第52話 決めないという判断
決めていない。
それが、
通じなくなり始めていた。
朝。
第三の地の外縁で、
人の流れが変わった。
「……通行が、
整理されています」
報告役が、
困惑した顔で言う。
「誰が?」
「……誰でもありません」
また、
その答えだ。
街道の要所に、
人が立っている。
武装していない。
命令書もない。
ただ、
“分かっている顔”をしている。
「……通っていいのか?」
「今日は、
待った方がいい」
理由は、
語られない。
だが、
人は従う。
「……俺は、
何も言っていない」
そう言った瞬間、
胸に嫌な感覚が走る。
「ええ」
セレナは、
静かに頷く。
「ですが、
“言わなかった”ことが、
判断として扱われています」
それが、
現実だった。
昼。
評議体が集まる。
議題は、
防衛でも外交でもない。
「……第三の判断を、
どう共有するか」
その言葉に、
違和感を覚える。
「判断は、
出していない」
そう言うと、
誰かが困った顔をした。
「……昨日と、
同じということですね」
胸が、
きしむ。
同じ。
それは、
選択だ。
「……違う」
否定する。
「昨日と同じなのは、
“保留”だ」
だが。
「それを、
現場は“継続”と受け取ります」
セレナの言葉が、
淡々と刺さる。
夕方。
外から、
苦情が入る。
「第三は、
通行を制限した」
「いや、
守らないと決めた」
「つまり、
見捨てたんだ」
全部、
違う。
だが、
全部、
否定しきれない。
「……俺は、
命令していない」
声が、
少し荒れる。
「ええ」
セレナは、
静かだ。
「ですが、
あなたの沈黙が、
基準になっています」
それが、
人徳の重さだ。
夜。
焚き火の前で、
一人になる。
人は、
命令を求める。
だが、
もっと怖いのは――
「……答えを、
埋めてくる」
そう、
理解する。
決めない。
それは、
空白だ。
だが、
空白は嫌われる。
だから、
人は勝手に書き込む。
「……決めないという判断」
それが、
今の俺だ。
だが、
その判断は、
誰の責任なのか。
俺か。
世界か。
焚き火が、
小さく爆ぜる。
音が、
嫌に大きい。
俺は、
焚き火を見つめながら、
静かに思う。
命令しない者が、
最も強く影響する。
それが、
この力の本質なのだと。
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