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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第22話 仮のはずだった

 朝、天幕の中が騒がしかった。


 怒鳴り声はない。

 だが、紙の音が多い。


 それだけで、

 嫌な予感がした。


「……これは何だ」


 机の上に、

 束ねられた紙が置かれている。


 帳面。

 記録。

 そして――

 規定書。


「仮規定です」


 セレナが、即答した。


「昨日の判断を、

 整理しました」


 胸の奥が、

 静かに軋む。


「……誰に聞いた」


「皆です」


 それが、

 一番まずい答えだった。


 紙には、簡潔な文が並んでいた。


・通行の条件

・交渉窓口

・責任範囲

・例外時の判断


 どれも、

 昨日俺が口にした内容だ。


 ただし。


 曖昧さが、削られている。


「……俺は、

 “仮”だと言ったはずだ」


「はい」


 セレナは、頷く。


「ですから、

 仮規定です」


 言葉遊びではない。


 本気だ。


「問題がある」


 俺は、

 一つずつ指を置く。


「これは、

 俺の名前を前提にしている」


 そこには、

 はっきり書いてあった。


――最終判断者:リクス・エン


「外せ」


 短く言う。


 セレナは、

 少し考えた。


 そして、

 首を横に振った。


「外せません」


 即答だった。


「外した瞬間、

 誰も責任を取れなくなります」


「……別の形があるだろう」


「ありません」


 静かな否定。


 沈黙が落ちた。


 帳面を閉じる音が、

 やけに大きく聞こえる。


「これは、

 私の意思ではありません」


 セレナが、

 低く言った。


「人が、

 あなたの名前を

 必要としています」


 それが、

 何より怖い。


 昼前。


 規定は、

 配られ始めた。


 紙切れ一枚。

 だが、

 重い。


 人々は、それを見て、

 安心した顔をする。


 ルールがある。

 守ればいい。


 それだけで、

 人は落ち着く。


 ……俺を置き去りにして。


「……止めないのですか」


 兵の一人が、

 恐る恐る聞いた。


 止めれば、混乱する。

 止めなければ、既成事実になる。


 分かっている。


「……今日は、

 止めない」


 そう言うのが、

 精一杯だった。


 夕方。


 丘の上で、

 風に当たる。


 見張り台が、

 さらに増えていた。


 命令していない。

 相談も受けていない。


 だが、

 必要だと判断された。


 俺の知らないところで。


「……名前を、

 外すべきでは?」


 セレナが、

 再び聞く。


 俺は、

 しばらく黙っていた。


「外したら、

 誰が立つ」


 自分でも、

 嫌な言い方だと思った。


 彼女は、答えない。


 答えられない。


 夜。


 焚き火の明かりの下で、

 人が規定を読み返している。


 文字を追う目は、

 安心している。


 誰が決めたかより、

 何が決まっているか。


 それで十分なのだ。


 俺は、

 自分が“必要とされている”

 という事実から、

 目を逸らせなくなっていた。


「……仮のはずだった」


 小さく呟く。


 だが、

 もう誰も

 それを“仮”だとは

 思っていない。


 名前が、

 紙に残った。


 それだけで、

 戻れなくなる。


 俺は、

 はっきりと理解した。


 組織は、

 人の覚悟を待たない。


 覚悟の有無に関係なく、

 形を作り、

 名前を必要とする。


 そして、

 その名前が――

 俺だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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