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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


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第41話 踏み越えない線

 異変は、

 夜明け前だった。


「……人が、

 増えています」


 見張り役の声は、

 低かった。


 慌てていない。

 だが、

 軽くもない。


 丘の上から、

 街道を見下ろす。


 確かに、

 いつもより多い。


 商人ではない。

 巡礼でもない。


 装備が、

 揃いすぎている。


「所属は?」


「不明です」


 それが、

 一番嫌な答えだ。


 俺は、

 少し考えた。


 ほんの数秒。


「……止めるな」


 即座に、

 そう言った。


 周囲が、

 一瞬ざわつく。


「通すのですか」


「通す」


 いつも通りの答え。


「だが、

 迎えもしない」


 人の一団は、

 街道を進んでくる。


 数十名。


 兵にしては、

 少ない。


 商隊にしては、

 多い。


 距離が縮まる。


 彼らは、

 こちらを見ない。


 旗もない。

 号令もない。


 まるで、

 存在しないかのように

 通ろうとする。


「……怪しいな」


 誰かが呟く。


「だから、

 止めない」


 俺は、

 そう答えた。


「止めたら、

 線を越える」


 境目に差しかかった瞬間、

 一団の動きが止まった。


 誰かが、

 こちらを見る。


 目が合う。


「……ここは、

 通れるのか」


 男が聞いた。


 声は、

 普通だった。


「通れる」


「守られるか」


 予想通りの質問。


「守られない」


 俺は、

 はっきり言った。


 男は、

 一瞬だけ目を細めた。


「命令ではない」


 彼が言う。


「誰の命令でもない」


 それが、

 答えだった。


 沈黙。


 風が吹く。


 その間に、

 理解が進む。


 これは、

 試しだ。


「……分かった」


 男は、

 そう言った。


「通らない」


 意外な返答。


 一団は、

 踵を返す。


 去り際、

 男が言った。


「線は、

 踏み越えない」


 それだけだった。


 丘の上が、

 静まる。


 誰かが、

 息を吐く。


「……良かったのですか」


 セレナが、

 小さく聞く。


「分からない」


 正直な答えだった。


「だが、

 踏み越えさせなかった」


「通すと言ったのに?」


「通れると言っただけだ」


 言葉遊びのようだが、

 違う。


 夜。


 別の報告が入る。


「周辺の村で、

 噂が出ています」


「どんな」


「“あそこは、

 踏み越えると戻れない”と」


 胸が、

 少しだけ痛む。


「……誰も、

 踏み越えていないのに」


「だからです」


 セレナが、

 静かに言う。


「踏み越えなかった、

 という事実が、

 意味を持ち始めています」


 俺は、

 焚き火を見つめた。


 守っていない。

 止めてもいない。


 それでも、

 人が引き返した。


「……線は、

 引いていない」


 呟く。


「だが、

 踏み越えない線は、

 できてしまった」


 それが、

 怖い。


 その夜。


 赤の陣営でも、

 青の陣営でも、

 同じ報告が上がっていた。


命令ではない動きが、

引き返した。


 誰が止めたのか、

 分からない。


 それが、

 最悪だった。


 均衡は、

 まだ崩れていない。


 だが、

 傷は入った。


 踏み越えない線は、

 踏み越えた瞬間、

 戦場になる。


 その予感だけが、

 静かに広がっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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