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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第55話 全員は救えない

 要請は、

 一度に来た。


「北の村が、

 避難を求めています」


「南の商隊が、

 護衛を求めています」


「東の街道で、

 衝突の危険があります」


 地図の上に、

 印が増える。


 同時刻。

 同規模。

 同じ緊急度。


「……全部は、

 無理だな」


 口に出した瞬間、

 場が静まる。


 今まで、

 誰も言わなかった言葉だ。


「……基準を、

 決める必要があります」


 セレナが、

 淡々と言う。


 責めない。


 だが、

 逃がさない。


「……被害予測は」


「北は、

 住民が多い」


「南は、

 流通の要です」


「東は、

 衝突すれば戦火が拡大します」


 どれも、

 切れない。


「……なら」


 喉が、

 ひどく渇く。


「……北を、

 優先する」


 声は、

 思ったより低かった。


 一瞬、

 空気が止まる。


「……南は?」


 誰かが、

 聞く。


「……見送る」


 その言葉が、

 落ちる。


 重く。


「理由は?」


 逃げられない。


「……人の数だ」


 正直に答える。


「北には、

 子どもと老人が多い」


「南は、

 自力で逃げられる」


 理屈としては、

 正しい。


「……東は?」


「警告だけ出す」


「止めはしない」


 線を引く。


 初めて、

 明確に。


 セレナが、

 小さく頷く。


「現実的です」


 それが、

 一番きつい。


 昼。


 北への支援が、

 動き出す。


 人は、

 集まる。


 速い。


 一方で。


 南から、

 怒りの声が届く。


「第三は、

 我々を切った」


「責任を負うと、

 言ったはずだ」


 胸が、

 締め付けられる。


「……俺は、

 全部は救えない」


 そう言うしかない。


 夕方。


 南の商隊が、

 襲われた。


 被害は、

 出た。


 報告役が、

 俯いて言う。


「……あなたの判断だと、

 言われています」


 分かっている。


 否定しない。


 夜。


 焚き火の前で、

 一人になる。


 手が、

 少し震えている。


「……正しかったか」


 自分に問う。


 答えは、

 出ない。


 救った人数は、

 多い。


 だが、

 見捨てた顔が、

 頭から離れない。


「……これが、

 選ぶということか」


 呟く。


 守らなかった。

 命じなかった。


 それでも、

 選んだ。


 俺は、

 焚き火を見つめながら、

 静かに思う。


 全員を救う者は、

 存在しない。


 だが――

 誰を救わなかったかは、

 一生残る。


 それが、

 責任の正体だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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