第一章・・・五十音たち あ行
あいうえお。五十音字はこの五音から始まる。これらは皆母音と呼ばれた。母音は五十音字の根幹と呼ばれた。事実、彼らの特徴はあいうえお以外の語の特徴にまで引き継がれ、性格を作り上げる要素の一つになっていた。そのためあ行の母音たちは五十音字の中でも権力が非常に高かった。
リーダー格の”あ”は常に上昇志向であった。わが道を正しいと信じ、猪突猛進に行動した。そういった行動は”い”にとって理解し難かった。彼は神経質で臆病で慎重派でとてもそんな行動はできなかったが、自分達はそういう思い切った”あ”に従うべきと考えていた。彼が怖かったからだ。困ったのは”う”が常に賛同できぬ様子を見せていた事である。彼は常に鬱々としていて、何事も乗り気でなかったため”い”はいつも苛苛としていた。”う”は母音としての仕事が嫌で、自ら勝手に子音になることがあり「うぃ」「うぇ」「うぉ」などと仮想の自分の分身を作っていた。ところがこの分身が力を得たおかげで”ゐ”と”ゑ”は仕事を失い、”う”を深く恨むようになった。”え”は冷笑的でひねくれていた。母音の中では地味だが、その地味さに甘んじている狡猾さがあった。”お”は比較的心の広い者だが、”あ”に続いて行動的でもあり、力による正義を求め、ごり押しで物事を進める一面があった。
母音達はぁぃぅぇぉと小文字として身を潜める事ができた。だが、身を潜めたところで他の字と関わることはめったに無く、ただ、「あぁ」とそのまま自ら身を縮めて嘆息するだけであった。




