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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第9話 噂は、俺の知らないところで走る

 最初の違和感は、朝だった。


 村の外れに、見知らぬ人間が立っていた。


 旅装の男。

 荷を背負い、こちらをじっと見ている。


「……誰だ?」


 兵の一人が、警戒する。


 男は、慌てて両手を上げた。


「怪しい者じゃない!

 ただ……話を聞きたくて」


 その言葉に、胸の奥が嫌な音を立てた。


 ――話。


 俺は、一歩前に出た。


「何の話だ」


 男は、少し言い淀んでから言った。


「……この村は、人が死なないって」


 その瞬間、背中に冷たいものが走った。


「誰から聞いた」


「……隣の村です」


 男は、視線を逸らす。


「盗賊に狙われたのに、

 逃げ道を作って、誰も殺されなかったって」


 俺は、言葉を失った。


 たった一晩の出来事だ。

 隠したつもりだった。

 目立たないように、静かにやった。


 それなのに。


「……それで?」


「本当かどうか、確かめたくて」


 男の声は、切実だった。


「俺の村は……次が来たら、持たない」


 その言葉が、重く落ちる。


 希望。

 それを、俺たちは与えてしまった。


 良くも、悪くも。


 その日、訪ねてくる人間は一人ではなかった。


 昼には、老夫婦。

 夕方には、若い女と子ども。


 誰も武器を持っていない。

 誰も奪おうとしない。


 ただ、同じことを言う。


「ここは、安全だと聞いた」


「逃げ道があると」


「人が、死なないと」


 村人たちは、戸惑っていた。


 嬉しい反面、怖い。


 人が集まる場所は、

 必ず、狙われる。


 セレナも、そのことは分かっていた。


「……増えすぎれば、管理できません」


 夜、焚き火のそばで、彼女が低く言った。


「食料も、水も、限界がある」


「追い返すか?」


 俺が聞くと、

 彼女は首を振った。


「追い返せば、噂が変わります」


「“あの村は選ぶ”

 “助ける人間を決める”」


 それは、それで危険だった。


 俺は、火を見つめた。


 焚き火が、静かに揺れている。


「……俺は」


 言葉を探す。


「ここを、大きくしたいわけじゃない」


 セレナは、分かっているという顔で頷いた。


「ええ」


 そして、続けた。


「でも――

 小さなままでは、守れない時が来ます」


 その夜、兵の一人が、俺に言った。


「……変な話を聞いた」


「何だ」


「この辺りの領主が、

 この村を気にしてるらしい」


 喉が、鳴った。


「理由は?」


「“兵が勝手に集まっている”

 “統制の取れていない武装集団がいる”」


 つまり。


「……反乱の芽、か」


 兵は、黙って頷いた。


 俺は、ゆっくり息を吐いた。


 守るために留まった村が、

 いつの間にか、

 疑われる存在になっている。


 俺は、何もしていない。


 ただ、逃げなかっただけだ。


 裏切らなかっただけだ。


 それでも。


 世界は、

 それを放っておかない。


 夜更け、村の外れに立つ。


 遠くに、灯りが見えた。


 別の村。

 別の陣営。

 別の誰か。


 きっと、そこでも噂が生まれている。


「……厄介だな」


 独り言のように呟く。


 英雄になりたくはない。

 覇王になど、なおさらだ。


 それなのに。


 人が集まり、

 目が向けられ、

 疑われ始めている。


 俺は、初めてはっきりと感じた。


 ――この場所は、

 もう「ただの村」じゃない。


 そして。


 このままでは、

 誰かが来る。


 話し合いにか、

 取り締まりにか、

 あるいは――奪いに。


 焚き火の向こうで、

 村人たちが眠っている。


 その光景を見て、

 俺は静かに決めた。


 逃げるなら、

 全員が逃げてからだ。


 それまでは――

 ここに立つ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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