第56話 恨みの行き先
恨みは、
真正面からは来なかった。
「……南で、
妙な噂が出ています」
報告役の声は、
低く慎重だった。
「噂?」
「第三が、
見捨てたから襲われた、
という話です」
胸が、
わずかに沈む。
事実だ。
だが、
全部ではない。
「……誰が言っている」
「……生き残った商人たちです」
責められない。
彼らは、
失った。
「……内容は」
「“第三は人を選ぶ”」
「“役に立たない者は切られる”」
言葉が、
歪んでいる。
だが、
完全な嘘ではない。
昼。
門の外で、
口論が起きる。
「北ばかり守る!」
「南は、
捨てた!」
声は、
怒りよりも虚無に近い。
「……違う」
そう言おうとして、
言葉を止める。
何を言っても、
正当化に聞こえる。
「……あなたが、
決めたんでしょう」
誰かが、
静かに言った。
否定しない。
できない。
夕方。
赤と青の陣営でも、
噂が広がっていた。
「第三は、
切る」
「選ばれなければ、
守られない」
それは、
事実だ。
だが、
文脈が消えている。
「……危険です」
セレナが、
低く言う。
「人は、
恨みの理由を
単純にします」
そうしないと、
耐えられないからだ。
「……俺が、
悪役になるのか」
思わず、
口に出る。
「なります」
即答だった。
「もう、
なり始めています」
胸が、
きしむ。
夜。
第三の地の外れで、
小さな事件が起きる。
荷馬車が、
壊された。
犯人は、
いない。
「……抗議です」
そう報告される。
抗議。
だが、
暴力だ。
「……命令していない」
また、
同じ言葉を言う。
「ええ」
セレナは、
静かだ。
「ですが、
恨みは命令を待ちません」
焚き火の前で、
一人になる。
火は、
変わらず揺れている。
「……人徳って、
こんな力だったのか」
呟く。
好かれる力じゃない。
信頼される力でもない。
選ばれなかった者の感情を、
一身に引き受ける力だ。
俺は、
焚き火を見つめながら、
静かに思う。
恨みは、
誰かを悪にしないと、
行き場を失う。
そして――
今、その役は、
俺が担っている。
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