表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/58

第30話 怖いという感情

 夜は、静かだった。


 見張りの合図も、

 巡回の足音も、

 すべて規則通り。


 完璧だ。


 ……だから、

 落ち着かなかった。


 焚き火の前に座り、

 帳面を閉じる。


 今日は、

 新しい判断はしていない。


 それでも、

 頭が休まらない。


 数字。

 記録。

 危険度。


 あの記録官の声が、

 何度も蘇る。


「……眠れませんか」


 セレナの声。


 顔を上げると、

 彼女が立っていた。


 いつもの落ち着いた表情。

 だが、

 少し疲れている。


「……ああ」


 短く答える。


 それ以上、

 言葉が続かない。


 しばらく、

 二人で焚き火を見つめた。


 沈黙が、

 重い。


「今日の記録官」


 セレナが、

 先に口を開いた。


「どう思いましたか」


 逃げられない問いだ。


「……理解できた」


 正直な答えだった。


「数える理由も」

「線を引く理由も」


 セレナは、

 何も言わない。


 続きを待っている。


「それが、

 怖い」


 ようやく、

 口に出た。


 自分でも、

 驚くほど小さな声だった。


「分かってしまった」


「覇王が、

 どうしてそうするのか」


「合理だ」

「守るためだ」


 言葉にするほど、

 胸が苦しくなる。


「……俺も、

 同じことを始めている」


 門の前で、

 人を選んだ。


 帳面で、

 基準を固めた。


 志願者を、

 数で見た。


 否定してきたことを、

 少しずつ。


「俺は、

 ああなりたくない」


 はっきり言う。


「人を、

 数字で切る側には」


 セレナが、

 小さく息を吐いた。


「それでも」


 彼女は、

 静かに言う。


「完全には、

 避けられません」


「……分かってる」


 分かっている。


 だから、

 怖い。


「怖いという感情を、

 失ったら」


 俺は、

 焚き火を見つめたまま言う。


「きっと、

 止まれなくなる」


 誰も、

 止めてくれない。


 俺自身も。


 セレナは、

 しばらく黙っていた。


 やがて、

 低く言う。


「……それなら」


「怖いままで、

 いてください」


 意外な言葉だった。


「怖いと、

 言い続けてください」


「判断するたびに」

「人を見るたびに」


 彼女は、

 こちらを見た。


「それが、

 あなたの“基準”です」


 胸の奥で、

 何かがほどけた。


 完全ではない。


 だが、

 折れずに済む気がした。


「……俺は、

 強くない」


 初めて、

 はっきり言った。


「賢くもない」

「決断が早いだけだ」


 セレナは、

 首を振る。


「違います」


「あなたは、

 怖いと言える立場に、

 立っている」


 それは、

 強さでも、

 弱さでもない。


 位置だ。


 夜が、

 少しだけ和らいだ。


 眠れる気は、

 まだしない。


 だが、

 潰れる気もしなかった。


 俺は、

 焚き火の火を見つめながら、

 静かに誓う。


 怖いままで、

 立ち続ける。


 人を、

 人のまま見るために。


 それが、

 俺の戦い方だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ