第60話 計算に入らない存在
赤の覇王、カイは
地図を前に黙っていた。
「……止まっているな」
参謀が、
慎重に言う。
「第三の線を、
誰も越えません」
「避けている、
というより……」
「待っている、
です」
その言葉に、
カイは小さく舌打ちした。
「……命令は?」
「ありません」
即答だった。
「第三からは、
何も」
それが、
一番厄介だった。
カイは、
机に指を置く。
そこは、
第三の地。
「……排除は?」
誰かが、
小さく口にする。
カイは、
即座に首を振った。
「不可能だ」
「理由は」
「世界が、
割れる」
簡潔だった。
「第三を潰せば、
赤でも青でもない連中が、
全員敵に回る」
「それは、
戦争じゃない」
「崩壊だ」
参謀が、
黙り込む。
「……利用は?」
別の声。
「既にしている」
カイは、
吐き捨てるように言う。
「だが、
主導権が取れない」
それが、
本音だった。
同じ頃。
青の覇王、シェンも
別の場所で、
同じ地図を見ていた。
「……市場が、
安定しています」
部下が言う。
「戦争中だぞ」
「はい」
「ですが、
第三を基準に
物流が再編されています」
シェンは、
目を細めた。
「……彼は、
何も言っていないな」
「ええ」
「だからこそ、
皆が従っています」
その言葉に、
違和感が走る。
「……命令が、
ないのに?」
「はい」
「第三の“沈黙”が、
価格基準になっています」
シェンは、
小さく笑った。
笑えない冗談だ。
「……排除すれば?」
部下が、
確認する。
「市場が死ぬ」
即答だった。
「第三は、
信用そのものだ」
「破壊すれば、
世界が止まる」
それが、
商人の結論だった。
赤と青。
同じ結論に、
別の言葉で辿り着く。
「……彼は、
覇王じゃない」
カイは言う。
「だが、
覇王より動かせない」
シェンも、
同じことを思っていた。
「……敵ではない」
「味方でもない」
「だが――
前提だ」
その認識が、
一致する。
地図の中央。
第三の地。
そこには、
何の印もない。
だが。
そこを抜きに、
どんな戦略も
成立しなかった。
誰も、
王と呼べとは言っていない。
誰も、
命令を受けていない。
それでも。
世界は、
彼を中心に
静かに回り始めていた。
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