死人達は速度を速める。”あ”が”あ”っと言う間に死人に呑み込まれる。

「よみゐちそといもれはへりほをるひむにアやくせろゑつゆわのらすふめうてかやおきしたぬら………・・・・・・どどどどどどどどど、ビジョンから死人が大量に飛び出す。”あ”が死んだ事で揉合っていた”さ””な””ま”の三人は死ぬ。死体が降り積もって来る中”え”と”ね”が互いに首を絞め合う。どちらが早いか、血走った目で見つめ合う。やがて”ね”の左腕から力が抜ける。”え”は致命傷を負う。


突然静かになった。死者達が消えていたのだ。今ここには”え”と”ん”しかいない。前後関係から”え”は悟る。全てはな行らの仕業か。だからな行ら皆死んで死人も消えたのか。人間達が言語を使って文字を呼び寄せたように、彼らは”ん”から呼び寄せたのか。自分も死者を呼び寄せる事ができるのだろうか。いや、もう呼び寄せずともそばにいる。だってごらんなさい。まわりにもじにかこまれている。じぶ”ん”たちはホログラムビジョ”ン”をつうじて、に”ん”げ”ん”にもじをあた”え”ている、とおもっていたが、このせかいとて、ビジョ”ン”にうつったせかいのひとつなのか。そうだ、これがもじでかかれたものがたりだからだ。”え”は死者を呼んだ。ああ、あ、い、う、お、なつかしのともよ。これからあなたたちのせかいにいく。しねばものがたりのいちぶになる。わたしはかかれるそ”ん”ざいだったが、これからかくそ”ん”ざいになる。そして”え”はし”ん”だ。のこるは”ん”のみ。だが、じぶ”ん”はイレギュラーなそ”ん”ざいで、じぶ”ん”いがいはみなし”ん”でいる。もうじぶ”ん”がここにいるいみなどないのだ。”ん”は死ぬ。


状態:

五十音[]0名

反逆者[]0名

死者[あ・い・う・え・お・か・き・く・け・こ・さ・し・す・せ・そ・た・ち・つ・て・と・な・に・ぬ・ね・の・は・ひ・ふ・へ・ほ・ま・み・む・め・も・や・ゆ・よ・ら・り・る・れ・ろ・わ・ゐ・ゑ・を・ん]48名


とうとう全員死んで、この文字の世界に還る。もうこの世界には書くべき事はない。後は破壊されたもう一つの世界を創り直すのみだ。


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