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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第8話 ここなら、生きられる

 村に留まると決めてから、三日が経った。


 俺は――

 自分が何もしていないことに、気づいていた。


 命令を出したわけでもない。

 剣を振ったわけでもない。


 それでも、村は動いていた。


「畑の東側、今日から耕します」


 セレナが淡々と告げる。


「川沿いの土地は湿りすぎている。

 今は使えない」


「荷車は二台。

 一台は修理に回します」


 彼女の言葉は、無駄がない。

 だが、冷たくもない。


 村人たちは、素直に頷いて動き出す。


 俺は、その光景を少し離れた場所から見ていた。


「……楽でいいな」


 思わず、口をついて出た。


「俺が何も言わなくていい」


 隣にいた兵が、肩をすくめる。


「それがいいんだろ」


「……そうか?」


「リクスが黙って見てるだけで、

 皆、勝手に動く」


 冗談めいた口調だったが、

 笑ってはいなかった。


 昼過ぎ、問題が起きた。


「水が足りません」


 村の年配の男が、セレナのもとへ来た。


「川の上流で、別の村が取水してる」


 空気が、ぴんと張り詰める。


 水は命だ。

 奪えば争いになる。


 俺は、反射的に口を開いた。


「……取りに行く?」


 自分でも驚くほど、消極的な提案だった。


 セレナは、首を振る。


「奪えば、恨みが残ります」


「じゃあ、どうする」


 セレナは、一瞬考えた後、

 俺を見た。


「……一緒に行ってください」


「俺が?」


「はい」


 理由は、聞かなかった。

 聞く前に、分かってしまったからだ。


 上流の村は、警戒していた。


 武装した兵が二人。

 数は少ないが、空気は険しい。


「何の用だ」


 俺は、両手を上げた。


「話をしに来ただけだ」


 それだけ言う。


 セレナが一歩前に出る。


「水を分けてほしい。

 代わりに、こちらの余剰食料を渡します」


 男は、眉をひそめた。


「信用できると?」


 俺は、迷わず言った。


「信用しなくていい」


 空気が、止まる。


「俺たちは、約束を守る。

 それだけだ」


 男は、俺をじっと見た。


 ――試されている。


「……噂は聞いている」


 男が、低く言った。


「逃げ道を作る兵がいる村だと」


 胸が、わずかに跳ねた。


 噂。

 もう、広がっている。


「一晩、様子を見る」


 それが、答えだった。


 翌朝。


 水は、止まっていなかった。


 約束通り、分水は維持され、

 俺たちは食料を渡した。


 誰も、剣に手をかけなかった。


 村へ戻る道すがら、

 セレナが小さく息を吐いた。


「成功です」


 その一言が、妙に重かった。


 勝ったわけじゃない。

 倒したわけでもない。


 それでも。


「……生き残ったな」


 俺が言うと、

 彼女は、少しだけ笑った。


 夕方。


 村の中央に、人が集まっていた。


「畑、うまくいきそうです」


「水も、戻りました」


「……この村、大丈夫かもしれない」


 そんな声が、あちこちから聞こえる。


 誰も俺を見ていない。

 誰も称えない。


 それでいい。


 俺は、焚き火のそばに腰を下ろし、

 火を見つめた。


 あの戦場。

 あの死体の山。


 そこから、ここまで来た。


 逃げただけ。

 裏切らなかっただけ。


 それだけで――

 人は、生きられる場所を作れる。


「……ここなら」


 独り言のように、呟く。


「ここなら、生きられる」


 その言葉に、

 隣にいた兵が、静かに頷いた。


 遠くで、子どもの笑い声が聞こえる。


 それは、

 戦場では聞こえなかった音だった。


 俺は、その音を聞きながら、

 はっきりと理解した。


 ――もう、戻れない。


 ここが、

 俺たちの居場所になってしまったのだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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