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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第21話 代表ではないと言ったはずだ

 門の前で、行商の一団が足止めされていた。


 柵の外。

 五人。

 武装は最低限。


 だが、

 中に入ろうともしない。


 誰かを待っている。


「……何をしている」


 俺が声をかけると、

 全員が一斉にこちらを見た。


 その反応で、分かる。


 理由は一つだ。


「代表者は?」


 行商の男が、

 当たり前のように聞いてきた。


 胸の奥が、

 嫌な音を立てる。


「いない」


 即答した。


「この場所には、

 代表はいない」


 男は、困った顔をした。


「では……

 誰と話せば?」


 誰とも。


 そう言いたかった。


「……通行の話か」


 俺が聞くと、

 男は頷いた。


「ええ。

 ここを通る許可を」


「今まで、

 そんなものはなかった」


「今までは、です」


 正論だ。


 今はもう、

 ただの村じゃない。


「勝手に通っていい」


 俺は、そう言った。


 それで終わるはずだった。


 だが。


「責任は?」


 男が、静かに聞く。


「盗賊が出た場合」

「争いが起きた場合」

「損害が出た場合」


 質問が、

 矢のように飛ぶ。


 誰が責任を取る?


 誰が保証する?


 誰が、止める?


 俺は、

 答えられなかった。


 答えがないからだ。


「……では、

 通れません」


 男は、

 淡々と結論を出した。


「誰とも話せない場所は、

 通過できない」


 行商たちは、

 そのまま動かない。


 脅しではない。


 判断だ。


「……少し待て」


 俺は、

 無意識に言っていた。


 それだけで、

 周囲の空気が変わる。


 兵たちが、

 こちらを見る。


 セレナが、

 一歩前に出る。


「代表ではありません」


 セレナが、

 行商に言った。


「ですが、

 交渉窓口はあります」


 俺を見る。


 逃げ場はない。


「……俺だ」


 声が、

 自分のものとは思えなかった。


「俺が、話す」


 それで、

 全てが動き出した。


 天幕の中。


 行商の男は、

 態度を改めていた。


「護衛は不要」

「通行料も不要」


「ただし」


 俺は、言葉を選ぶ。


「争いを起こすな」

「規模を報告しろ」

「問題が起きたら、

 俺のところに来い」


 それは、

 命令に近い。


 だが、

 拒否されなかった。


「……分かりました」


 男は、深く頭を下げた。


「“話が通じる”とは、

 本当だったようだ」


 その言葉が、

 胸に重くのしかかる。


 交渉が終わると、

 行商たちは動き出した。


 門が開き、

 人の流れが戻る。


 止まっていたものが、

 動き出す。


 ただ一人の判断で。


「……だから言ったでしょう」


 セレナが、

 低く言った。


「あなたが立たなければ、

 外が止まる」


「代表じゃない」


 俺は、

 そう言い返す。


「そうですね」


 彼女は、否定しない。


「ですが、

 代表の役割は、

 すでに果たしています」


 言い返せなかった。


 夕方。


 丘の上から、

 街道を見る。


 行商の列が、

 ゆっくりと進んでいく。


 止めたのは、

 誰でもない。


 俺だ。


 動かしたのも、

 俺だ。


「……立つと、

 責任が生まれる」


 独り言のように、

 呟く。


 だが、

 立たなければ、

 何も進まない。


 夜。


 帳面を見返す。


 今日決めたことが、

 もう“前例”になっている。


 修正はできる。

 否定もできる。


 だが、

 一度立った以上、

 無かったことにはできない。


 俺は、深く息を吐いた。


 代表ではない。


 だが――

 立ってしまった。


 それだけは、

 紛れもない事実だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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