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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第7話 内政官セレナ

 翌朝、村は妙に静かだった。


 盗賊が去った後の村は、普通なら騒がしくなる。

 壊れた家の確認、失われた物の嘆き、怒りの声。


 だが、この村には――

 それがなかった。


 人は動いている。

 畑に出る者、水を汲む者、子どもを連れて歩く者。


 誰も、慌てていない。


「……妙だな」


 隣で、兵の一人が呟いた。


「普通、もう少し騒ぎになる」


 俺も同じことを思っていた。


 昨夜は確かに、死なずに済んだ。

 だが、村が無傷だったわけじゃない。


 恐怖は、確実にあったはずだ。


 なのに。


「探している人がいるそうです」


 不意に声をかけられ、振り向いた。


 女だった。


 二十代半ばほど。

 兵でも村人でもない、少し整った服装。

 だが、飾り気はない。


「あなたが……昨夜、指示を出していた人ですね」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


「……俺は、ただの雑用兵です」


 女は、少しだけ目を細めた。


「では、雑用兵さん。

 少し、お話を」


 彼女の名前は、セレナと言った。


 元は街の役所勤め。

 戦で職を失い、この村に流れ着いたらしい。


「この村の物資と人員を、私が管理しています」


 そう言って、彼女は迷いなく数字を口にした。


 残っている食料。

 動ける人間の数。

 負傷者。


 ……正確だ。


「昨夜、あなたが出した指示」


 セレナは、俺をまっすぐ見た。


「避難の順序、動線、荷物の制限。

 あれは、即席でできるものじゃない」


「……たまたまです」


「違う」


 即答だった。


「“たまたま”で、

 誰も混乱しない避難は起きません」


 胸の奥が、少しだけざわつく。


「村人たちは、あなたの言葉を疑わなかった」


「それは……」


「理由を、考えました」


 セレナは、少し困ったように笑った。


「不思議なんです。

 あなたは強くない。

 地位もない。

 命令口調でもない」


 それなのに。


「人が、勝手にあなたの言うことを信じる」


 その言葉に、息が詰まった。


 俺は、何も言えなかった。


 セレナは続ける。


「普通、兵が来れば村は怯えます。

 奪われると、身構える」


「でも、あなたは最初に“取らない”と言った。

 約束を守った」


「次に、“戦えない”と正直に言った。

 それでも、逃げる道を示した」


 一つ一つ、積み上げるように。


「人は、

 “正しい人”ではなく、

 “裏切らない人”を信じるんです」


 その言葉が、胸に深く沈んだ。


 ――そうか。


 俺は、正しいことをしたかったわけじゃない。

 ただ、裏切りたくなかっただけだ。


「……俺は」


 言葉を探す。


「村を守るつもりはなかった。

 英雄になりたかったわけでもない」


 セレナは、静かに頷いた。


「分かっています」


 そして、こう言った。


「だからこそ、

 ここに残ってほしい」


「……は?」


 思わず、間の抜けた声が出た。


「あなたと、あなたの仲間がいるだけで、

 この村は“襲われにくくなる”」


「噂になります。

 “あの村は、無理をしない”

 “逃げ道を知っている”

 “人が死なない”」


 それは、防衛力じゃない。

 信用だ。


「私は、管理ができます」


 セレナは、はっきり言った。


「食料、労働、交渉。

 でも――

 人をまとめることはできない」


 そして、少しだけ頭を下げた。


「お願いします。

 ここを、“生き残れる場所”にしてください」


 俺は、すぐに答えられなかった。


 また、背負うものが増える。

 また、逃げられなくなる。


 それでも。


 村の外で、兵たちが笑っている声が聞こえた。

 子どもが、近くを走り抜ける。


 昨夜、確かに守られた命だ。


「……約束はできない」


 俺は、正直に言った。


「俺は、強くならない。

 戦で勝つ保証もない」


 セレナは、微笑んだ。


「それで、十分です」


 ――逃げない。

 裏切らない。


 それだけで。


 俺は、ゆっくり息を吐いた。


「……少しの間だけだ」


 そう言うと、

 セレナは深く頷いた。


 この時、俺はまだ知らなかった。


 この“少しの間”が、

 後に、国の始まりと呼ばれることを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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