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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第42話 勝手に期待される

 不満は、

 怒鳴り声では始まらなかった。


「……最近、

 通る人が増えましたね」


 配給所で、

 誰かがそう言った。


 ただの世間話。

 最初は。


「安全だからでしょう」


 別の誰かが、

 軽く答える。


 その言葉に、

 違和感が残った。


 安全。


 俺は、

 一度もそんな言葉を使っていない。


 昼。


 評議体で、

 報告が上がる。


「周辺から、

 移ってきたいという相談が増えています」


「理由は?」


「……安全だから」


 胸の奥が、

 少しだけ冷える。


「受け入れ基準は、

 変えていないな」


「はい」


「では、

 なぜ増える」


 答えは、

 明白だった。


「期待です」


 セレナが、

 静かに言った。


「ここなら、

 守ってもらえるという」


 違う。


 だが、

 否定しきれない。


「……説明は?」


「しています」


「守らない」

「保証しない」


「それでも、

 来ます」


 人は、

 聞きたい部分だけを聞く。


 夕方。


 門の前で、

 小さな揉め事が起きた。


「どうして、

 入れてくれない!」


 若い男が、

 声を荒げる。


「ここは、

 安全なんだろ!」


 その言葉で、

 周囲がざわつく。


「安全ではない」


 俺は、

 はっきり言った。


「通れるだけだ」


「嘘だ!」


 男は、

 叫ぶ。


「兵も来ない!」

「奪われない!」


「それが、

 安全じゃないなら何だ!」


 論理が、

 すり替わっている。


「……違う」


 俺は、

 言葉を選ぶ。


「今は、

 偶然そうなっているだけだ」


 偶然。


 それが、

 一番伝わらない。


「じゃあ、

 守れよ!」


 別の声。


「人が増えてるんだ!」

「責任があるだろ!」


 責任。


 その言葉が、

 重く落ちる。


「……ない」


 短く答える。


 空気が、

 一瞬凍る。


「ここは、

 守る場所じゃない」


「選ぶ場所だ」


 それだけで、

 十分なはずだった。


 だが。


「じゃあ、

 なんで立ってる!」


 誰かが、

 叫んだ。


 答えられなかった。


 夜。


 焚き火の前で、

 セレナが言う。


「……期待は、

 裏切られたとき、

 恨みに変わります」


「分かってる」


「それでも、

 止められません」


 人は、

 希望に集まる。


「……俺は、

 守らない」


 もう一度、

 自分に言い聞かせる。


「だが、

 追い出しもしない」


 それが、

 限界だ。


 遠くで、

 子どもの声がする。


 笑っている。


 それが、

 一番怖い。


 俺は、

 焚き火を見つめながら、

 静かに思う。


 守らないと、

 言っている。


 だが、

 人は守られていると感じている。


 そのズレが、

 いつか――

 線を壊す。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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