第49話 踏み出せない理由
同盟案は、
机の上に置いたままだ。
紙は、
何も語らない。
だが、
内容は頭に焼き付いている。
「……合理的だ」
独り言のように、
呟く。
否定できない。
受ければ、
守らなくていい。
決めなくていい。
責任を、
分けられる。
それは、
逃げではない。
整理だ。
「……楽になる」
その言葉が、
口から出てしまう。
止められなかった。
セレナが、
何も言わずに立っている。
責めない。
急かさない。
それが、
一番きつい。
「……選んだ方が、
いいと思うか」
俺は、
聞いた。
答えが怖くて、
視線は合わせない。
「……はい」
短い返事。
胸が、
少し沈む。
「理由は?」
「壊れる前に、
止められます」
「これ以上、
あなたが削れません」
正しい。
あまりに。
「……俺は、
王にならない」
何度目かの、
宣言。
自分に向けた言葉だ。
「でも、
王みたいな責任は、
背負っている」
セレナの声は、
静かだ。
逃げ道を、
塞がない。
それが、
余計に刺さる。
「……俺は、
選ぶのが怖い」
ようやく、
言葉にできた。
「選べば、
誰かを切る」
「切られた側は、
俺を恨む」
それが、
当然だ。
「今は、
恨まれても、
理由が曖昧だ」
卑怯な考えだ。
分かっている。
「……逃げている」
自分で、
そう言った。
誰も、
否定しない。
焚き火が、
小さく爆ぜる。
音が、
やけに大きい。
「……一度だけ、
思った」
ゆっくり、
言葉を探す。
「全部、
どちらかに任せたいと」
それは、
本音だった。
「責任を、
預けてしまえば」
「俺は、
雑用に戻れる」
最初の頃の、
自分に。
セレナは、
しばらく黙っていた。
そして、
こう言った。
「……それでも、
あなたは戻れません」
優しい声。
残酷な言葉。
「もう、
人が見ています」
「あなたが、
選ばない理由を」
胸が、
痛む。
「……選ばないことで、
守ってきたものがある」
「だが、
選ばないことで、
壊したものもある」
どちらも、
本当だ。
俺は、
机の上の書面を見る。
赤。
青。
どちらも、
手を差し伸べている。
「……まだ、
選べない」
声は、
小さい。
だが、
はっきりしている。
「理由は?」
セレナが、
聞く。
「……俺が、
選んだ瞬間」
「ここは、
第三ではなくなる」
それだけだった。
それが、
一番怖い。
焚き火を見つめながら、
静かに思う。
踏み出せない理由は、
弱さじゃない。
覚悟が足りないわけでもない。
選ばないことでしか、
守れないものがあると、
信じてしまったからだ。
それが、
正しいかどうかは――
まだ、分からない。
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