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わ行
わ行は昔四人いたのだが、今は壊滅していた。”ゐ”と”ゑ”は死んでいるも同然だし、”を”は昔は”お”の代役をしていたが、いまや殆どが失われ、たった一つの助詞という仕事しかする事が出来なかった。その中でも頑張り続けたのは”わ”である。彼はもともと情熱的でエキセントリックな性格であったが、太古にわ行が崩壊して以来しだいに気が狂ってヒステリックになっていた。彼は”ゐ”と”ゑ”の仕事を奪ったも同然の”う”を深く恨んでいた。”は”が同じ音の癖して助詞と言う役職に就いている事にも腹を立てていた。そういう彼とは裏腹に”を”は諦め切っていた。名詞の頭にもなれない彼はただひたすら助詞の仕事のみをやり続けるしかなかった。片仮名として”ヲ”になってもだれも見向きはしない。だが、自分は”ゐ”と違って助詞という約束があるじゃないか、だからせめて与えられた一つの仕事を誠実にこなそうと彼は思ったが、逆に仕事の多様性が全く無かったがために虚無感を募らせていた。だんだん顔が虚ろになる”を”についても”わ”は怒りを覚え、次第に精神状態が危険になった。これが後に述べる破滅へと舞い込むことになるのである。




