第23話 入れない理由
門の外に、人が並んでいた。
列というほど整ってはいない。
だが、誰も騒がない。
それが、
逆に嫌だった。
「……昨日より、多いな」
見張りの兵が、低く言う。
「二十七人」
「内訳は……家族連れが多い」
胸の奥が、
静かに沈む。
ここ数日、
流入は落ち着いていた。
その“反動”だと、
分かってしまった。
「噂を聞いたそうです」
セレナが、帳面を見ながら言う。
「規定ができた」
「守ってくれる場所だ」
人は、
安心できる場所を嗅ぎつける。
そして――
間に合わなかった人ほど、
必死になる。
俺は、門の外に出た。
大人。
子ども。
老人。
汚れた靴。
擦り切れた服。
戦場で、
何度も見た顔だ。
助けたかった顔だ。
「……全員、入れるわけじゃない」
言葉にした瞬間、
空気が張り詰めた。
怒号は上がらない。
ただ、
息を呑む音が重なる。
「今日は、
受け入れられる人数に限りがある」
続けるたびに、
喉が渇く。
「理由は?」
一人の男が、
静かに聞いた。
責める声じゃない。
だから、
余計に苦しい。
「……食料だ」
俺は、正直に言った。
「水も、寝床も、
無限じゃない」
誰も否定しない。
否定できない。
「では」
別の声。
「誰が、
残れるんですか」
答えが、
すぐに出ない。
出るはずがない。
沈黙が、
長く続いた。
俺は、
全員の顔を見た。
顔と、
顔と、
顔。
数字じゃない。
一人ずつ。
「……今日は」
ようやく、
口を開く。
「子どもがいる家族を、
優先する」
その瞬間、
空気が変わった。
安堵と、
絶望が、
同時に走る。
「……俺たちは?」
独り身の男が、
ぽつりと聞く。
「怪我もしてない」
「働ける」
正しい主張だ。
否定できない。
「……すまない」
それしか、
言えなかった。
列の後ろで、
小さな泣き声がした。
子どもだ。
母親が、
必死に口を塞いでいる。
その光景が、
胸に突き刺さる。
助けたい。
全員。
だが――
助けられない。
「今日は、
ここまでだ」
俺は、
そう告げた。
誰も、
怒鳴らなかった。
それが、
何よりきつい。
門が閉まる。
音は、
小さい。
だが、
はっきり聞こえた。
閉めたのは、
俺だ。
中に入ると、
人々が迎えた。
「ありがとう」
「助かりました」
感謝の言葉が、
重くのしかかる。
外に残した人間の分だけ。
夕方。
セレナが、
静かに言った。
「……正しい判断です」
「正しくない」
即答だった。
「正しいなら、
こんな顔はしない」
彼女は、
何も言わなかった。
否定も、
肯定も。
夜。
焚き火の前で、
一人座る。
今日、
何人を助けた?
何人を、
置いてきた?
数えられない。
数えたくない。
だが、
一つだけ分かっている。
今日、
初めてはっきりと。
俺は、人を選んだ。
逃げなかった結果、
守ると決めた結果。
それでも――
救えなかった。
これが、
制度の始まりだ。
善意が、
線を引く瞬間だ。
俺は、
焚き火を見つめながら、
静かに思った。
――これは、
戻れない。
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