第63話 覇王にまつりあげられる
変化は、
宣言から始まらなかった。
書面でもない。
集会でもない。
ただ、
配置が変わった。
赤の部隊は、
第三の線を基準に
陣を引いた。
それは、
防衛線ではない。
基準線だ。
青の商隊も、
同じだった。
第三を中心に
流れが再編される。
「……第三の判断だ」
誰かが言う。
誰が言ったかは、
重要じゃない。
俺は、
その言葉を聞いていない。
だが、
世界はそう整理した。
赤の使者が来る。
態度は、
以前よりも慎重だった。
「……第三の意思を、
尊重する」
その言葉に、
違和感しかない。
「意思は、
出していない」
そう言う。
「承知しています」
即答。
「ですが、
第三がここに在ること自体が、
意思です」
逃げ道が、
完全に消える。
青の使者も、
同じことを言う。
「第三が動かなければ、
市場は安定します」
「だから、
動かないでください」
頼みですらない。
前提だ。
評議体でも、
空気が変わる。
「……第三の覇王」
その呼び方が、
自然に出る。
「……やめてくれ」
小さく言う。
だが、
誰も訂正しない。
夜。
焚き火の前で、
一人になる。
火は、
変わらない。
「……覇王か」
呟く。
名乗っていない。
命令していない。
支配していない。
それでも。
世界は、
肩書きを置いていった。
誰も、
それを持ち帰らない。
セレナが、
隣に立つ。
「……否定しませんか」
静かな問い。
「……否定しても、
意味がない」
それだけだ。
否定は、
もう一度命令になる。
肯定すれば、
本当に王になる。
「……なら」
セレナが言う。
「このまま、
ですか」
「ああ」
頷く。
ここに立つ。
逃げない。
それだけで、
十分だった。
翌朝。
地図が、
更新される。
第三の地。
そこに、
小さく書き足されていた。
中立覇権圏
誰が書いたかは、
分からない。
だが、
消されることもなかった。
俺は、
その地図を見つめながら、
静かに思う。
覇王とは、
王座に座る者じゃない。
剣を振るう者でもない。
避けられない場所に、
立ち続けた者の名前だ。
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