無茶振りへの力押し
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王立中央学院の図書館の片隅で、この少年、ロドは頭を抱えていた。
彼は現在十二歳の学生だが、あちこちの問題に首を突っ込んでいる。
いや、正確には首を突っ込んだ問題が新たな問題を連れて来ている。
先日彼は、あるドワーフの少女に魔術を使いたいと相談を受ける。
これまで何故か、ドワーフは魔術を使う者が見当たらなかったが、
実は「無意識に身体強化魔術を発動していた」ためだったのだ。
そのため無意識を意識させてやる事で、魔術使用が可能となった。
しかし、これは難題のはじまりに過ぎない。
そのドワーフの少女、ある日自分の兄に魔術使用の話をしたところ、
知人であるロドが解決した事実を知ってこの兄が我慢出来なくなる。
工兵隊にいたこの兄ドワーフ、職場の同僚を巻き込んでゴネ出す。
いわく「ズルい、俺達にも魔術が使えるようにさせろ」と。
工兵隊は王国制式騎士団の機関であるため、騎士団側の協力も得て、
所属するドワーフ一同へ魔術使用の指導を行う事となり実施した。
無事工兵隊のドワーフ達も、初歩ではあるものの魔術を習得し、
これで解決、めでたしめでたしと思われていたのだが。
◆
今度は王国商工会の職人ドワーフ連中に話が飛び火する。
内容はこれまで同様「自分達も魔術が使いたいのでなんとかしろ」。
王都にいるドワーフ同士の縦横の繋がりによって話が拡大し続ける。
王国商工会は財務局や内務局の管理下にあるが、国家機関ではない。
あくまで王国での商取引や各種職人同士を繋ぐ民間互助機関である。
だが、ロドは王国商工会にはひとかたならぬ縁が出来ている。
そもそもロドの王立中央学院への進学は騎士を目指してではない。
孤児院出身の彼は、単純に自分のいた村が豊かになればいいと思い、
農作物や畜産物の生産を向上させたい為に進学したのである。
農産物の生育に有用な肥料、環境を整える為の蓄熱器や蓄光器、
安定して生産出来る簡易温室や、収穫後の保存の為の簡易冷室、
害獣や魔獣の食害を防ぐ為の各種罠や武器、誘因装置の数々は、
元は全てその一点に集中していた。無数に作った自作魔術も。
それに偶然目を付けた人物がおり、これは他の地域にも有効だと、
ロドをそそのかし…いや、説得した後、王国商工会へと紹介する。
その結果、各種道具や肥料等は王国全土で爆発的に普及した。
これらの効果はすさまじく、冬場の餓死者や傷病者が激減する。
また蓄光器による夜間照明は治安の劇的向上にも貢献していた。
特待生であるロドは王立中央学院の学費や食費こそ無料だが、
自由になる金銭は当時それほど持ってはいなかった。
よって蓄光器をはじめとして「安く作る」事を重視していた結果、
それほど余裕がない平民でも無理なく買える便利な道具が作られる。
大量生産は王国商工会へ任せ、ロドは莫大な発明特許料を得た。
結果、彼は九歳半ばで一代騎士を、十歳直前に準男爵を叙爵し、
さらには王国制式騎士団の戦力底上げに多大なる貢献をしたとして、
十歳にして、領地こそないが男爵にまで駆け上る事になる。
ついた異名が「発明男爵」「静かなる改革者」。
所有する財産はその辺の男爵の比ではなく、上級貴族並みであり、
資金力目当てに近付こうとした者も多かったが、早々に数を減らす。
何せ、ロドが成り上がるきっかけを作った者というのが…
◆
話は戻る。
王国商工会に所属する職人ドワーフは、軽く千名を超える。
先日工兵隊のドワーフへ指導を行った時は五十六名。二十倍である。
この時は騎士団から人員を借り受けられたが、今回は民間機関。
世話になっている人達でもあり、無茶だが何とかしたい。
が、ロドが一人で何とかしないとならない。
一人一人に体内魔素、魔脈の流れを体感させないとならないのだが、
やり終えるまで何日かかるか分かったものではない。
まして自分の都合も相手の都合もあるのだ。
どうにか出来ないかと悩んでいるところ、後ろから声をかけられた。
「どした?何か問題でもあったかい?ロド君」
ロドを王国商工会へ縁を繋いだ張本人、大公令嬢のミエルである。
彼女だけではなく、孤児院の妹分達ハーフエルフ十二人も一緒だ。
「あ、ミエル先輩。オスクーロ達も一緒だったんだ」
ハーフエルフ十二名はうれしそうな顔をする。
ぼそりと「やっぱロド兄は分かってるねえ」と呟いていたが、
その言葉はロドまで聞こえなかった。
ロドは王国商工会からのかなり無茶な依頼の件を話したが、
「ん?それなら手伝うよ?わたし時間余裕あるし。
みんなも言えば手伝ってくれるんじゃないかな。ねえ?」
とミエルは事も無げに協力を申し出る。ハーフエルフ達も頷く。
◆
王国商工会所属の職人ドワーフへの魔術指導。
当初の予想に反して、実施は一日で完了出来てしまった。
ロドの体内魔素は、男爵になってもその辺りの平民と変わりない。
しかしハーフエルフ十二名はロドと比較にならないほど多い。
それこそ上級貴族に匹敵する体内魔素を有しているのだ。
そして。ミエルの体内魔素量は王国でも上位十名に入っていた。
寝台に寝転がるドワーフ達二十名ほどに一気に施術出来てしまう。
しかもロドの様に、ドワーフの身体に触れずともである。
ロドは彼女達の協力に感謝の言葉を述べる。
それに対して彼女達だが。
「のちのち思いっきりご褒美もらうので覚悟しててねー」
と返される。
え、怖いんだけど。一体何を要求されるの?
ロドは不安でどきどきしてきた。恋愛的な意味ではなく。
「むきむきの不向き」「そうむきむきになられても」の続き。
ミエルは「図書館の姫君」の大公令嬢。
「攻めの前傾姿勢」で触れた奥さん未来会議の途中、
色話の書かれた古文書を紹介する為、図書館へ来ていた。
ハーフエルフ十二名は問題の古文書熟読中。




