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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第5話 村を守るか、逃げるか

 その村は、地図にもまともに載っていない場所だった。


 街道から外れ、川沿いに少し入っただけの、小さな集落。

 畑と家がぽつぽつ並んでいるだけで、城壁もない。


 本来なら、俺たちが立ち寄る理由はなかった。


 ――本来なら。


「……今日は、ここで休む」


 そう言ったのは、俺だった。


 兵たちは少し驚いた顔をしたが、反論はなかった。

 水と食料が必要だったし、何より疲れ切っていた。


 村人たちは、最初こそ警戒していた。

 武装した兵が十数人も来れば、無理もない。


 俺は一歩前に出て、手を上げた。


「略奪はしない。

 水と、少しの食べ物を分けてもらえれば、それでいい」


 それだけ言った。


 しばらくの沈黙の後、

 年配の女性が、恐る恐る近づいてきた。


「……本当に、取らないのかい?」


「はい」


 嘘は、つかなかった。


 村人たちは、ゆっくりと警戒を解いた。

 水桶が運ばれ、干しパンが配られる。


 誰も怒鳴らない。

 誰も殴らない。


 その空気に、俺自身が一番驚いていた。


 日が傾きかけた頃、異変は起きた。


「……煙だ」


 見張りに立っていた兵が、低く言った。


 森の向こう、空に細い黒煙が立っている。


「野焼きか?」


「違う……動いてる」


 胸の奥が、冷たくなる。


 あれは――

 人が動く煙だ。


「盗賊だな」


 誰かが呟いた。


 この辺りには、戦で職を失った連中が多い。

 武器を持ち、村を襲って回る盗賊団が出ても、不思議じゃない。


 村人たちも、気づき始めていた。

 ざわめきが広がる。


「……どうする?」


 兵の一人が、俺を見る。


 その視線が、重かった。


 俺は、地図代わりの地面を見下ろした。


 俺たちの人数は十二人。

 盗賊の規模は、不明。


 正直に言えば――

 勝てる保証はない。


「……逃げるなら、今だ」


 自分で言って、胸が痛んだ。


 俺たちは兵だ。

 戦場から逃げるのには、慣れている。


 だが。


「村は?」


 誰かが聞いた。


 答えは、分かっている。


 守らなければ、襲われる。

 略奪され、下手をすれば、殺される。


 俺は、村を見た。


 さっき水をくれた女。

 干しパンを差し出した子ども。

 俺たちを恐れながらも、信じようとした人たち。


 ――逃げれば、生き延びられる。

 俺たちは。


 だが。


「……俺たちがいなければ、

 あの人たちは死ぬ」


 誰かが、ぽつりと漏らした。


 俺は、唇を噛んだ。


 英雄なら、迷わないだろう。

 覇王なら、切り捨てるかもしれない。


 俺は――

 どちらでもない。


「……戦わない方法を考える」


 それが、俺の出した答えだった。


 全員が、俺を見た。


「勝つためじゃない。

 守るためでもない」


 一度、言葉を切る。


「死なないためだ」


 兵たちは、ゆっくりと頷いた。


 村の中央に、人を集めた。


「盗賊が来る可能性があります」


 ざわめきが走る。


「戦えません。

 でも、逃げる時間は作れます」


 正直に言った。


 泣き出す子ども。

 震える大人。


 それでも、誰も俺を罵らなかった。


「……どうすればいい」


 村の中から、声が上がる。


 俺は、息を吸った。


「動ける人は、今すぐ川沿いへ。

 荷物は最低限で」


「動けない人は、家に籠もらないでください。

 森の影に隠れます」


 指示は、最低限。


 守れない約束は、しない。


 兵たちが、走り出す。

 村人も、それに続く。


 空気が、一気に張り詰めた。


 不安が、胸を締め付ける。


 ――この判断は、正しいのか。


 分からない。


 それでも、俺は逃げなかった。


 逃げるのは、

 全員が逃げてからだ。


 それだけは、決めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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