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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第27話 志願者

 朝、天幕の前に人が集まっていた。


 配給でも、

 交渉でもない。


 それが、

 一目で分かった。


「……何だ?」


 声をかけると、

 人々が一斉にこちらを見る。


 視線の中に、

 決意が混じっている。


 嫌な予感がした。


「志願です」


 前に出た男が、

 はっきり言った。


「何の」


 分かっていて、

 聞いた。


「守るための」


 その言葉が、

 胸に刺さる。


 男だけじゃない。


 後ろには、

 十人以上。


 農具を持つ者。

 古い剣を腰に下げた者。

 包帯を巻いたままの者。


 誰一人、

 命令されていない。


「……頼んでない」


 俺は、

 静かに言った。


「必要だと思っただけです」


 男は、

 引かなかった。


「昨日も、

 門の前で揉めた」


「次は、

 石じゃ済まない」


 正論だった。


 だから、

 怖い。


「武装は、

 許可していない」


「だから、

 志願です」


 言葉が、

 噛み合っていない。


 だが、

 現実は噛み合っている。


 人は、

 守りたくなった。


「……帰れ」


 短く言う。


 空気が、

 張り詰めた。


 誰も動かない。


「命令じゃない」


 男が言った。


「お願いもしない」


「ただ、

 ここに立つ」


 立つ。


 その言葉が、

 嫌だった。


 セレナが、

 小さく息を吸う。


「一度、

 整理しましょう」


 俺は、

 首を振った。


「整理するな」


 思ったより、

 強い声が出た。


「整理した瞬間、

 組織になる」


 志願者たちが、

 ざわつく。


「組織でもいい」


 別の声。


「ここを守れるなら」


 それが、

 一番危険な考えだ。


 守るためなら、

 何でも正当化される。


「……違う」


 俺は、

 一歩前に出た。


「ここは、

 戦う場所じゃない」


「戦わせるつもりもない」


 言葉に、

 嘘はない。


 だが、

 止まらない。


「でも、

 戦われる可能性はある」


 男が言う。


「だったら、

 備えるべきだ」


 論理として、

 完璧だった。


 それが、

 恐怖だった。


「……名前を、

 使わないでくれ」


 気づけば、

 そんなことを言っていた。


「俺の名前で、

 集まるな」


 沈黙。


 そして、

 誰かが呟いた。


「もう、

 遅い」


 その言葉で、

 理解した。


 俺は、

 呼んでいない。


 だが、

 呼ばれてしまった。


「……解散しろ」


 もう一度言う。


 今度は、

 強く。


「武装するな」

「訓練もするな」


「勝手に、

 戦力になるな」


 矛盾だらけの命令。


 だが、

 聞かせなければならない。


 志願者たちは、

 ゆっくりと下がった。


 完全には、

 納得していない。


 それが、

 分かる。


 昼。


 報告が上がる。


「見張り台の周りに、

 勝手に詰所が作られています」


「夜間巡回が、

 増えています」


 俺は、

 何も言えなかった。


 止めたはずだ。


 だが、

 動いている。


 夕方。


 帳面に、

 新しい項目が増えていた。


・自警行動(非公式)


 誰が書いたか、

 分からない。


 だが、

 存在している。


 夜。


 焚き火の前で、

 拳を握る。


 怖い。


 初めて、

 はっきりと。


 人が集まることが、

 怖い。


 善意が、

 刃に変わる瞬間を、

 見てしまったからだ。


 俺は、

 低く呟いた。


「……俺は、

 軍を作らない」


 誰に言ったか、

 分からない。


 だが、

 それは誓いだった。


 守るために、

 壊れる道は、

 選ばない。


 そのはずなのに――


 焚き火の向こうで、

 誰かが剣を研ぐ音がした。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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