第47話 名を呼ばれる
最初は、
噂だった。
「……第三の覇王、
だそうです」
交渉役が、
言いづらそうに報告する。
評議体の空気が、
一瞬止まった。
「誰が、
そんなことを」
「……誰とも、
特定できません」
それが、
一番厄介だった。
市場で。
街道で。
酒場で。
名前は、
勝手に使われる。
「赤でもない」
「青でもない」
「だが、
一番安全だ」
その言い方が、
気に入らなかった。
安全ではない。
何度も、
そう言ってきた。
だが、
言葉は上書きされる。
昼。
門の前で、
商人同士が話している。
「どこを通る?」
「……第三だな」
迷いが、
ない。
「覇王、
なんて言われてますよ」
誰かが、
軽く笑う。
軽すぎる。
「……否定しろ」
誰かが、
小声で言う。
分かっている。
だが。
「否定しています」
セレナが、
静かに答える。
「それでも、
止まりません」
否定するほど、
名前が広がる。
夕方。
外部の使者が来る。
以前より、
距離がある。
敬意とも、
警戒とも取れる。
「……第三の覇王として」
言いかけて、
言葉を切る。
それだけで、
十分だった。
「俺は、
名乗っていない」
俺は、
はっきり言う。
使者は、
困った顔をする。
「承知しています」
「ですが」
続く言葉が、
重い。
「皆がそう呼びます」
夜。
焚き火の前で、
一人になる。
名を呼ばれる。
それだけで、
責任が生まれる。
「……覇王、か」
呟く。
響きが、
重すぎる。
俺は、
王にならない。
それは、
変わらない。
だが、
呼ばれることは、
拒めない。
遠くで、
誰かが言う。
「第三の覇王が、
動かない限り――」
その続きは、
聞きたくなかった。
俺は、
焚き火を見つめながら、
静かに思う。
名は、
武器だ。
使わなくても、
刺さる。
そして――
一度刺さった名は、
抜けない。
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