第43話 均衡は脆い
知らせは、
夕方だった。
「……商隊が、
襲われました」
報告役の声は、
低い。
感情を挟まない。
それが、
逆に重い。
「場所は」
「北の街道です」
地図を広げる。
第三の線の、
外側。
俺たちの地ではない。
「被害は」
「死者、三名」
「荷は、
ほぼ奪われました」
拳を、
強く握る。
「……通過は?」
「していません」
報告役は、
はっきり言う。
「第三の線を、
避けた結果です」
喉が、
鳴った。
均衡が、
歪んだ。
避けた結果、
弱い場所に被害が集中した。
予想していた。
だが、
現実になると重い。
「……名前が、
出ています」
報告役が、
言いづらそうに続ける。
「何の」
「……あなたのです」
「どういう意味だ」
「“リクスの地を通れば、
助かったのに”と」
胸の奥が、
きしむ。
「俺は、
通るなとは言っていない」
「ええ」
「守るとも、
言っていません」
「ええ」
それでも、
名前が出る。
夜。
焚き火の前で、
評議体が集まる。
空気が、
重い。
「……責任を、
問われています」
交渉役が、
静かに言う。
「外から、
内から」
内から。
その言葉が、
刺さる。
「なぜ、
守らなかった」
「なぜ、
止めなかった」
声は、
直接ではない。
だが、
確かに届いている。
「……俺たちは、
関与していない」
誰かが言う。
正しい。
だが、
十分ではない。
「関与していない、
という説明は」
セレナが、
静かに言う。
「被害を受けた人には、
意味がありません」
反論できない。
「……俺は、
何をすべきだ」
思わず、
口に出る。
全員が、
黙る。
答えが、
ないからだ。
「動けば、
線を越える」
「動かなければ、
恨まれる」
どちらも、
現実だ。
外では、
夜風が吹く。
誰かが、
泣いている声がする。
俺の知らない誰かだ。
それでも、
名前だけが近くにある。
「……均衡は、
脆い」
セレナが、
低く言う。
「誰も壊そうとしていないのに、
壊れ始めます」
それが、
一番厄介だ。
俺は、
焚き火を見つめながら、
静かに思う。
守らないと、
言った。
だが、
守られなかった人の前で、
その言葉は軽い。
均衡は、
まだ保たれている。
だが、
壊れ始めている。
音は小さい。
だからこそ、
止め方が分からない。
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