第62話 逃げないという選択
その夜、
眠れなかった。
恐怖ではない。
後悔でもない。
ただ、
静かに理解してしまった。
もう、戻れない。
焚き火の前に座る。
火は、
いつも通り揺れている。
だが、
世界の方が変わった。
「……逃げれば、
楽になる」
それは、
事実だった。
ここを離れる。
名を消す。
第三を解体する。
誰かに、
責任を返す。
そうすれば、
世界はまた動く。
赤と青が、
決着をつける。
俺は、
ただの人に戻れる。
「……でも」
声に出す。
逃げれば、
選ばれなかった者たちは
完全に切り捨てられる。
逃げれば、
第三に集まった人間は
行き場を失う。
「……それは、
できない」
それだけは、
はっきりしていた。
セレナが、
背後に立つ。
「……覚悟ですか」
その言葉に、
首を振る。
「違う」
「覚悟じゃない」
「……選択だ」
「何を、
選ぶのですか」
俺は、
しばらく黙ってから言う。
「……何も決めない」
「だが、
逃げもしない」
セレナは、
何も言わなかった。
それで、
十分だった。
翌朝。
第三の地に、
噂が広がる。
「第三の覇王は、
逃げない」
誰かが、
そう言った。
「裁定は、
下さないが」
「ここに、
居続ける」
意味が、
勝手に補完される。
赤の陣営が、
動きを止める。
青の市場が、
価格を固定する。
俺は、
何も言っていない。
それでも、
世界は
この選択を
“答え”として受け取った。
昼。
通行人が、
頭を下げる。
理由は、
分からない。
俺は、
頭を下げ返す。
それだけだ。
命令しない。
裁定しない。
支配しない。
ただ、
ここに立つ。
焚き火の前で、
静かに思う。
逃げないという選択は、
何かを得るためのものじゃない。
誰かを、
完全に見捨てないためのものだ。
それが、
正しいかどうかは、
分からない。
だが――
これ以上、
逃げなかった。
それだけは、
胸を張って言えた。
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