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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第48話 同盟の誘惑

 使者は、

 一人ずつ来た。


 それが、

 余計に重かった。


 最初に現れたのは、

 赤の陣営――カイの使者だ。


 武装は控えめ。

 態度は、

 以前より低い。


「……覇王カイより、

 正式な提案です」


 その言葉だけで、

 場の空気が変わる。


「同盟を」


 直球だった。


「第三の地を、

 正式な中立領として認める」


「侵攻しない」

「通行の自由を保証する」


「必要であれば、

 限定的な護衛も出す」


 条件が、

 綺麗すぎた。


「代わりに」


 当然、

 続きがある。


「敵対しないこと」

「青に与しないこと」


 それだけ。


 剣を取れとは、

 言わない。


「……魅力的だな」


 思わず、

 口に出た。


 疲れている証拠だ。


 使者は、

 それを逃さない。


「守らないと、

 言い続けてきた」


「ですが、

 守らずに責められるのは、

 もう終わりにできる」


 痛いところを、

 正確に突く。


「責任は、

 我々が分け持ちます」


 その言葉が、

 甘かった。


 使者が去った後、

 間を置かずに、

 青の使者が来る。


 シェンの陣営だ。


「……条件は、

 ほぼ同じです」


 そう前置きしてから、

 彼は言った。


「通行保証」

「交易保護」

「経済的支援」


「第三の地は、

 “非戦略区域”として扱う」


 耳が、

 痛くなるほど合理的だ。


「代わりに」


 やはり、

 続きがある。


「赤に肩入れしないこと」

「我々の物流を、

 妨げないこと」


 それだけ。


「……どちらも、

 楽になる」


 セレナが、

 小さく言う。


 否定できない。


 守らなくていい。

 決めなくていい。

 責められにくくなる。


 今まで、

 欲しかったものが

 全部ある。


「……罠だと思うか」


 聞く。


「いいえ」


 セレナは、

 即答した。


「本気です」


「だからこそ、

 厄介です」


 覇王たちは、

 理解していない。


 俺を、

 利用しようとしている。


 だが、

 侮ってはいない。


「……受ければ、

 均衡は保たれる」


 少なくとも、

 一時的には。


 夜。


 焚き火の前で、

 一人考える。


 選べば、

 楽だ。


 誰かと、

 責任を分けられる。


「……それで、

 いいのか」


 自分に問う。


 答えは、

 出ない。


 選べば、

 第三ではなくなる。


 選ばなければ、

 責められ続ける。


 どちらも、

 間違いではない。


 遠くで、

 誰かが言う。


「第三の覇王は、

 どうするんだ」


 その呼び方が、

 胸に刺さる。


 俺は、

 焚き火を見つめながら、

 静かに思う。


 これは、

 脅しではない。


 救済でもない。


 誘惑だ。


 正しさを、

 静かに摩耗させる、

 最も優しい圧力。


 返事は、

 まだ出せない。


 それだけは、

 はっきりしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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