第24話 誰を残すか
翌朝、帳面が机に置かれていた。
開かれている。
つまり――
待っていた。
「……これは?」
俺が聞くと、
セレナは一瞬だけ目を伏せた。
「昨日、門の外に残った人たちです」
紙には、簡潔な記録が並んでいる。
・名前(分かる者のみ)
・人数
・状態
・技能
冷たいほど、整っていた。
「……何のためだ」
分かっていて、
聞いた。
「判断材料です」
即答だった。
「今日も、
全員は入れません」
胸の奥が、
鈍く痛む。
昼前、
再び門の外に人が集まった。
昨日、残された顔。
新しい顔。
皆、
“規定”を知っている。
だから、
騒がない。
それが、
何より残酷だった。
「……基準は?」
誰かが聞いた。
怒りではない。
期待でもない。
確認だ。
俺は、
言葉を探した。
「昨日と、
同じだ」
そう答えると、
安堵と絶望が、
再び走る。
だが、
それで終わらなかった。
「昨日は、
子どもがいる家族だった」
一人の女が、
前に出た。
「今日は?」
問いは、
鋭い。
俺は、
答えなかった。
答えられなかった。
昨日の判断は、
今日の基準になる。
今日の判断は、
明日の前例になる。
それを、
はっきり理解してしまった。
「……技能のある者を、
優先する」
口に出した瞬間、
胸が締め付けられる。
「農具の扱い」
「医療の心得」
「建築の経験」
言葉を重ねるほど、
顔が曇っていく。
「子どもは?」
昨日入れた家族の、
父親が聞いた。
「……昨日は、
優先した」
それが、
答えだった。
昨日は、昨日。
今日は、今日。
ざわめきが起きる。
小さい。
だが、確実だ。
「……つまり」
誰かが、
呟いた。
「今日は、
役に立つかどうか、ですか」
言い返せなかった。
それが、
何よりの答えだった。
選別は、
静かに進んだ。
名前を呼ぶ。
中へ通す。
呼ばれない者は、
黙って下がる。
怒鳴る者はいない。
だが、
視線が刺さる。
昼過ぎ。
門が閉まる。
昨日より、
音が軽く感じた。
それが、
一番怖い。
「……慣れてはいけない」
俺は、
自分に言い聞かせた。
だが、
慣れ始めている。
判断が、
速くなっている。
セレナが、
静かに言った。
「基準が、
固まりましたね」
「……固めたくなかった」
「固まります」
彼女は、
淡々と続ける。
「人は、
基準がないと、
動けません」
それが、
正しいことだと分かる。
分かるから、
苦しい。
夕方。
村の中で、
小さな口論が起きた。
「俺は残った」
「お前は残れなかった」
声は低い。
だが、刃がある。
俺は、
止めなかった。
止める言葉が、
もうない。
夜。
焚き火の前で、
帳面を見返す。
今日、
何を基準にした?
役に立つか。
続けられるか。
守れるか。
――残酷だ。
だが、
現実だ。
俺は、
はっきり理解した。
選別は、
一度始めたら、
終わらない。
善意で引いた線は、
いつか刃になる。
それでも、
引いたのは俺だ。
逃げなかったから。
守ると決めたから。
その代償として。
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