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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第50話 均衡が壊れる音

 決断は、

 しなかった。


 赤にも、

 青にも。


 返事を、

 出さなかった。


 それだけだ。


 朝。


 報告役が、

 青ざめた顔で駆け込んでくる。


「……始まりました」


 短い言葉。


 重すぎる。


「どこだ」


「南です」


 地図が、

 机に広げられる。


 第三の線の、

 外。


 だが、

 近い。


「……何が」


「衝突です」


 それ以上、

 説明はいらない。


 赤の先遣隊と、

 青の護衛部隊。


 どちらも、

 命令ではない。


 どちらも、

 “念のため”だ。


「……線は?」


「越えていません」


 その言葉が、

 胸に刺さる。


「だが、

 線の周辺です」


 周辺。


 それが、

 最悪だった。


 衝突は、

 短時間だった。


 だが、

 十分だった。


 死者が出た。


 双方に。


「……第三は、

 どう動いた」


 声が、

 自分のものではない。


「……何も」


 報告役は、

 目を伏せる。


「通行も、

 止めていません」


「警告も、

 出していません」


 それが、

 答えだった。


 沈黙。


 焚き火の音だけが、

 響く。


「……第三の覇王は、

 何をしていた」


 誰かが、

 どこかで言った。


 聞こえないはずなのに、

 はっきり聞こえる。


「……選ばなかった」


 それだけだ。


 昼。


 噂は、

 一気に広がる。


「第三が、

 止めなかった」


「見ていただけだ」


「だから、

 血が流れた」


 言葉は、

 刃になる。


「……違う」


 何度も、

 心の中で否定する。


 だが、

 現実は変わらない。


 夕方。


 赤の使者が来る。


 怒っていない。


 それが、

 一番怖い。


「……ご理解いただけましたか」


 静かな声。


「選ばなければ、

 こうなります」


 脅しではない。


 事実だ。


 夜。


 青の使者も来る。


 同じ言葉。


「どちらにも、

 肩入れしないという選択は」


「結果的に、

 最も危険でした」


 否定できない。


 俺は、

 一人になる。


 焚き火の前。


 いつもと同じ場所。


 だが、

 音が違う。


 遠くで、

 火が燃えている音。


 戦の音だ。


「……均衡が、

 壊れた」


 声に出す。


 ようやく、

 現実になった。


 選ばなかった。


 だから、

 第三であり続けた。


 だが、

 世界は待たない。


 俺は、

 焚き火を見つめながら、

 静かに思う。


 壊れる音は、

 大きくない。


 だから、

 聞き逃す。


 だが、

 一度聞いたら、

 戻れない。


 均衡は、

 壊れた。


 それだけは、

 否定できなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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